\documentclass[a4paper, 11pt]{jsbook} \usepackage[dvipdfm]{color} \usepackage[dvipdfm,bookmarks=true,bookmarksnumbered=true,bookmarkstype=toc]{hyperref} \usepackage[dvips]{graphicx} % \usepackage{wrapfig} \usepackage{okumacro} \usepackage{tabularx} \usepackage{longtable} \usepackage{makeidx} \makeindex \begin{document} \setlength{\baselineskip}{18pt} \title{ニグロフォビア――黒んぼ恐怖症:都会的寓話 \\ Negrophobia} \author{ダリウス・ジェイムズ\thanks{\copyright 1990 Darius James}著 \and 山形浩生訳\thanks{\copyright 1994}} \maketitle \tableofcontents わがロアたちにも増して本書の完成を可能にしてくれた ジョイ・グリッデンに このおれの存在を可能にしてくれた わが父 ウォルター・エドワード・ジェイムズに そしておれの冗談なら何でも笑ってくれる わが妹 ジェリ・コレット・ジェイムズに あなたも黒んぼ恐怖症(ニグロフォビア)? 次の写真を見てください。 1)赤面して顔を覆いつつも、指の間からクスクス笑いをもらしていますか? 2)子供時代に食べたチョコレート人形が食べたくなってよだれが出ますか? 3)四百年に渡る人種差別的抑圧に対する闘争の中で失われた数多くの命や、コミュニティの意識を高めて革命に導こうとする努力に費やされた時間が、まったくの無駄だったと感じますか? 4)その見え透いた示唆的な識閾下(サブリミナル)メカニズム(悪魔の食物たる暗黒が、陶器の白に縁取られている)を見破り、これが若いしなやかな肉体の白人女性を、ギョロ目の黒んぼと寝るよう誘惑する人種破壊的な小細工であると看破しますか? 5)アフリカのピグミー軍団が今夜にも窓から侵入し、自分を毒矢で攻撃するのではないかという、冷や汗まじりの無慈悲な恐怖に襲われますか? 以上のどれか一つにでも「はい」と答えたあなたは、慢性ニグロフォビアに苦しむ無数の不幸な患者の一人です。 ニグロフォビア(Negropgobia) n. 1)黒人の存在に対する強い反発。 2) 慢性的で誇張された、黒人に対するまったく根拠のない恐怖あるいは嫌悪。 3) 白人なき世界に捕われた少女、バブルス・ブラジルの物語。 ニグロフォビアは創作であり、 作者の想像力の産物である。 生死を問わず、 いかなる人物との相似も、 まったくの偶然である。 ニグロフォビアは創作である。 一言一句が真実。くたばりやがれ。 作者 「ジム、この国の歴史はすべて、白人女の強姦と黒んぼのリンチなんだ。この二つのイメージ」 「イメージがどうしたって?」 「イメージどころじゃない。おれの言ってんのはこの現実の話だ。この国のバカ騒ぎを動かしてんのはそれなんだ。つまり黒んぼのリンチと女の強姦」 スティーブ・キャノン 「深青月下の狂想曲」 ルイス・ファラカーン司教:こちらの女性は、暴力が怖いとおっしゃる。何とも悲しいことではありませんか。我々黒人が、これまですさまじい暴力の犠牲となってきて――そして今は、白人がわれわれからの暴力を恐れているとは。黒人は、白人殺しの歴史など持っていない。白人のほうは、長年我々を殺し続けてきたんです。  そしてあなたがたの恐れているものは――申し上げてよろしいですか?あなたがたの恐れているものは――そしてこれは、あなたがた白人が苦しんでいる深い罪悪感の産物なのですが――あなたがたは、もしわれわれが万が一にも力を得たら、これまでわれわれがあなたがたから受けてきたような仕打ちを、あなたがたやそのご先祖に対してわれわれがするのではないかと、それを恐れているわけだ。つまりあなたがたは、自分の考え方に基づいてわれわれを判断していらっしゃるんだが、それは必ずしも黒人の考え方ではないんです。 ドナヒュー:というところで、続きはこのお知らせの後で。 「ドナヒュー」 一九九〇年三月十四日 番組番号#0314-90 ……遅かれ早かれ、非人間的状態は、抑圧された者を立ち上がらせ、そうした状態に追いやった者たちに対して抵抗させる。この抵抗に意義を持たせるため、抑圧された者は人間性の回復を求める(すなわちそれを創りだす)にあたり、抑圧者の抑圧者と化してしまってはならず、むしろ双方の人間性を回復する者となる必要がある。  つまりこれこそが、抑圧された者たちの偉大なる人間的かつ歴史的使命なのである。すなわち、己れ自身とともに、己れを抑圧する者たちをも解放することだ。 パウロ・フレーレ「抑圧された者の教育学」 時々おれ、この全世界が南部の巨大な小作人小屋じゃねーかと思うんだ。中には黒んぼもいる。で、あとの連中は黒人。 マイケル・オドナヒュー ニグロフォビア  ヴードゥーは、魔術が西欧に見せるアフリカの顔だ。ラディカルで、変幻自在で、幻視的なヴードゥーは、想像力のユニークな武器なのである。その儀礼や儀式や呪文は、右脳機能を刺激するようにつくられている。右脳は、夢や詩、霊、直感、性の中枢である。だから、それを刺激するヴードゥーは、信奉者に強力な創造的駆動を与え、存在の因習的な様式を越えて自己の危険な領域に入り込めるようにしてくれるのである。  ヴードゥーの魔術的なレベルで生じるのは、潜在意識レベルでの現象だ。識閾の下、無意識、原形(アーキタイプ)や感情、我々の原過去が宿る領域で始まる。  意識と無意識のちがいとは、前景と背景のちがいと考えればいい。前景はディテール。背景はパターン。意識は木を見る。無意識は森を見る。  魔術的原形(アーキタイプ)やシンボルを操作することで、意識と無意識により3D効果が生まれ、超意識が生じるのである。  ヴードゥーは宗教であるが、集権化された宗教ではない。ヴードゥーの働きは個人化されている――変容し、形を変え、その場その場、その時々に適応する。  結果として、今日の都市化したアメリカは、新世代のロア(神)を生み出した。鉄とコンクリートから、ラジオとテレビから、マンガや映画から。新しいロアたちは、リズムボックスのリズム、バロウズ的なカットアップ、インダストリアル・ミュージック、パフォーマンス・アートの極北に喚起される。  マルコムXは、ペトロ神殿において新しいロアとして奉られている。  西欧的思考は、今のところ合理主義とキリスト教の教義に根差しており、ヨーロッパとアフリカの間に二項対立を見てしまう1。ヨーロッパは意識の前景をあらわす。アフリカは、無意識の暗闇における醜悪なもの、口にするのも忌まわしいもの、タブーすべての陳列所なのである。  ヨーロッパ意識の「ディテール」がアフリカ無意識の「パターン」と調和すれば、西欧思考にとっての文化的意義は圧倒的なものとなるだろう…… ――スネークスキン博士 「ヴードゥーの驚異的力による黒人男の白人女誘惑ガイド」より オープニング 屋内。マンハッタンのアッパーウェストサイドの高級アパート――ベッドルーム――夜明け。  マリファナたばこの超クロースアップ。銀の灰皿のふちに置かれている。巻き紙は、浜辺で風化した骨のような白さ。巻くというよりひねったような包み方で、細く黒いしわが動脈状に走っている。それが陰影でさらに強調されている。赤い口紅の染みがリング状につき、まるで縮んでミイラ化した男根のようだ。カメラはその全長を、名残惜しげな愛情をこめてなめるようにパン。 SFX:マリファナのくすぶり音は増幅され、大麻の種がはじける音がそれに刻みを入れる。  灰皿はマホガニーの袖机の上に置かれている。机の表面にはぼんやりとした光の反射が散っている灰皿の隣には三日月形の箱が開かれている。レースのフリルと金紙だらけ。星をちりばめた箱のふたには、次のようなことばがエンボスされている: ルイス・ファラカーン司教の「イスラームの神の食物」 己れのためのデザイナー・チョコレート 「アッラーも召し上がる! そしてあなたも!」  無数の折り目の入りの紙製棺桶に包まれて、箱のふちからこぼれ落ち、テーブルの上一面に散らばっているのは、トルコ帽をかぶったカエル面のチョコレート人形の群れ。その色目使い人形のそれぞれはイライジャ・ムハマド尊師との類似を示している。それぞれ、その小さなチョコレート製のこぶしに、自分のキャンデー製性器を握り締めている。ホワイト・チョコレートの飛沫がももに散っている。  ひねった巻紙のまばゆい白、灰皿の輝く銀、キャンディー箱の金紙は、ベッドルームを包む暗闇と鋭いコントラストをなしている。  カメラ、マリファナたばこから渦巻く、ヘビのような煙のリボンを、ゆっくりと上に傾きつつたどる。ショットは中空で止まり、そこで煙の渦巻きが集まって、エキゾチックな文字でタイトルを構成: ニグロフォビア  タイトルは闇に霧散。煙と薄暮の中をドリー。黒焦げの気取ったパンプスが、釘に飾られたリボンの端からぶら下がっている。茎の長い、バラのドライ・フラワーが釘の頭にかかっており、その花びらは開いた陰唇のように広がっている。  マリファナの煙が薄れて灰色の霞となり、ティーン少女の声がどこからともなく響く。その声は、大麻による無気力状態から覚醒剤フリークの狂乱状態へと変調がかかる: ヤク漬けティーン少女 (ナレーション) 十三才の誕生日、思春期に起こりうる淫夢に次いで一番ホットなものが、性転換ロックじゃないという恐ろしい発見以来……  気取ったパンプスが薄暮の中に消える。  カメラがパン、壁にエアブラシで描かれた巨大唇を横切る。ふくれていてネグロイドっぽい唇で、かすかに舌と歯と唾液が見えている。  パンの終わり近く、カメラは描かれた口からのびた、細い吸血鬼の牙を映し出してしまう。  煙と薄暮にディゾルブ。煙は乱れるように渦巻く。雑然とした「ロッキー・ホラー・ショー」マニアたちが、ポラロイド写真のコラージュとして現われ、それがゆっくりとモザイク処理されつつ、ぼんやりした灰色のもやから明瞭なカラー映像となる。プリンのようにソフトな若者(ガキども)が、ギラつく気取ったパンプスにきついカットオフ・ジーンズをはいていて、その縫い目沿いにスリットが入り、白い太股の逆V字をのぞかせている。ハーケンクロイツ模様のヴァレンタインTシャツの下で乳房をはずませつつ、若者(ガキども)はニューヨークの8番ストリートにある劇場の入り口の前でじゃれあう 若い濡れた口が、通行人の首筋にあてがわれる。牙が光る。肉が裂ける。真紅の細流が、きらめく涙型の滴となって、少女の口の端からあふれる。 ヤク漬けティーン少女 (ナレーション) ロッキー・ホラー・ショーの衣装も、スパンコールの気取ったパンプスもみんな燃やした……  煙と薄暮にディゾルブ。鏡表面を下へとなぞる。その楕円形の鏡の派手なブロンズ製フレームは、異教のバッカス祭の光景の浮き彫りで飾り立てられている。鏡の左隅に、ロウソクの炎が反射してちらつく。 ティーンの爆弾級セックスブロンドの肩越しショット。ブロンド、銀の顔料スティックで顔に8の字を描く。 鏡に映った顔は、不眠だらけの世界には珍しいものだ。惰眠スープの中で見られる顔。繰り返す不気味なイメージのゴッタ煮から浮かび上がる顔。熱にうかされた夢の顔。 顔は古代エジプトで祭られたネコの一種を思わせる。転生輪廻の教えが本当なら、弓型の口の傲慢な感じはそのせいだろう。髪は溢れんばかりのレモン・クリームのカールで、そのそれぞれの先端は綿アメ・ピンクに染められている。革紐を編みこんだ三編みが二本、額の左右から垂れている。アーモンド型の目は大きくヤマネコめいており、淡緑から氷銀にいたる様々な色彩をきらめかせている。鼻は柔らかに妖精っぽくとんがって、右の鼻孔には細いゴールドのピアスリング。 ヤク漬けティーン少女 (ナレーション) ……でもって、本物の六十年代ブタ的価値観排除K-OZMIC (コズミック)FMにチューンインしたフリークになったわ。週末だけのインチキ・ヒッピーなんかじゃない。正真正銘。ジェリー・ガルシアにだっておフェラ。 爆弾ブロンド、顔の8の字をなぞり続け、やがてその楕円が塗りつぶされて円盤二つになる。立ち上がってウェイフェア・サングラスをかけ、鏡の前でポーズをつける。 カメラ、鏡の映像をゆっくり上へとたどる。爆弾ブロンド、メタルペイントのペンで、アナクロ悪魔崇拝じみた記号を書いた、スパイクつきドック・マーテンのブーツをはいている。粘着性黒タイツが、その力強い運動選手のような脚にはりつき、こんもり盛り上がった恥丘を包む。落書きだらけの革ジャケットは、クローム鋲やカミソリ、使用済み注射器で飾られている。ツンとしたピンクの乳輪が、安全ピンの錯乱でつなぎあわされた、裂け目だらけの黒Tシャツのカーテン越しにのぞく。 ヤク漬けティーン少女 (ナレーション) そんで方向転換、ノリを換えて、ヘビ革ヴードゥー靴に履き換え。死ぬほどボップ。指鳴らし。どうにも止まらない娘。男の憧れベビー・ブロンド。みんなあたしとヤリたがる。 あたしは頬から爪先まで性悪な白熱。犬みたいによだれを垂らさせたげる。夢に出てきて熱をあげさせ、ジーンズの中で射精させてやる。だってあたしこそは、ピンナップ・ガールとの白昼夢に君臨する、至高の女王! カメラ停止、ヘッド・ショット。鏡の中の娘、自分の姿に微笑、真珠の柄のカミソリのエッジで頬をなでる。 ヤク漬けティーン少女 (ナレーション) あたしはバブルス。バブルス・ブラジル。心は黄金。ブロンドの恥丘はお手入れ済み、黄金のハート型。 やさしく嘗めて…… バブルス、カミソリを畳んでジャケットの内ポケットに放り込む。ドリー、バブルスの顔アップ。最後のせりふ、前半はおさえて、後半ははじけるように。 バブルス キマリすぎ……なーんてこと、あるわけないだろ! 溶暗 室内。高級アパート――台所――朝。 クロースアップ、太った、茶色い顔の女がスカーフで頭を覆い、サヴァンナ・サルのホミニー・グリットの円筒形の容器でにっこり笑っている。 カメラが引くにつれ、ハンモック型のたるんだ筋肉をした、がっしりした黒い腕が、濃い白いグリットを鋳物の鍋でかき混ぜているのが見えて来る。 SFX: グリットが煮えて沸き立つにつれ、短いおならのようなあぶくが破裂。 鍋からお玉が引き上げられ、ずんぐりした指が生きた白ネズミのしっぽをもってつまみあげると、たちのぼる湯気にさらす。ネズミはそのままあっさり泡立つグリットに投げ込まれる。 小さいピンクの脚で狂ったようにもがきながら、苦悶のネズミは悲鳴をあげ、血を吐き、死ぬ。お玉が鍋に戻され、再びかきまぜ続ける。死んだネズミは、グリットの底に沈む。 黒人女の口が映る。歯ぐきは濃い茶色。歯はカナリア色。 黒い口 あーの坊主、いつんなったら分別ってもんをわきまえてくれんだか。白んぼ女なんかと羽目はずしてっと、いずれ殺されちまうって、口がすっぱくなるほど言ったのにねえ。 カメラ引いて、巨大なあざやかな服に身を包んだ、豊満きわまる女性の姿。むっちりした動物めいた手足と、狂ったような白熱する目をしている。しおれた脱色ブロンドのアフロ・ヘアは、汗でかたまりとがった角の王冠となっていて、スプレーで部分的に染めてある。顔と腕は、皮膚のメラニン色素の欠けた部分が葉のように散っている。左腕の茶色とピンクのよじれたストライプは、虎の毛皮のようだ。マスカラばさみが両目にくっついている。  女中は電話で話しつつ、グリットをかきまぜている。受話器はあごと肩にはさまれている。パンケーキの粉のミックスの箱が開かれ、ボウルに練り粉がはねており、近くのまな板には魚のワタが見える。 女中 (電話に向かって) 言ったって聞きゃしないんだって。石頭ってのか何てのかね。ジョージアで、白んぼ娘といっしょのとこを捕まったレミーおじさんがどうなったか、あの子だって知ってんだろに。 んだとも坊や。あのろくでもねえ貧乏白んぼども、おじさんを縛りあげて、豚みたくさばいちまった挙げ句、黒い尻っぺたをバーベキューにしちまったんだよ。んでもって、それを取り囲んで舌なめずりしながら「ギトギトの黒んぼリブをもういっちょ!」なあんて話してやがったんだからね。 知るもんかい! あの乱杭口のギョロ目のウスラボケが、白んぼ娘なんかとどうしようってんだか、まったく。あのだらチン黒んぼめが、一九二六年以来アレをおっ立てることすらできなかったんだよ! それがあの白んぼ娘のマンコを見たとたん――来る日も来る日もびんびん続き! あのケツのしなびたゼイゼイ腰曲がり黒んぼジジイが、おりゃあ御守り代わりにさわりたかっただけだなんてぬかしゃあがんのよ。あの白んぼ女のマンコが黒んぼの頭のてっぺんとそっくりだったからとかナントカ! コソドロのろくでなしめが。 んにゃ、あの白んぼ女をテンコ盛りにして走り回ってる、あの浮かれ黒んぼなんか、何言ったって通じやしない。テメーがどんなにうまく立ち回ったかだの、気合入ってるかだの、ポケットの札束だの、服がどうのとか、んなヨタばっか! いつかあたしゃ自分で出てって、あの札付き山だし黒んぼのでっかいケツにケリ入れてやる――筋ってもんを通してやるよ、ええ。  メイドの目は驚きで真ん丸になる。口はあんぐりとOの字に開かれる。  バブルス、台所に登場、テーブルについて、目の前のホットケーキの山を見つめる。ホットケーキの中の無数の魚の目玉が見つめかえす。  女中、バブルスの顔に書かれた楕円をにらみつける。  無邪気を装ってにっこりしつつ、バブルスはジャケットのポケットに手をつっこみ、チョコレート人形を一つかみ取り出すと、一つ一つ食べ始める。噛み砕かれたチョコレートが、網の目状に彼女の口に広がる。 女中 (電話に向かって) ルシール、ちょいと後でかけなおさしとくれ。  女中、受話器を壁の電話機に戻す。 女中 バブゥス・ブラジルのお嬢ちゃん! あんたのお顔のその呪わしい落書きは、いったいどういうつもりなんだい? バブルス 我がオーラの正と負のエネルギー・バランスを保つための、魔術的に融合する子宮だよ。 女中 オーラの――なんつーた? バブルス 戦争用の迷彩。 女中 どうせなら、もっと役にたつこと考えとくれよ――どうすりゃ宝くじに当たるかとかさ! バブルス 黒チャンだらけの学校で、白人娘にほかにどうしろってのよ。 女中 気にしなきゃよかろうに。ご両親、あんだけ金を注ぎ込んであんたを私立学校にやったってのに。そしたら何だね。そのお盛んなケツごと蹴り出されちまって! 挙げ句の果てにゃ、金持ちヤク中用の気狂い病院にぶちこまれてさ。諦めなって。黒んぼどもは我慢していただくっきゃないね。  バブルス、顔をしかめて鼻にしわを寄せる。 バブルス だってあの連中、気色悪いしツバ吐くもん! 食べかけの黒んぼ赤ちゃんが、バブルスの口からこぼれる。 女中 だったら吐きかえしてやんだよ。 バブルス あんた、知らないからよ! 女の子には髪引っ張られるし、男にはオッパイつつかれるし! あそこ、クソ動物園だもん! バブルス、赤ん坊をもう一つ食べる。 バブルス 黒チャンども! バブルス、腕を組んで口をとがらせる。 女中 ちょいと、お偉い白人嬢ちゃんよぉ。この台所じゃあ、白が偉いのは、そいつが百六十・の働く黒いケツをけ飛ばせるようになってからだよ!  同胞をあんたに黒チャンよばわりされるのは、気に喰わんね。その言い方だと、あたしらまるで、夜にしげみに隠れて歯ぁ光らせてる何かみたいじゃないか。 バブルス 夜にしげみに隠れて歯ぁ光らせんのは土人よ。黒チャンはニワトリ盗むの。  女中、煮え立つグリットの鍋からお玉を手に取り、振り回す。バブルス、伏せる。メイド、空振り。グリットは壁に叩きつけられ、おっかない氷河状の形へと固まり出す。 女中 よくもまあそんな口がきけたね! バブルス (口をとがらせつつ) だって、ホントだろが…… 女中  いいかい、よっくお聞き、あたしらもう「有色人種」じゃないんだよ、今じゃあんたの言うところの、ネオ・アフリカ系アメリカ人なんだかんね――時代の中で忘れられた人質、差別主義的歴史の捕われ人で、白人アめりカの胃酸で溶けかかってる、抑圧された民族なんだよ――悪臭ふんぷんの白人アメリカのね! バブルス  笑わせんじゃねーよ。抑圧されてんのはあたしよ。でも、あんたなんかにゃわかるもんか。美人の白人だったことなんかないんだから! 女中 そういうあんたは、貧乏黒人だったことなかろうに。 バブルス  ええ、ありがたいことにね! まったく、この御伽噺じみた金髪カールがなかったら、あたしゃとってもやってけないわ。 女中  で、どうせその黒んぼどもが、なんで自分のケツに蹴り入れてんのか、不思議に思ってんだろ! バブルス  思ったりしないよ。わかってるもん。 女中 んな、いろいろわかってんなら、そもそも顔をそんなメチャンコにしちまおうなんて考え、どっから仕入れてきたんだい? バブルス あんたの本から。 女中の目は、偏執狂的な明かりの対となって光りだす。 女中 どの本だい? バブルス 不気味なヤツ。 女中の声は怒りに震える。 女中 どの「不気味なヤツ」だい! バブルス あんたがプエルトリコ人から買ってるヤツ。「便秘を起こすには」「邪眼除け」「ブラック・ハーマンのしゃべる干し首の本」…… 女中、やかんが湯気をたてるような勢いで怒りを爆発させる。 女中 あたしの魔除けをいじくったね! あの本には触んなって言ったろうに! ありゃあたしの神聖な本で、白んぼの見るもんじゃないんだよ! 見せしめに、キツーくぶちのめしてやろかい!  女中、指を鈎状にして、バブルスののどぶえに飛びかかる。その支那人まがいに丸まった爪が、バブルスの脈打つ頚動脈に近づくと、女中は凍りつく。不気味な様子で動けずに立ち尽くす。  女中の目は、眼窩の中をめまぐるしく回転し、やがて彼女は白目をむく。舌が口からだらりとこぼれ、右へ左へと動く。額には玉のような汗が浮き出る。頭が前後にガクガクし、肩がよじられる。 女中 でもって、グリスグリスを頭上に掲げてやる! ヘビがあんたの床ぁ横切る! ネズミが吠えて、あんたのアゴが血を流す! からだが出来物で爆発! ケツの穴が縮んでクソできなくなる!  バブルスの目が、感嘆で見開かれる。これほどイカレた土人は見たことがなかったのだ。  女中は痙攣じみたスネーク・ダンスへとくねりだし、泡をふき、服を引きちぎる。脇毛に汗が光る。魚の目玉入りホットケーキが、フリスビーまがいに台所を飛び交う。ブルース・リーのカンフー「アチョー!」の叫びがジェームズ・ブラウンのR&Bファンクの叫びと入り交じる。女中はうわごとのように『風と共に去りぬ』からまちがった引用をする(「赤んぼ産むことなら何でも知っとりますよ、スカーレットお嬢さま。そこの錆びたコート掛けを取ってくだせぇな」)。めまぐるしくくるくる回転しつつ、女中はしばらく動いてからへたりこむ。口から舌がこぼれる。  バブルス、へたばった女中に近寄って膝をつき、のぞき込む。女中、若い売女のようにゼイゼ息をする。そして目をあける。 女中 さあ、さっさと上に行って顔を洗ってくんだよ! さもないと、この熱いグリットお玉で、あんたの尻を引っ掻き回してやる。 バブルス、飛び上がって台所から駆けだす。女中、長々と高らかに笑う。カメラ、女中の顔に寄ってアップ。 溶暗 室内。地下鉄車内――朝。 SFX: 電車の大きな機関車状の音。 バブルスの顔に描かれた、都市部族的楕円形のアップから、カメラ引いて、地下鉄のプラスチック製シートに押し込められたバブルスのミディアム・ショットへ。列車の揺れが、彼女をも揺らす。 バブルスは看護婦とアル中浮浪者の間にすわっている。看護婦は太った黒人。アル中は黒人で、ブツブツとしゃべり続けている。 アル中は、干からびた、ハイトップのリトル・リチャード的コンクで髪をまとめ、シアター・ディストリクトのゴミ箱で見つけた、廃棄処分の舞台衣装の切れ端を着ている。カビだらけの羽根ボア、スパンコールのひもビキニ、網タイツ、ベトベトの汚物まみれの金ラメジャケット、そして紫のプラットホーム・シューズ。 電車がアルセニオ・ホールのテレビ・トークショーのセットだと思い込んでいるアル中は、テレビカメラに向かって身繕いをし、ハイトップ・コンクになすりつけたジェル染みをなで回す。笑い、膝を打ち、目に見えないタバコをふかす。羽根やスパンコールが床へと漂う。 アル中 一九二〇年頃にはおれもガッポリ稼いでてさ。週に二百(しゃく)五十ドルだぜ! なんでかって? おりゃあ元祖「リトル・ラスカル」だったからよぉ。サンシャイン・サミーがこのおれ! あん頃ぁおれもムーンパイせんせいでさぁ。おうよ。ホントって。ファリーナとかスタイミーとかバックウィーとか――ああいう猿真似連中なんかのずっと前よ。 それと、スクロノもこのおれね。バワリーで、マグシーとサッチと組んで。あのチューチュー野郎のドラキュラ伯爵ともいっしょに暮らしてたっけ。いやぁ、あんにゃろがキメてゃがったのぁ、血ぃなんかとちゃう。おれとドラ公ぁやってたんはduji――やつぁあんなイカレポンチだったんはそのせい――ドラちゃんフラッシュバックして舞いあがっちまったってぁけ! 今じゃおれなんか、一晩5万ドル稼いでんぜ。もちベガス! 大通りのてっぺんに名前がネオンで入って「モーク・ムーンパイとモーター・シティー・ミュールズ!」なんてぁか、モータウンっぽいノリで、ミッキー・マウス手袋、でっかい白塗りくちびると、シンクロ・ダンス・ステップ! 死ぬほどニタついてんの! それとラット・パックともツルんでんだかんな。ディーノやフランク、サミーやジェリーたぁマブダチだし――もちろんやつの片輪のガキんちょどもとだって! おりゃあもうミスターエンターテイメントってなもんよ! スキャットマン・クロサースに何もかも教えてやったのは、このおれだって!  バブルスの右手にすわった看護婦は、アル中を見て嫌悪に目をまわして見せる。車内のほかの乗客の顔にも、苛立ちの色をチラリと浮かべる。アル中はバブルスに向かう。 アル中 よぉネエちゃん、おれぁガキん頃ぁ、おマンチョってなくてよ、うん。おマンチョはまだ見っかってなかったんだ。てのは、おマンチョが初めてメっけったのは、マサ・ジョンソンってヤツが一八二七年にミシシッピーの洞窟でだった。ウズラ狩りに行ったらあったんだと。おマンチョ。穴ぐらにすわってんの。笑ってて。 バブルス、無視しようとするが、女中の呪い返しが効果を発揮しはじめ、バブルスを黒人恐怖状態にさらすにつれ、彼女はしだいに脅えはじめ、からだもしだいに縮こまってゆくかのようだ。 アル中 ……こいつぁ一体なんだ! わかんねーけど、とにかくワセリン塗ってズッコンズッコンやらかしちまおうぜ! ってわけ! 電車が止まる。バブルス、窓から外を見る。 乗客が乗り込んできて、座席にすわり、通路に立つ。牛のように押し込められた身体が、鼻をつく汗できらめく。バブルス、強い黒んぼ臭に鼻をしかめる。 イスラームのクーファ帽をかぶり、床にひきずるようなリネンのローブと、すそを丸く絞ったパンツに先の丸まったスリッパ姿のアルビノが、コンガ・ドラムを抱えて乗り込んでくる。車両の一番奥の、左手のドア際に陣取る。アルビノの肌の色は、生ゼラチンのような尿色。目はウサギのピンク。アフロ・ヘアはニコチンの黄色。 アルビノ、手のひらでコンガ・ドラムを叩く。 アルビノ 聞け 我がヘビが 雄々しき アフリカドラムより すべり出でたるを タ・ダム、タ・ダム 迷える 黒檀の仮面の 地下鉄の子らよ。 象牙の心に 歪められし 漆黒の森。 白人ども 我が ケツしゃぶれ! 怒りの声がオフ・スクリーンから。 声・ (オフ・スクリーン) 太鼓をやめねぁか、この変てこ千夜一夜黒んぼめが。今朝ぁ頭が「ガン眼」してやがんだから! アルビノは、コンガを叩き続ける。 アルビノ こいつは千夜一夜のお伽噺じゃないぜ、ブラザー。こいつはリアルすぎる偽りの国アメリカの悪夢なんだ。それにわたしは黒んぼじゃない。黒んぼは白い悪魔の青い目の中にしか存在しない! わたしの名はアル・シェボップ・シャバズ・ハズレッド。インナー・シティのシャーマン、マウマウ形而上学の祭司にして抑圧されし人民プロパガンダのポップ詩人。アッラーのために二十五セント献じていただけるかな? 声・ (オフ・スクリーン) うぅぅぅっぅ頼むから黙っとくれ、黒んぼさんよ。頭がもう! Yo! この黒んぼの肌って、何色に分類されんのか、誰か知んねーか? 声・ (オフ・スクリーン) それは知らんがでも、そいつんアフロをこすったら、たぶん聖霊かなんかが煙あげて登場して、三つの願いをかなえてくれんじゃねーの? 乗客たち、爆笑。赤面しつつも、アルビノはコンガを叩き続ける。 召使、工場労働者、街角詐欺師、女装ジャンキーや、その他ますます異様なスラムの住人たちが、続々と電車に乗り込んできては四方八方からバブルスに迫ってくる。 悪鬼のような顔の輪が、バブルスの視界の端のあたりでうごめき、そのどれも巨大な血走った目をして、鼻に骨を通し、皿を入れて広げた唇をカタカタ言わせている。 薄暗い不気味さに起因する断片的なイメージが押し寄せ、バブルスの意識を矢継ぎ早につき刺し、都会的パラノイアのキュービスト的肖像へとかたまる。顔のない司教が、その頭蓋骨の空洞をたるんだカサカサの皮膚で包み、身を乗りだしてバブルスの前で手を降り、黙って呪詛を表明する。からだの麻痺した精薄、よだれを流す蒙古症児、ニタつくまぬけ、手足を引きずる四肢麻痺、せむしの小人などが、列車の中をよろよろとうろつき、ブタのようにキイキイブウブウわめきたてつつ、面白そうにバブルスのまわりに群がる。そして彼女の髪や胸をいじくり、喘ぎともいななきともつかない憐れっぽい音をたてる。 怖くて息を荒だて、バブルスは冷たい恐怖に捕われて目を閉じる。 まぶたを開けると、バブルスが鼻先数センチのところに見るのは、開いたチャックからダラリと垂れ下がる金玉。数本の恥毛が、乾いた精液のかたまりでくっついている。 バブルス、顔をあげる。 ジャンキーが、ヤクでうつらうつらしつつ、片手で吊革に捕まっている。その腰は、電車の揺れにともなって前後に揺れる。蒸気機関車の音とコンガの響きが、ジャンキーの腰の振りとシンクロ。 不機嫌な黒人若者二人がジャンキーの両側に立ち、熱にうかされたような激しさでしゃべっている。二人目の不機嫌黒人若者は、杖をならす追従屋。 不機嫌黒人若者1 ……壁から壁まで白んぼだらけ。このオレがよ、北のメイン州で、床一面白んぼといっしょ。オレとブラザーもう一人。っかもそいつぁ勘定にも入んない。ホレ、例のどうしょうもなくわけわかってねぇ上昇志向の黒んぼ。 不機嫌黒人若者2 アンドロイド黒んぼ! 杖で二回叩く。 不機嫌黒人若者1 そっ。白んぼどもの黒んぼ工場でこさえたヤツ。黒んぼ赤ちゃんキャンデー用プロトタイプ。化け物鋳型でできたてホヤホヤ。 不機嫌黒人若者2 クリンゴン2 黒んぼ! 杖で二回叩く。 不機嫌黒人若者1 そっ。黒ンゴン。惑星Xからの土人。しゃべんのも異星語でよ。おれとこの調子っぱずれの野蛮人だけで一面の白人の中。まっとうなジタバグ踊りの土人だったもんで、白人どもがみんなしてオレを見物にきやがった。スベタどもがしょっちゅうわざと偶然パイオツをオレの顔にこすりつけちゃあタマいじくって、「やーん、ナプキンみたーい!」だと。朝んなってシャワー浴びる頃には、股からブロンドまん毛をつかみださなきゃなんなかったぜ! 不機嫌黒人若者1はひざをゆすり、ちんこをつかむ。 不機嫌黒人若者1 ブラザー、撃ちまくってやったぜ! 不機嫌黒人若者2 巨大白マンコ撃ちまくり! 杖を二回ならす。 不機嫌黒人若者1 巨大白マンコ撃ちまくり! おれは全白人人種の完全淘汰を誓ってて、あの悪魔白んぼどもが、ほんの少し匂うだけでも――そのくらいあの白マンコには頭にきた! 黒んぼのいられる場所じゃねや。ジェームズ・ブラウン・レコードのない世界! 不機嫌黒人若者2 ジェームズ・ブラウン・レコードのない世界! 杖を二回ならす。 不機嫌黒人若者1 「ジェット」マガジンのない世界! 不機嫌黒人若者2 「ジェット」マガジンのない世界! 杖を二回ならす。 不機嫌黒人若者1 襟首べとつきグリーンのない世界! 不機嫌黒人若者2 襟首べとつきグリーンのない世界! 杖を二回ならす。 不機嫌黒人若者二人は、血走ったコカイン目でバブルスをねめつける。カメラ寄って、バブルスの顔をアップ。 不機嫌黒人若者1 (オフ・スクリーン) おれの黒ケツとアフロ・ピックの二人きり! 不機嫌黒人若者2が杖を二回ならす。その音がエコーする中、溶暗。 室内。ドナルド・ゴインス高校――教室――昼間 フェードアップ、黒い肌の少女のパンカデリック・ブロンドカール。ゆっくり右にパン、オーバラップ・ディゾルブ、左右にパンして教室の生徒達の顔を映し出す。それぞれグロテスクの恐ろしいカリカチュア。 バブルス (ナレーション) うちの高校は黒ンボだらけ。それもセントラルパーク東の高級アパートに住んでるみたいな、低能グズのギョロ目の、コンパクトぱこぱこの黒ンボじゃない。上昇志向に取り憑かれた、どうしょうもない脱色黒ンゴンともちがう。ホントの黒々黒んぼ――悪夢じみたやつら! イカレたエンゼル・ダスト狂いの黒チャンどもが、わけのわからない単音節をベロベロ、飛び出しナイフをパチパチやっては剃刀をチラつかせんの。どぎつい服のヒップ・ホップのジャングルうさぎどもが、でっかいうるさいラジオ(白人に言わせると『スペイジオ』)を抱えてぶくぶく泡立つ紫ソーダ飲んで、ポークフライにオレンジの粉かけた乾燥ポテトチップをつぎつぎ空けてく連中。股間ぼりぼり黒んぼが、ドッグ副官とか名乗っちゃってヤク射ってんの。唇を皿で伸ばした土人が、あたしを『オザーク山の女悪魔』呼ばわりしてあたしの昼ご飯代を触らせろとか言う。ポーチのぴょんぴょん猿どもが、ヘビメタビートでゲップしてんのとか。パパが言ってた通りの黒んぼども。パパは言ってたわ。もしあたしがいい子にしてなくて、パパの言うことをきかなかったら、こういう黒んぼに遥か彼方の『しつけのない黒んぼ島』へさらわれて、おっきなリボンを頭につけた、真ん丸な目の真っ黒おばちゃんに変えられちゃうよって。 教室のKKKマンガ土人ショーの最後に、カメラは席についたバブルスで止まる。 SFX: 学校の電気式時鈴のハンマー。 立ち上がるバブルス。即座に、ドアへと我先に向かう生徒たちの波に飲み込まれる。押し合うからだともみあううちに、指がさっと彼女の尻の間をなでる。バブルス、飛び上がり、驚きで眉がつり上がる。 バブルス 信じらんない! 室内。ドナルド・ゴインス高校――廊下――昼間 廊下の物理的な構造は、公立学校の機能第一の内装と、ゲットー・スラムの陰気な外装の組み合わせ。雰囲気は混沌としたサーカス・ファンク。 笛が鳴る。ベースラインが響く。生徒たちはワンワンワン。 一見天井がないように見えるこの廊下の果てには、機関銃の銃座つき監視塔が見え、それが有刺鉄線と鉄網フェンスで囲まれ、まわりをドーベルマンの群れがうろついている。監視塔の中には、砲手が機関銃に囲まれてすわっている。監視塔の看板には、弾痕だらけの文字でこう書かれている: ドナルド・ゴインス高等学校 廊下にならぶロッカーはワイルドなデザインの嵐。ヴォーン・ボデ風ニンフが、ひねくれたエッシャー風ガードルをまとい、フェラチオする野球帽の田舎少年の頭上には吹き出しがついて音符とフライド・チキンのかけらが描かれている。マーカス・ガーヴェイ、マルコムX、ボブ・マーレーの巨大なポスターが小麦粉糊で廊下一面にベタベタ貼られている。床に埋め込まれたマンホールから黒、赤、緑の下水蒸気が噴出する。壁からは、車の前半が突きだし、その歯のようなクロームのラジエータ・グリルには飲料水の蛇口が取り付けられている。ドアには鉄格子がはまっている。壁の一部は崩れはじめており、床にレンガが散っている。「バー」「質屋」「救世主キリスト」「あつあつポークチョップ」「ビール冷えてます」というネオンサインが、きぜわしく点滅する。  学生の群集が廊下を満たし、樹脂状のジャマイカ大麻を吸っている。シンナー入り接着剤でべとつく茶色の紙袋を吸引している。小さなワックスのサックからヘロインを鼻に吸い込んでいる。ワイルド・アイリシュ・ローズをガブ飲みしている。クラック吸引器をくわえている。剃刀でけんかしている。ピストルを乱射。お互いをロッカーに押しつけあって、腰をこすりあわせる。盗品を売り歩く。胎児を流産する。ゴスペルを歌う。ブルースをうめく。  百貫デブのブラック・ムスリムが、見事な仕立てのスーツと栗色のネクタイ姿で、廊下の混乱の真ん中にサーカス団長のように立ち、わきの下には新聞の束を抱えている。かれが掲げるのは「ムハマドは語る」紙。一面には「白んぼ悪魔」のマンガが載っている。そのマンガでは、角を生やしたアンクル・サムが、燃える三又槍で黒い司教の尻をつついている。キャプションは以下の通り:「アメリッカは地獄だぜ、黒んぼめが!」 百貫ブラック・ムスリム 新聞どうだい、ブラザー? いらん? どーしたい? 白んぼに気合盗られて穴空けられたか? ’っかりしろってブラザー。テメーんためだって! おれ’んか毎週山ほど買いこむもんね。マンガがたまんねーったら! 白んぼを悪魔とかみたくしちゃってよぉ――ほれ、んな角とか、んなシッポとか、んなとんでもねー足とか――ンと、尻が震えるほど笑っちゃうぜ!  ムスリム爆笑、その豊満な尻が、ゼリーのように震える。  ボトル、レンガ、アフロ・ピックが頭をかすめる中、バブルスはロボットじみたポップロッカー集団の中をさまよう。人間ドラムマシーンがビートにあわせてゲップ。 百貫ブラック・ムスリム んじゃシャバッズ豆パイどお? 黒人根性据えんのにいいんだぜ。知ってっか、豆パイ一切れ喰うと、ブラザーん中にゃブラザー・マイルスのビッチェス・ブリューをA面B面C面D面まで曲屁しちまうんだと。それもあんまし臭くて下賎で、聖イライジャ・ムハマドだって棺桶内でぱっちりお目覚めしちまう!  銃手、ポッパー、ロッカー、ブレイクダンサーの群れを掃射。血が飛び散る。目玉が舞い飛ぶ。頭が破裂。アゴが破砕。内臓ズルズル。どれもロメロ映画的克明さで。 SFX:1974年SLA3 銃撃戦のサントラから採った機銃音。  百貫ムスリムは、爪先から頭まで銃弾だらけとなる。傷口からは血がにじみ、スーツをつたい落ちる。顔も半分吹き飛ばされている。むきだしの骨から肉片をヒラヒラぶら下げつつ、ムスリムは笑いに身を震わせる。そして前のめりに倒れる。そして放屁。騒々しく。ズボンの尻が、その風圧ではためく。茶色のキノコ雲がかれの上に開く。ムスリム、つぶやく―― 百貫ムスリム ……豆パイね、ブラザー。 ――そして死ぬ。  傷一つ負わず、血も浴びず、明らかに不可侵なバブルスは、ぼうっとして何も見えない様子。鼻をならし、ブタの鼻をつけた警官が、黒い革ジャンの襟に「ヒューイを復活させろ!」というバッジをつけた、黒いベレー帽の学生を警棒で殴りつける。脳味噌が飛び散る。これもバブルスの目には入らない。  ニワトリが後ろから飛び出してきて、彼女の肩にとまる。バブルス、身をすくめる。ニワトリ、鳴きながら床に下りる。のどぼとけの飛び出たひょろひょろのティーンが、ニワトリを追ってバブルスの周りをまわる。床のほうに低くかがんで、手はポケットにつっこみ、ひじを曲げて羽ばたかせている。片目を空け、片目は閉じている。 SFX:硬い金属的な回転音。 バブルス、それを聞いて耳をピクリとさせる。回転音は高まって、金属を研ぐような摩擦音になる。それを聞いて、バブルスは歯をくいしばる。 ローラースケートのクイーンがバブルスの背後にやってきて、グルグルと円を描いて滑る。ローラー・クイーンの黒緑赤のジャージには、ピカピカの三日月に浮かぶジェマイマおばさんの顔のレリーフを囲んで次のようなことばが刺繍されている: ジェマイマおばさんの極悪コンパクト・ニンジャ・クイーン  ジャージの伸縮性開口部から突きだした乳房には、黄金の交差したスパーテルが刺青されている。ニンジャ・クイーン、ニヤリと笑う。乳首が硬くなる。ニンジャ・クイーン、グルグルと回転。現われては姿を消す。スケートが速度を落とし、停止する。彼女とバブルス、正面からにらみあう。 ニンジャ・クイーン、ツバを吐きかける。 唾液のかたまりは、バブルスの頬をつたい落ちない。そのまま頬にくっついている。 ニンジャ・クイーン、背を向けて走り去る。バブルス、頬に粘液のかたまりをこびりつかせたまま、廊下に立ち尽くし、震える手でティシューを求めてポケットを探る。見つからないので、指で顔からかき落とそうとする。指先の流動性スライムを気持ち悪そうに見つめている彼女の頭上で。爆竹が破裂。 バブルス、ボトルやレンガやアフロ・ピックが雨あられと降り注ぐ中、「女子」と書かれたドアに向かう。その文字はカッターで切れ目が入れられ、上から「マンコ」の文字が刻まれている。バブルス、ドアを開けて中に入る。 室内。ドナルド・ゴインズ高校――女子便所――昼間。 コンパクト・ニンジャ・クイーン8人――ショルダーパッドとニーパッド、スケートと肩胸だけのジャージを着ている――が奥の壁によりかかっている。マリファナがまわしのみされている。 コンパクト0 ……それが、リンゴを握った赤んぼのゲンコツなんてんじゃ済まないモノでさ! なんてか、口にビー玉つめこんだ緑のイモムシみたいなグロいの! でその黒んぼの口がまたアレでさぁ。「おめーのオマンチョ濡れ濡れだろが、グチョグチョ垂らしてんのが見え見えだぜ!」んで白目ぇむいて、目をパチパチさせて、黒公がわめくの。「このエロ娘が、アソコがもうよだれ垂らしてるじゃん!」もう「この玉なし山だしが、何わめいてんだ、このバーカ」ってな感じ! コンパクト00 だったらなんでヤラせんのよ。 コンパクト0 だって、そりゃやっぱさ、アレじゃん―― バブルスが便所に入ると、ニンジャ・クイーンたちは振り返って、冷たい視線を浴びせる。バブルス、ドアに背中をおしつけて立ち止まる。 一同を無視してバブルスは右手の壁にならぶ陶製の流しに向かう。流しの上の壁は、一面の鏡張り。バブルス、頬の銀の円盤にこびりついて、かたまりつつある粘液を調べる。 コンパクト25 おやおや、アン嬢ちゃんが便器使いにいらしたよ。 バブルス、鏡に映るニンジャ・クイーンたちを見つめる。 コンパクト6 「あたしのケツを拭けるほどヤらかい紙がないから、あたしゃクソしませーん」みたいに気取っちゃってさ! コンパクト0 しかた知んないんじゃない? コンパクト6 おい嬢ちゃん――クソのしかた、知ってるぅ? バブルスは口を真一文字に結んでいるが、それが震えている。ニンジャ・クイーンたちを鏡で見ながら、そっとジャケットの内ポケットに手をすべりこませて剃刀を取り出そうとする。しかし、これが血を見る結果を招きかねないこと、特に自爆の可能性も高いことに気がついて、それをもとに戻す。 コンパクト25 ウンチの練習でもさせてやろうかね。 コンパクト42 のった! 気晴らし――それもアツアツ! コンパクト25 あの白ケツをこっちにひきずっといで、さっさと始めようぜ! ニンジャ・クイーンたちは二手にわかれる。4人が便所の真ん中に出る。残りは流しのところにやってくる。 コンパクト13がバブルスに接近し、三編みをつかんでひきずりまわす。バブルス、相手を突き飛ばす。コンパクト13、後ろ向きにすべってから転び、尻餅をつく。 バブルス このメス猿、うす汚ねえ手でさわんじゃねーよ! コンパクト13、床から跳ね起きる。喜々として血に餓えた目。 コンパクト13 アン嬢ちゃんったら、マジでやんのかよ! その生っちろいケツなしで、いい根性じゃん。やんのか、こらぁ! ローラースケートで軽くアリ・シャッフルをしつつ、コンパクト13はげんこつをふりまわし、バブルスを小突く。バブルス、小突きかえす。 バブルス このメス猿、うす汚ねえ手でさわんなってったろがぁ! コンパクト13、手を止める。顔をしかめる。吐き捨てる。 コンパクト13 誰が猿だよ、この白んぼ! バブルス 誰が白んぼだよ、この猿! コンパクト13 くぉんのクソあまぁ! にやりとして、バブルスはおどけて身をすくめてみせる。そして果敢にもコンパクト13に歩み寄る。胸と胸をつきあわせて立つ二人。 バブルス しゃぶれよ。 ニンジャ・クイーンたち、バックではやしたてる。 コンパクト・ニンジャ・クイーンたち (オフ・スクリーン) おぉぉぉっとぉぉぉ! 今のキツイよー! トンジャ、白人女にあんなこと言わせといていいのかよ! コンパクト13、混乱して眉をひそめる。 コンパクト13 「しゃぶる」って、何を? バブルス アレだよ! このモロコシパン食らいの抜け作土人が! この発言は、恐怖と憤りと、コンパクト13自身にも名付けられず、バブルスにも理解しがたい悪意を醸成する。彼女はバブルスに平手打ちをくらわせ、さっきのツバのかたまりをはねとばす。ツバは糸をひくが、やっと頬から落ちる。 コンパクト13 モロコシパン、いいねー!トンジャ、モロコシパン好きね! ブタのシッポも! 歌にもあるだろ、トンジャ嬉しいって! コンパクト25 トンジャのモロコシパンやブタのシッポの話って、まるっきしトンジャのママの話みたい! コンパクト13 ママの話なんかしないでよ! バブルスの目は、信じられない様子で真ん丸に見開かれている。後ずさる。 バブルス やっべー! このステロイド漬けモリモリ男女、発狂寸前じゃん!(助けて!) コンパクト13、怒りにまかせて盲滅法に腕をふりまわし、怒った雄牛のように突進して、ローラースケートで転ぶ。床に倒れる。 コンパクト13 ううっ! 彼女が立ち上がろうとするところをバブルスが背中に飛び乗って、ロデオのように彼女を乗りこなす。  怒り狂ったコンパクト13のパット入りの肩にまたがったバブルスめがけ、ニンジャ・クイーンの群れは火のついたマッチを投げつける。 コンパクト・ニンジャ・クイーンたち 殺せ! やっちまえ! ライター燃料はどこ! あのアマ、バーベキューにしてやる! コンパクト13の背中が派手に上下する。バブルス、相手の髪を引っ張り、目に指をつっこみ、鼻にかみつく。ヘッドロックをかけたまま、身を乗り出して、むきだしの黒い乳房にかみつく。 バブルス がぶっ! コンパクト13 (絶叫) このくそアマ、あたしんオッパイ噛みやがった! コンパクト13、酒場のドアのように肩を前後にゆする。バブルスを床に振り落とそうとして背中を前傾させ、勢い余って自分が倒れる。バブルス、もつれあって彼女のてっぺんに落ち、その首を両足ではさみつける。ニンジャ・クイーン、レオタードの股間のVを喰い破る。ブロンドの毛が飛び出す。 うんざりしてコンパクト25がバブルスをコンパクト13の上から突き飛ばす。そして床の真ん中を指差す。 コンパクト25 (オフ・スクリーン) 猿芝居はもうたくさん。その白ケツをこっちに連れといで。 ニンジャ・クイーン6人が、バブルスの三編みの髪をつかんでタイルの上を引きずる。コンパクト25、拳を腰にあててそれを眺める。コンパクト13は隅でうめき、傷ついた乳房を撫でている。ニンジャ・クイーンたち、バブルスを囲んで半円を描く。そして時計周りに飛び出しナイフを開いてゆく。 カチッ! カチッ! カチッ! コンパクト25 (オフ・スクリーン) 立て! バブルス、立ち上がる。 コンパクト25 (オフ・スクリーン) そこでションベンしな! ニンジャ・クイーンたち、ナイフの先でバブルスをつつく。露のような金色の水滴が、彼女のブロンドの恥毛にきらめく。そして脚をつたい落ちる。 バブルス、床の黄色い水たまりにくずおれる。顔の銀色の顔料楕円を涙が滴る。床に胎児状に身をすくめるバブルスのミディアム・ショット。その背後には、たくましい茶色の脚の群れ。 コンパクト19 (オフ・スクリーン) 何、こいつの顔のその呪わしい落書き? コンパクト54 (オフ・スクリーン) オーラの正と負のエネルギー・バランスを保つための、魔術的に融合する子宮だと。 コンパクト19 (オフ・スクリーン) なんでそんなことを? コンパクト54 (オフ・スクリーン) 黒チャンだらけの学校で、白人娘にほかにどうしろってのよ。 溶暗 室内。高級アパート――廊下――午後遅く。 SFX: ドアの鍵が、受け金の中でカチリと開くところ。 バブルス、アパートの明かりの消えた廊下に入り、背後のドアを閉める。物憂げな手の一閃で、ドアの右手の明かりのスイッチを入れると、弱々しい電球が頭上から廊下を照らす。アパートは暗く静かで、その調度は動かぬ影に覆われている。そのこすれるような静寂は、彼女を眠たげな嗜民状態へと誘いこむ。バブルス、ドアにもたれかかる。 腫れた下唇からは、唾液の糸が血とからまって滴り落ちる。粘液と涙が銀の細流のあととなって、頬を汚している。 バブルス、ハイチのサトウキビ畑をさまようゾンビのような、活力の消耗し尽くした様子で、廊下の全長をよろよろと歩きぬける。指先には鍵をつまんでぶら下げている。 SFX:  チャラチャラ鳴る鍵。カーペット上でボコボコ鳴るブーツ。 居間に面した階段のところで立ち止まり、そのたもとの明かりのスイッチを入れる。ボーッとして、フランケンシュタインのような鈍く重たい足取りで彼女は階段を登ぼる。階段のてっぺんで、二階の廊下を見渡す。遠くで、何かの滴る音がくぐもって響く。 バブルス、そのポタッ、ポタッ、ポタッと鳴り続ける音の方向に、不安そうに慎重に歩を進める。自分のベッドルームの半開きのドアの前まできたとき、ブーツの下で何かがグシュッという音をたてたので、足を止める。そして見下ろす。 薄められた血がじゅうたんにしみこんでいる。彼女の首筋に血が滴る。 バブルス、見上げる。霜に覆われて、凍ったニワトリが、ドア枠のてっぺんの釘から針金でぶら下がっている。ニワトリの尻側から滴る血のアップ。 バブルス、血まみれ。血は見上げるバブルスの鼻をつたって流れ、耳に達し、銀の染みと混じって奇妙な模様をつくる。血の滴と銀が散ったバブルスの顔のアップから、カメラ引く。 カットして; 室内。高級アパート――風呂場――午後遅く。 ミディアムショット、湯気でおぼろな風呂場のバブルス。泡でいっぱいの風呂桶に横たわり、片腕と片脚を外に出してブラブラさせている。指の間ではマリファナがくすぶっている。 バブルス、腫れた口にマリファナを運ぶ。大麻がまわって眠たくなった彼女は、目を閉じまいと苦闘。うつらうつらして、マリファナを風呂の中に落とす。ハッと目をさまして顔をしかめ、不審そうにあたりを見回す。そしてついに眠りに落ちる。 ドリー、彼女の頭のまわりを漂う湯気をとらえて、ピントをはずして溶暗。 室内:白子宮劇場 子宮劇場のステージには、乾燥させた後産の膜組織でできたカーテンが下りている。白ガーゼで覆われた壁は、卵の内側のように曲面をなしている。床は平らで磨き立てた白プラスチック製。 バブルスはステージ上で、タピオカ状のゲルの袋にはさみこまれて捕われている。その半透明の袋の中では、巨大な蛍光性のイモムシがうごめいている。ゲルは、押さえのきかない不気味なキノコのように、彼女のからだの凹凸にくっつく。そして彼女の首、後頭部、腕、足首、あばらを包みこむ。ひざは立てられ、曲がり、開かされている。ブロンドのハート形恥毛が、フットライトに照らされて光る。 シルクの白手袋に包まれた手が、彼女の股間に手を差し入れて白ウサギを引っ張りだす。白いタキシード姿で、呪術医がウサギの耳をつかんで掲げる。そしてニヤリとする。 SFX: 拍手、足踏み、口笛に喝采。 呪術医、バブルスの上にかがみこむ。医師の肌は石炭のように真っ黒。目は卵黄の黄色で、アヒルの卵なみにでかい。赤い、ゴム状の口の端には、緑がかった泡がたまっている。やすりで尖らせた歯から垂れるツバには、蝿がたかっている。針金のような髪の毛がピンピン突っ立っている。 恐怖で目を、バブルスは目をそらして観客席を見る。と、そこにいるのは―― トランクスとボクシング・グローブをつけた、ボクサーの構えのジャック・ジョンソン。準軍服をまとったマーカス・ガーヴィーとその支持者たち。ボブ・マーリーとマリファナをわけあうステッピン・フェッチット。ジョージ・クリントン&ザ・Pファンクがデューク・エリントンと。ソニー・リストン、ローザ・パークス。ビル・「ボージャングルス」・ロビンソン。無人のランチ・カウンター。ジャクソン・ファイブ。アダム・クレイトン・パウエル・ジュニア。ベシー・スミス。ジェームズ・ボールドウィン。ボボ・ブラジル。エルドリッジ・クリーヴァー。田舎黒人風に顔を塗ったシャーリー・テンプル。チャーリー・「ヤードバード」・パーカー。ジェマイマおばさん。ハッティー・マクダニエル。バタフライ・マックイーン。ルイーズ・ビーヴァース。スティービー・ワンダー(少年)。スティービー・ワンダー(大人)。ストークリー・カーマイケル。ミリアム・マケバ。モハメッド・アリ。カシアス・クレイ。ニナ・シモン。モムス・マブレー。エンゼルフード・マクスペード。ボビー・シール。ジェームズ・ブラウン。ゾンビージー。プリンス・ランディアンこと「イモムシ男」。アミリ・バラカ。リーロイ・ジョーンズ。ウィリー・ベスト。ファーザー・ディバイン。ウィリー・メイズ。マー・レイニー。ベンジャミン・O・デイヴィス。スコッツボロー・ボーイズ九人組み。ハウリング・ウルフ。ディジー・ギレスピー。ゴールド・ダスト・ツインズ。バックとバブルス。レイ・チャールズ。マリー・ラボー。ルディ・レイ・ムーア。ルイ・アームストロングとキング・オリヴァー・クレオール・ジャズバンド。リチャード・プライアー。ドナルド・ゴインス。ジョー・ルイス。エイモス、アンディー、キング・フィッシュ、「ライトニング」役でオディームス。アンジェラ・デイヴィス。ニュー・オーリンズ・ズールー・クリュウ。エメット・ティル。キャブ・キャロウェイ。ミシシッピー・ジョン・ハート。イライジャ・ムハマド。リーマスおじさん。ポール・ローブソン。レッド・フォックス。ヒューイ・レッドベター。フラムボー・トーチベアラース。クラレンス・ミューズ。マルコムX。ジミー・「J・J」・ウォーカー。アンクル・ベン。メルヴィン・ヴァン・ペブルス。ルイス・ファラカーン。ファリーナ。ピーティー・ウィートストロー。マンタン・モーランド。シュガー・レイ・ロビンソン。ジミー・ランスフォード。ドクター・ジョン。トマス・「ファッツ」・ウォーラー。ラスト・ポエッツ。リトル・リチャード。オスカー・ミショー。サミー・デイビス・ジョニア。ビル・コスビー。オジー・デイビス。ルビー・ディー。ルイス・ジョーダン。エディー・マーフィー。プロフェッサー・グリフ。エセル・モーゼス。マシュー・「スタイミー」・ビアド。ローサー。H・ラップ・ブラウン。プリンス。エディー・「ロチェスター」・アンダーソン。ファラオ・サンダース。ボスコとかれのおばあちゃんクッキー。シドニー・ポワチエ。アイスバーグ・スリム。ヒューイ・ニュートン。アーチー・シェップ。バックウィー。そしてもちろん、マーチン・ルーサー・キング・ジュニアが、シャツに血染めの弾痕をつけてすわっている。観客たち、巨大な旗を広げて掲げる。そこにはこうある。 アポロへようこそ SFX: 盛大な歓声と拍手。 呪術医は、バブルスの股間から再びウサギを引っ張りだす。バブルス、けいれんして身をよじる。鳥肌がたって、汗が吹き出す。腹が激しく上下。陰門が開く。 SFX: せわしない、熱い吐息。 天井から、膜組織の切れ端がぶら下がる。呪術医、大笑い。観客、大喝采。何百もの白ウサギがステージ上を埋め尽くす。何千ものピンクの目が、白い毛皮の洪水からこちらを見る。 闇があたりを包む。ピンクが赤に変わる。 SFX: あえぎ声が消えて、柔らかな夜の音が聞こえてくる――風にそよぐ木の葉の音、コオロギの声。クロス・フェードして: 屋外。森林――夜。 無数の小さな赤い目が闇の中に点在。月明かりが岩や木の輪郭を照らしだす。 カメラ引いて、ロングショット、しげみからのぞく黒ウサギたちを映す。さらに引いて、超ロングショット、木のてっぺんを映し、ウサギはその下の背景へと退く。 骨のアンクレットにヒョウ皮ビキニ、腰には革袋をつけたバブルスが丘のてっぺんに立っている。紙のパラソルを持ったその姿は月をバックにシルエットを描く。 バブルス、左を見、右を見、そして丘をゆっくりと下りる。その道には、すべすべの白い石が敷かれている。 トンボが飛ぶ。ホタルが光る。 道端に生えた、巨大な光るキノコの群れで足を止める。ひざまずき、袋にそのまばゆくふくれた笠をつめこむ。 虹彩も瞳孔もない赤い目が、じっとそれを見つめる。 水玉模様のキノコをほお張りながら、バブルスはまた歩き始める。風が木の葉をそよがせ、かすかな笛の音を運んでくる。バブルス、立ち止まる。瞳が点になる。 けむくじゃらの脚と黒い肌、先割れひずめのサテュルスが、柳の木の下にかたまった岩の上にしゃがんでいる。頭ははげて角がなく、耳は巨大でピンととがっている。目は石炭のように赤々と燃えさかっている。巨大な弓形のペニスが股間で踊っている。サテュルス、陽気な下卑た笑いを浮かべて木の笛を吹く。物見高いウサギたちが陰にひそむ。 サテュルスのペニスがフルートの不気味な旋律にあわせて脈打つと同時に、バブルスは身震いして、唇をわなわなと奮わせつつ、全身を爪先で上下に揺する。陰唇のひだに手をのばし、クリトリスの先端の真珠を弄んで、下唇を噛みしめる。、生き生きとした指が、笛の穴の上を慣れた手付きで踊る。 バブルス、サテュルスの巨大なちんぽこから目が離せない。音楽と彼女の興奮は、クライマックスにまで高まる。愛液をほとばしらせつつ彼女はうめいて達し、目の色が淡緑から氷の銀にかわり、またもとに戻る。 サテュルス、脈打つペニスをつきだし、岩から飛び降りる。バブルスのまわりでグルグルと踊り、あとわずかのところで彼女がペニスを捕まえられないよう、ブラブラと揺する。サテュルスが飛び退くと、彼女の目はペニスを追う。 ウサギの群れを後に従え、バブルスはサテュルスを追う。ペニスをつかもうとする。が、よけられて空をつかむ。ペニスが逃げる横でサテュルスが笑う。バブルス、また飛びかかり、つかみ損ね、ウサギたちの脚の間に倒れ込む。 ウサギたちがピョンピョン逃げると、バブルスは顔をあげ、紙製パラソルがサテュルスのひずめの足元で、ぼろぼろの山となっているのに気がつく。 サテュルス、あの下卑た笑いを浮かべる。そしてゆっくりと消える。 顔は、段階を追って徐々に消える。葉の落ちた木が、くねった大江だに無数のよじれた黒い小枝で冷たいお高い月の前に立ちはだかり、覆い隠す。その前景に、消えゆくサテュルスの顔が血管だけとなって見える。顔が薄れて、その目だけが輝く円盤となり、さらに薄れて風にそよぐ木の葉の音に混じった音楽だけが聞こえる。 沈黙。 笛が地面に落ちて、ウサギの群れの中に落ちる。バブルス、立ち上がり、色紙と竹の骨の残骸を漁る。耳を傾ける。と、遠吠えやうなり声が聞こえる。 バブルス、振り返る。ウサギたちが、変身の度合は様々だが、犬に変身しつつある。それも正確には――ドーベルマン・ピンシェルに。変身の苦悶の中で死ぬもののいる。 バブルス、大慌てで身を翻す。ボロボロのリンチの犠牲者たちが木からぶら下がっている。地面からはグロテスクなポーズの死体が突きだしている。腹を切り刻まれた女が、腐った胎児をよじれたへその緒の先に引きずっている。土に埋まった顔。腕。切断された手。フードをまとった人々の影が、森林のほかの影に混じってうごめく。 変異するウサギの群れを振り返りつつ、バブルスは逃げる。変身した犬たちが、長い耳と、ふわふわのしっぽをつけたまま、彼女のかかとに喰らいつこうとする。去勢された性器が地面に転がっている。 屋外:墓地――夜。 バブルス、錆びた鉄の柵で仕切られた、墓地の開いた門に駆け込む。中で、墓石につまづく。しっかり握り締められた黒いこぶしが地面を破ってつきだし、その指をバブルスの足首に巻きつける。 燃える目とむきだしの牙が、漂うライム色の霞みのなかに浮かぶ。 犬たちは、荒れ果てた墓地を、粒子の粗い、超自然的なスローモーションで横切ってくる。 バブルス、黒いこぶしから身を振りほどこうと引っ張りつつ、接近する変異犬の群れを振り返る。一匹が飛ぶ。そして、目と歯と唾液のぼんやりした混合物が、バブルスののどぶえに喰らいつく。こぶしは薄れ、鮮血色の風呂の水となる。 室内。高級アパート――風呂場――夜。 バブルス、ハッと目をさます。こぶしは薄れ、鮮血色の風呂の水となる。風呂の泡は、表面に浮いたピンクのあぶくとなっている。水面のさざなみの中に、ふやけたマリファナが浮いている。 バブルス やだ、生理……! 室内。高級アパート――ベッドルーム――夜。 まったくゆらめかないロウソクの炎のクロースアップ。 カメラ引いて、ロウソクの後ろの鏡表面を映す。鏡には月経の血で8の字が殴り描かれ、部屋の他の鏡とであわせ鏡の迷路をつくりだしている。そのすべてがお香とロウソクで儀式用にアレンジされている。鏡にはバブルスも映っている。天蓋つきのマホガニーベッドの上で、ヌードで、マニキュア鋏で股間の毛の手入れをしている。  突然ロウソクの炎が荒々しく揺らぎ、部屋を一陣の風が吹き抜ける。  カメラ、この突然の動きを追う。それはソプラノ・サックスから発したような音をたてるが、バブルスの耳には聞こえない。それは最後に、ナイトスタンドの横に折り重なった、割れた鏡の破片とコカインのかけらとタバコの山で止まる。コカインの粒子が動き出し、磁石で砂鉄を動かすように並んで、消える。一陣の風は、音楽的陽気さを残しつつサッとそこを離れる。 バブルス (ナレーション) 時々、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」に出てきた女の子みたいな気分。 バブルスのベッドの上の壁には別の鏡があって、彼女の姿をさまざまな角度から映し、それを無限に繰り返している。その鏡の正面に、気塊がふくれあがり、粘っこい液状の滴を散らして破裂し、その滴はゲタゲタ笑いながら蒸発する。 バブルス (ナレーション) ゾンビたちは人間を追い求めて、ぼろぼろの肉を地面に引きずって、内臓をパスタみたいにすすりこむ。 カメラ、移動して鏡の中の錯綜したイメージに入り込む。そこらじゅうロウソクの炎と肉体だらけ、それがやがてバブルスのマンコへとフェード。 バブルス (ナレーション) 女の子の口は血まみれ。父親の死体の横にひざまづいて――愛しい死んだパパの腕をかじってる。そして母親を、庭の移植ごてで殺す。 はさみがハート型の恥毛のしげみを刈り込む。カメラ、湿った陰門からなめらかな腹部、へそ、そして胸の谷間のV字までゆっくりと上にたどる。 豊かなふくれた胸を横からとらえ、そのまま勃起したバラ色の乳首から乳首へとパン。 バブルス (ナレーション) なんで両親を食べたいかって? カメラ、百八十度まわりこんで、彼女の背中を映す。そのまま上にティルト、彼女の肩ごしに、鏡に映った彼女の顔を捕らえる。その目のまわりには、月経の血で円が描かれている。 バブルス (ナレーション) そんなの、後で吐き捨てるためにきまってるじゃん! カメラ、鏡の中に移動して向きを変える。 バブルス、コカの煙を一筋鼻から吹き出す。煙はわだかまって、ヤク漬けの蛇のようにくねる渦をなし、彼女の腫れてメンスの血にまみれた目のまわりに渦巻く。バブルス、マリファナをナイトスタンドの灰皿でもみ消して、腕を宙にのばして伸びをする。 背中をそらせながら、頭をまわし、指を広げて曲げる。舌がゆったりと唇からこぼれる。 ロウソク明かりとその反射のなかで、バブルス坐禅を組む、 突然ドアが開いて壁に叩きつけられる。ロウソクがいっせいに消える。鏡がいっせいに落ちる。 女中の圧倒的巨体が開いた戸口に立ちはだかる。彼女の影も、黒々と巨大かつ圧するように床にのびる。戸口の上に釘でとまったニワトリが、彼女の頭上にぶら下がる、血の滴が女中の頭に滴り、顔を流れ落ちる。右手には断ちばさみを握り締めている。 女中 こぉんなでっかい断ちバサミで、あたしが何をするつもりなんかわかんないだろ、え? 女中は左手をサッと背後から取りだして、薬のチューブを見せる。 女中 それにこのKYゼリーでも!  女中、ゆっくりと地ひびきをたてつつバブルスに向かってくる。一歩ごとに、床板にひびが入る。 女中 まずはあんたのおつむの巻き毛をチョン切っちゃる! バブルス、仰向けのまま身をよじって後退し、ベッドの左上隅に縮こまる。 女中 っしたら、ヘムベインとチョウセンアサガオの実をゴリゴリ挽いて、キャンデー屋でレゲエ頭の黒んぼどもが売ってるラスタ大麻といっしょにKYに混ぜんだよ!  バブルス、シーツのかたまりを胸に押し当てながら、背後の壁にはりつく。女中、ベッドの端のところに立って、断ちばさみとKYゼリーのチューブをエプロンのポケットに押し込む。その目と歯が闇の中でギラリと光る。 女中 っしたら、んのKY・ジュジュ・ゼリージャムをあんたのオッパイやらオケツやらに塗ったくっちゃる――ベチャベチャに塗っちゃあすりこんで、溶けて毛穴に染み込んで血に入り込むまで! そいであんたがチョウセンアサガオで狂ったみたいに尻を揺すってる横で、あたしゃラスタ大麻の残りをでっかいタバコに巻いて、zooting Calloway sidesを貼っつけて、ハーレムの大盤振舞いお大尽みたく大麻をふかしちゃる! ハ! 女中、突進してバブルスの三つ編みをつかまえ、手首に巻きつける。バブルスは狂ったように手足をばたつかせる。女中、バブルスの髪の根っ子を引っ張る。バブルス、痛みと鋭い絶望で身体が麻痺。女中、彼女をベッドから引きずり下ろし、バブルスは床に落ちる。 足首を捕まれたバブルス、もがく。その指がベッドの下の黒革ジャンのえりを捕らえる。 カットして: ベッドの下からバブルスのロングショット。革ジャンのえりが、彼女のげんこつに握り締められている。そのままロウソクの融けたロウのかたまりと、砕けた鏡の破片の間を女中にひきずられ、ベッドルームを出て廊下へと向かう。 バブルスが背景へとしりぞくと、カメラ反転、ベッドの左後の脚に寄ってクロースショット。 クスクス笑いによじれつつ、水蒸気が噴出しては蒸発し、黄金とココア色の輝きの中で、半透明の人の姿がゆっくりと形を取る。小さなソプラノサックスが、逆さになってベッドの足元に立っている。はだかの、真っ黒な肌の悪鬼が、笑いに三日月状の鋭い口をふるわせつつサックスの隣にすわり、オナニーしている。小さなげんこつの下で、腰がはずんでいる。 フェードして: 室内。高級アパート――屋根裏――夜。  屋根裏の腐った木の床に散らばった物体を、アップでたどる。異様なポーズの融けたバービー人形――腕や脚が、融けて固まったプラスチックだまりの中からつきだしている。手に熔接された頭。四肢の麻痺した性転換トルソにピンが突き刺されている。黒どくろのロウソクが赤いロウを滴らせる。切断された犬の頭の口の、ウジムシがうごめく。不気味なアフロ絵文字が、マリリン・モンローの黒い小人形に赤のメタルマーカーで書かれている。小麦粉と灰が渦巻き模様。目玉や人間の心臓、胎児、緑の粘液の中に漂う逆さ十字などのつまったびんが、多段式祭壇の最下層に並んでいる。いやな匂いの煙を発するセンサー、そして壁の穴に引っ込もうとするネズミのしっぽ。 SFX: コンピュータによる合成ドラムのリズム・ビートが、大ラジカセのスピーカから超大音量で響き渡る。  屋根裏の床の落とし戸が、冷酷なきしみ音とともにギイッと開く。女中が化け物めいた黒いカナブンのように飛び込んでくる。背後にはバブルスをひきずっている――ドシン!ドシン!ドシン! 女中 パパ先生がぁメリカ大統領をジュジュで暗殺できんなら1 、このあたしだって、白んぼのあまっちょを狂わせることくらいできらぁね。ヒッヒツヒ!  女中、バブルスの手首を、天井から下がった滑車に通した鎖につながった、手錠にはめる。滑車のロープを引っ張るたびにうめきつつ、女中はバブルスを床から引っ張りあげる。  バブルス、ボロ人形のように無抵抗にぶら下がる。歯をガチガチ言わせている。あごの筋肉が、コカインと恐怖の冷たいミックスでひきつる。  女中、手錠の鍵をエプロンの前ポケットに落とし込み、断ちバサミを取りだしてバブルスの目の前にふりかざす。 女中 で、なんだっけ? 金のおとぎばなし巻き毛がなかったら、どうしていいかわかんなーい、だって? ふん! だったらどうすりゃいいか、実地に試してみるっきゃなかろうに、え?  女中、バブルスの髪を一房切り取り、手を腰に当てて一歩下がる。 女中 例の「ヘィップ」な白んぼドゥードル・カットなんかどうだい? あの金持ちジャンキーどもがダウンタウンでしてるみたいな、ジグザグだのバッテンだの剃り入れたやつ! それとも手堅く丸刈りジョリジョリ頭は? そぇともなんかもっとコセーテキで超なうっちいみたいなのがいいかい――末期ガンの放射線治療から帰還直後、みたいな! SFX: ゆっくりと押し殺したような、空気が漏れるような吐息。 汗の滴が女中の上唇に浮かび出る。口が震えて、無理に笑おうとする。手をあげて、バブルスの腫れたあざだらけの顔を優しく撫でようとする。が、かわりにバブルスの三編み二本をつかみ、髪を根元から引っ張って、その耳にこうささやく―― 女中 あんたらガキどもをこうやって、髪をゲンコツに束ねてやって仕込むと、内臓がもうグツグツしてきて脚中にダラダラ漏らしちまいそうだよ! 重低音ラジカセが、発狂寸前にエネルギッシュで脈絡まるで皆無の五十年代SFサントラとカンフー映画サントラのコラージュを、ジェームズ・ブラウン「コールド・スウェット」リミックス版に混ぜこんで演奏。これが女中の断ちバサミの速度に油を注ぐ。金髪が吹雪のように床に降り注ぎ、ドクロ型ロウソクに照らされて光る。  右耳の上に弧を描く二房と、額の上で揺れる一房をのぞき、バブルスは丸刈りにされ、血を流している。  女中、断ちバサミを落とす。ひざまずいて、エプロン・ポケットの中身を床に明ける。すり鉢、すりこぎ、KYゼリーのチューブ、チョウセンアサガオの枝、ヘンベイン、マリファナのつぼみ部分の塊。重低音ラジカセのスピーカーからはホワイトノイズ。 女中 ヒッヒッヒ! 女中、チョウセンアサガオの枝から実をもぎ、ヘンベインの実を握りつぶして砕き、大麻の塊からつぼみを抜き出す。 女中 このブレンドのおかげで、六十年代にヒッピーどもと商売してた頃にゃえらく繁盛したもんよ! 女中、薬草をすり鉢に投げ込んで、すりこぎですりおろす。 女中 あん頃ぁ、あたしも滅茶だったよ! 名前はムーンパイってってさ、こーんなでっかいベルボトムはいてたんだけど、それがかかとの上三センチんとこでビラビラしてて、ケツはパンパンのキツキツ! ウェストはケツの半ばまでしかこなくて、ケツの残りがブヨッっとてっぺんからはみだしてんの! 割れ目がモロ見えよ! ヒッヒッヒ! KYのチューブから、ゼリーがニュルリと絞り出される。そして混合物は異様な緑色となる。女中は鉢に手をつっこむそして彼女の指は、バブルスのマンコのひだにすべりこむ。 女中はメンスの血がついた指を口にくわえる。そのうかされたような笑いは、バターをひいた熱い鉄板に落としたそば粉の練り粉のように広がる。 女中、立ち上がって金切り声をあげ、憑かれたような痙攣踊りで胸を揺する。犬のように吠え、猫のように鳴き、ヘビのように威嚇音をたてる。そして淫らなほどに念を入れて、ジェルをバブルスのからだに塗り付ける。 バブルス、よじり、もがき、汗まみれでヘビのようにくねり悶える。重低音ラジカセは皮肉っぽい心臓とシンクロしたポリリズムをがなりたてる。 女中の目は燃え、歯はガチガチと噛み会わされる。服の縫い目が裂け、床に落ちる。その肥満した豊満な肉体は、気狂いじみたキルトと肌のパッチワークと化す。その目と歯がアップとなって、バブルスが憑かれたようなスローモーションとなるのにゆっくりと近づく。 女中、バブルスのウェストをしっかりつかまえる。そしてバブルスの肉体を自分の肉体に取り込む。二人は恥部と恥部をこすりあわせる。 SFX: バブルスのかんだかいスタッカートの吐息の上下のエコー。 バブルスの最後の痙攣的悲鳴につれて、彼女の目をクロースアップ。スピン・ワイプして: 屋外:昔の南部の綿花畑――昼間。 歯なし老いぼれ黒んぼたちが、脳天気な黒んぼバンジョー音楽を爪弾き、それにあわせて黒人おばちゃんたちがハム骨をひざでならしつつ踊る。 逆方向にスピン・ワイプして: 室内:高級アパート――屋根裏――夜。 バブルスの目の大接写からひいて、バブルスのミディアムショットへ。 バブルス (絶叫) もっと演ってよ、ライトニング! 強い痙攣の波が女中のからだを走り、彼女は床に倒れる。歯がガチガチ言う。手足がばたつく。重低音ラジカセのペトロ・リズムが、彼女の異様な動きと歩調を合わせて響く。 女中の頭、腕、手、脚は、それぞれまったく無関係に動く。そしてしゃべり、形を変え、音を出す。音楽。ラジオの白色雑音。ヘビのウロコ。鳥の頭。炎の毛皮のネコ。テレビCM。ラジオの白色雑音。ベルナルド・ゲッツの告白とミックスしたヒップ・ホップ・ラップ・リズム。ペンテコスト派のテント小屋の会話。パトカーのサイレン。マルコムXの演説。ハーレムのバーの会話。ヘロイン売人の呼び込み。ケネディ大統領暗殺と交互に編集された、エイモス&アンディのラジオ・ショー。そして「Yo man! 五ドルない?Yo man! 五ドルない?」と繰り返し、そのたびに銃声で迎えられる若い黒人の姿。 女中の痙攣がおさまる。疲れて息をきらす。影からネズミが走り出て、女中の上下する胸にすわり、ヒゲの手入れを始める。女中のまぶたが即座に開き、その視界の十字照準がネズミを捕らえる。女中、ネコのようにツバをはく。 ネズミ、彼女の胸から飛び降りて、屋根裏の床の穴にもぐりこむ。女中は跳ね起きて四つん這いになる。背を丸くしてミャーオと鳴く。屋根裏の落とし戸を持ち上げて、女中は階下に消える。 バブルス、闇の中で一人つり下げられている。 倒れる家具、割れるガラス、うなるネコなどの音が、床板越しに聞こえてくる。オフスクリーンで、あわてふためくネズミの悲鳴が聞こえる。 女中 (オフスクリーン) そらっ! 捕まえた! SFX: 断末魔の悲鳴、肉の裂ける音、骨の砕ける音。 女中 (オフスクリーン) うーんんんん、うまい! こりゃまた! 生のネズミのはらわたとは! SFX: グチュ! ズルズルッ! ベチャベチャ! ムシャムシャ! 女中 (オフスクリーン) さぁて、あん大麻ん残りぁどこいった? あったあった! しかも極上! 枝なし! 種なし! 葉っぱさえない! ひたすら手摘みのジャマイカ物のつぼみだけ! この悪い子ちゃんたちを巻いて、キャブでターン・オンしたら、フレディとよろしくキメようってもんだ! は! タバコの巻紙がカサカサと取りだされる。マッチが擦られ、火が点る。鋭い、こすれるような息を吸い込む音。ターンテーブルにレコードが叩きつけられる音。そして「ホット・ヴードゥー」を歌うマレーネ・ディートリッヒの声がスピーカーからわめきたてる。 女中 (オフスクリーン) こりゃキャブじゃない! あのブロンド・ヴィーナス・ナチの腐れ女が、ゴリラの格好して唇の厚い黒んぼ土人どもに混じってあのインチキフードゥー歌を歌ってるのだ! こいつぁ驚きだぁ! あんガキ、あたしに返し技をかけようとしてやがる! ふん、まああのチョウセンアサガオが、ケツに入り込むのを待つとしようか! ハ! は? マレーネ・ディートリッヒのレコードの針がとんで、繰り返し続ける: マレーネ・ディートリッヒ (オフスクリーン) ホット・ヴードゥー……! ホット・ヴードゥー……! ホット・ヴードゥー……! ホット・ヴードゥー……! 女中 (オフスクリーン) こりゃいったい?! あたしん手! 手が溶ける! それに足も! みんな溶ける! この世のものとも思えない苦悶の叫び。 女中 (オフスクリーン) 神様! あたしん顔が鼻汁になっちまって、骨から滴ってる! 神様! イエスさま助けて! たっけて! たっけて! 腐っちまう! イエスさま、たっけて! たっけて! たっけて! カメラ、お香の煙とロウソクの炎越しに、バブルスのギラつくからだを上下になぞる。 バブルス (ナレーション) そして屋根裏で、あたしはそうやって吊り下がり、変なにおいとへんてこな黒んぼのお守りに囲まれて、静かに幻覚を見てた。眼下の床では、女中が発狂してた――ブヨブヨした黒いからだが、床をばたばた跳ね回り、決してやってはこないピンクの神を求めてうめいてる。迷信深い黒んぼ昏睡の中で、女中は自分の死が近づいていると信じて、後に残るのは泡立つ黒い泥沼の中に、巻きヒゲの先っぽについた目玉が二つ浮いてるだけになると思ってた。用心してゴム手袋さえしてればね。でも、しなかった。そして、ブロンド・ヴィーナスの力をみくびったわけ。 移動してバブルスの顔のクロースショット。 天井の、白蟻まみれの梁が、バブルスの鎖の力でたわんで折れる。腐った木としっくい、鉄の継ぎ手が降り注ぐ中、バブルスは床に転がり落ちて、爪先でしゃがむように着地。意識はもうろうとしつつも、機敏に動いて彼女は瓦礫の中をあさる。 バブルス (ナレーション) チョウセンアサガオはラバみたいに思いっきり蹴り入れて効いたけど、でもこっちも伊達にデッドヘッドしてたわけじゃないもんね。 あのトゲトゲの蔦っぽい幻覚植物のことなら、自分の手相の神秘的意味と同じくらいよく知ってるんだ。だって、デブで四十過ぎのビール腹親父だったとはいえ、あたしはホントにジェリー・ガルシアにおフェラしてやったんだかんね。 バブルス、ズタズタになった女中の服の山から手錠の鍵を見つけだす。手錠をはずして立ち上がり、手を振って血の循環を回復させようとする。そして屋根裏のトランクや箱を漁り、ヒョウ皮ビキニと古い電気カミソリを見つけだす。 まずビキニの安っぽいモサモサした生地を撫でてから、バブルスはビキニの下をはき、上をつけてゆわえる。儀式エリアに行って、現代の呪術模様が殴り書きされた手鏡を取る。電気カミソリをコンセントにさして、額にかかる一房だけ残し、頭を丸刈りにする。 バブルス (ナレーション) あんなコカインの煙だの何だのを足しても、チョウセンアサガオのトリップって、シロバナシュのトリップと似たりよったりだったわ2 。 バブルス、天井を見上げつつ、黒い革ジャンの袖に腕を通し、まぶしい満月の光をみつめて、鼻のブリッジ部にウェイフェアラーのサングラスを乗せる。 バブルス (ナレーション) 前に学校でシロバナシュを見つけたわ、それも寮の裏手一面に。次に気がつくと、まるであのエルゴット中毒でいっせいにイカレちゃったフランスの村みたいなことになってたわけ。あるいは、あの「Wild in the Streets」の一場面みたいな。ほら、あのシェリー・ウィンターズが、三十歳以上用強制収容所で、LSDを目一杯くらって、デブのケツをふってまわった場面みたいな。 女中の神殿の物体をひっくり返しつつ、バブルスはトランクを引きずって、屋根に開いた穴の下に据える。トランクによじのぼり、穴を通り抜けて屋根に出ようとする。 バブルス (ナレーション) でも、ウッドストックみたくはなんなかったな。あのくそポスターの鳥が、ストリキーネか何かにやられて死んじまえばいいってよく思ったわ。 バブルス、高級アパートの屋根に立って、街のスカイラインを見渡す。野良猫の群れが屋根をうろつく。 バブルス (ナレーション) 前にジョーンズタウン・クール・エイド・パーティを開いたことがあって、あのまぬけなクソ鳥の滅茶苦茶な壁画を描いてやったわ。目はばってんで、ギターのネックから逆さに吊り下がってんの。それでブラックライトをつけて、フルーツパンチにLSDをぶちこんでやったわ。 ほとんど青酸カリだけど、楽しめるのがアレよね。 スカイラインの上に月が大きくまぶしく輝き、足元にはネコたちが群れる中、バブルスは屋根から屋根へと飛び移る。すばやく、力強く、運動選手のような優雅さで。 バブルス (ナレーション) ワシントン・スクェア公園でヤク買ったことがあれば、何のことかはわかるでしょ…… ネコたちは非常階段を、裏道を駆け抜け―― バブルス (ナレーション) とはいえ、ジョーンズタウンのガイアナ人民寺院集団自殺の断末魔テープでトリップして、しかも部屋中ブラックライトで目のくらんだスキンヘッドどもが、頭上で宙返りしまくってんのも、野原のシロバナシュを食べた後と比べたら、半分も怖くなかったけど。 ――そして最後にジャンプし、廃工場の枠なし窓に飛び込む。 バブルス (ナレーション) 草の中をころげまわって、全身緑に染めた娘。その娘、寮を出て、一糸もまとわず近くの小川の岸辺で暮らすようになったわ。家具も全部持ってって――天蓋つきベッドと、居間用家具一式全部持ってよ。別の生徒のガールフレンドは死んだわ。生徒の方は、三日にわたって死体とやり続けてから、やっと事態に気がついたわけ。 スカイラインの石と鉄と煙から成る工業っぽい感じは、古びた夜の帳で現代らしさを失っている。荒涼とした物体は、グロテスクな古めかしい形態と、月光や影による不思議な幾何形態へと還元されてしまっている。残酷な機械が、炎の風車をすり潰す。汚泥が波止場に注ぎ込む。タグボートが霧の中で霧笛を鳴らす。 バブルス (ナレーション) チョウセンアサガオが効いてる時にどこかへ行こうってのは、低級ヘロインやって頭をはっきり保とうとするようなもの。客観性だの健康だのにはサヨナラ。吐き気と愚考よこんにちわ。それも、大麻とか精薄とか愚鈍とかの愚考どころじゃない。ものすごいスポットライト級不思議さの、記念碑的愚考・愚行。高次機能が完全に崩壊したのを想像できる? 脳があっさりイカレてくれんの。それといっしょに、腹のまわりを苦痛の網がギチギチ締めてくる。心眼のまん前に、水子霊の軍団が群れてんのが想像できる? これを全部いっしょくたに想像できる? しかも先には永い黒んぼの夜。 でも、さっきも言ったけど、伊達にデッドヘッドしてたわけじゃないんだ。 バブルスもまた非常階段を降り、裏道を抜け、廃工場の窓からよじ登って入る。 屋内。ペンキ工場――夜。 窓枠の真ん中の月を浴び、その光が割れたガラスに囲まれた後光のように照らす中、シルエットになったバブルスは窓の下半分から割れガラスを蹴りとばし、塵の中に銀を散らす。 窓枠を乗り越えて、バブルスは床に落ち、蛍光性のほこりを巻き上げる。げんこつの中に、タンとほこり混じりのツバを吐き出す。 サングラスの縁越しに、バブルスは周囲の暗がりを見つめる。 工場の床には、輝く顔料が積み上げられている。湿って不気味な光を放つその山は、四方に散らばって、蒸気のような色とりどりの交差線で結ばれている。 蛍光色の動物の足跡が、床のほこりに残っている。薄暮の中、緑の目が光る。そして、万華鏡のようにその数を倍増させてゆく。 絵文字が、はっきりしたかと思うとぼやけ、あいまいな蛍光を放ち醜悪な低級生命のようにうごめく。まるで腐肉に群がる蛆虫のようだ。 バブルス、ジャケットの内ポケットからカミソリを取りだすが、ふと自分の手の色に気がつく。かつては白かった肌が、暗い紫になっている。脚を見下ろすと、同じ暗い色合が見える。好奇心で眉根にしわを寄せつつ、彼女はドーム状の天井を見上げる。 すすまみれのケーブルともつれあう形で、ブラックライトの群れがずっと上の方に設置されている。 興奮したしっぽの群れが揺れる。バブルス、親指のつけねで回転。カミソリがサッと開かれ、ブラックライトの光で輝く。 何百ものネコ――みんな黒くて目は緑――が行ったり来たりする。さかりのついた雌ネコが宙に尻をかかげ、腹を床にこすりつけて前足を床に這わせる。雄ネコたちはまたがってピストン。 謎めいた足跡が現われて輝く。 工場の向こう側の壁の落書きの下から、バブルスは次のことばを読み取る; ブッシュマスター・ペンキ工場 文字は変形する。落書きは壁の縁の方にくねって離れ、輝く原生動物の後光となる。幾何学的な変形は、機械的な正確さをもって移り変わり、生き生きとした色彩の風車と化してグルグル回転。 その円盤の円周内で正方形が反時計まわりにまわる。その正方形の内側では、三角形が回転。 このマンダラは回転の速度を増す。そしてバブルスのサングラスのそれぞれに、悪魔的なイメージが反射する。 その落書きは壁をくねり下り、床に流れ出して、バブルスの太ももを泳ぎのぼる。 嫌悪に身震いして、バブルスは床に倒れ、まばゆいホコリの山に着地。 カミソリを落として、バブルスはヒステリーのあまり自分をつねる。サングラスが顔から落ちる。 落書きは、彼女が触れるとかき消える。ネコがコーラスでさかり声をあげる。床を氷青のもやが渡ってくる。 バブルスは、床からはね上げられる。引っくり返される。叩きつけられる。繰り返し。痛々しく。ストロボで照らしたスラム・ダンスのように。血がクロームのもやとなって顔料に混じる。とうとう煙をあげる顔料の穴に放りこまれ、虹色の幽霊と化す。 その穴が渦巻きとなってバブルスを吸い込む。バブルス、穴の縁をぐるぐるとまわり、消える。 一匹、また一匹と、ネコたちは宙に飛び上がり、輝く湯気立つ小山に消える。 屋内。穴。 ウサギの肛門を下だって バブルス、湯気たつ穴の内側を回転しつつ落ちて行き、暗闇に飛びこむ。腕を大きく広げて、凧の軽快さをもって気流にのる。 曲がりくねった黒い粉のスプレーが彼女の顔を対角線状に横切り、目の宝石のような輝きを強調。額にはためく髪の一房には淡い青が吹き付けられ、黄色と緑のホタルっぽい斑点が散らされる。 バブルス、自分に向かって話しかけるが、その声にはパニックが感じられる。 バブルス (ナレーション) これってウソよね、でしょ? 幻覚を見てるんだ、こんなこと起こってるわけないもん。どっかローワー・イーストサイドのバーにいて、プエルトリコ産のヤクでラリってんだわ。 虹色の肉体が深遠を転げ落ちて行く。ネコのような音が響く。ギザギザした氷青の稲妻状電気編みがバックで輝く。 バブルス 安全な気がする。守られてるような気がする。この落ち着きは、もう間違いないわ。ここには白人がいる。血も肉も白い人たち。エルヴィス並に白い人たちが、酒とジュークボックスのロックで気勢をあげてるんだわ。 まともにイカレたヒップスターなら、飲んだくれ白人との接近遭遇なんか願い下げにきまってる。 しっかりしなきゃ。気を確かに。ちょっと体内にヤクがはいってるだけよ。 落ち着いて、深呼吸。 ここでハッと気がついて、口があんぐりと開く。 バブルス ウッソ! 呼吸のしかた、忘れちゃった! 屋内。穴。 燃えるタール小僧の洞窟 溺れかけた人のようにもがきつつ、バブルスは粘土の床に叩きつけられ、一回はずんで――イテッ!――こんどはタール色の小人の輪の中に、尻から着地する。小人たちは、ガマガエルのように垂れた肌をしている。ギョロッとしたレモン型の目、分厚い赤い唇は、輝く黄色い歯を縁取っている。包皮切除を受けていないちんぽこが、ぷっくりふくれたビール腹の下から突き出す。バブルス、おずおずとほほえみかける。 バブルス あててみましょうか。対立人3 、でしょ? 舌打ちしつつ、小人たちはバブルスを立ち上がらせてやる。 バブルス ふーん、背の低い、ペチャペチャ言う人たちか。 バブルスの眉は、突然好奇心に捕われたようにひそめられる。くんくんとあたりを嗅ぐ。 バブルス 何、このにおい? 目の前の小人の肩に手を置き、身をかがめ、かれの頭のてっぺんをなめてみる。 バブルス うげっ! くそまずい黒んぼキャンデー! 見た目も味も、ウンコみたい! リコリシュって大嫌い! 口を黒革ジャンの袖でぬぐうと、バブルスは胸ポケットのジッパーを開けて、チョコレート製人形をつかみ出す。まだ嫌悪の色を残したまま、彼女はそのチョコレートをピーナッツのように口にほおりこむ。唾液とチョコレートで、歯が茶色に染まる。 リコリシュ人間たちは、不思議そうにそれを見つめる。バブルス、かじりかけのチョコレートをいくつか手に吐き出して、かれらに勧める。 バブルス ほしい? 自分たちと、バブルスの手の中のかじられたチョコレート製の顔との間に明確な親戚関係を見出だしたリコリシュ人間たちは、嫌悪の悲鳴を上げて腕をあげ、奥深い暗闇の中にかき消える。 バブルス、鍾乳石の屋根に覆われた洞窟に、一人取り残される。 バブルス どうも白人テクノロジーの果実にはまだ早すぎたかな。あるいは、新黒人へのムハンマドのメッセージにも……! 溶暗 屋内。洞窟――夜。 洞窟の壁に開いた開口部から出現したバブルスの目は、宝石の燃えるような輝きを放ってまるで宙に浮かぶようだ。彼女の口は、驚きであんぐりと開かれる。  洞窟の、広がる通路の両側の壁には、一ダースのパン種人形たち――スーパーマーケットの冷凍食品売り場にある、筒型パッケージに描かれた、白い球体状の人形――が手かせ足かせでつながれ、ある者は溶けかけ、ある者は腐りかけている。 リコリシュ人間たちが、パン種人形の一人を手かせからはずす。壁から持ち上げて、洞窟の中を運んでゆく。パン種人形は、手足をばたつかせて叫ぶ。かんだかい声で―― パン種人形 いやだ! やめてくれ! ほかなら何でもいい! イバラのしげみでも! でも、お願いだ――燃えるタール小僧だけは! リコリシュ人間 クスクス、ケラケラ バブルス、パニックして駆け出すが、逃げ道が見つからない。物陰に身を隠して、壁にぴったりはりつく。でこぼこした、ざらざらの壁に沿って移動するうちに、彼女は六体のパン種人形を押し潰してしまう――口は苦悶する黒い楕円、目は苦痛でカラスの足状にぎゅっとつぶられ、灰色のペーストが潰れた腹から円錐状に噴出し、ウンコのような山をつくっている――そして潰れた手足やぺしゃんこの見る影もない顔で、スタッコ塗装を壁に施すことになる。 リコリシュ人間たちの輪に近づき、大きな岩の影に隠れるバブルス。 リコリシュの輪の中で、パン種人形は身をすくめす。リコリシュ人間たち、かれを殴り、蹴り、洞窟中をビーチボールのように転がす。パン種人形は粘液状のあぶくを吐いて、「オーイ、オイオイ」と泣いている。リコリシュ人間たち、その苦悶ぶりを真似して、かれの去勢された股間をあざ笑う。 パン種人形、床に蹴り倒され、命乞いをする。 パン種人形 裏で取引があったんだ! おれは知らなかったんだ! 決定を下だしたのは会社だ! おれはただの駒にすぎないんだよ! ただの商標! プロモーション用のシンボルなんだ! でも、たまたま雇われた先がまずかった! 破廉恥なアニメーター集団! ほかの誰でもよかったんだ! なぞなぞゴム人間でも! 缶スープのCMのクリーム・ビーン氏でも! 薬のCMのセルツァー・キッドだって! だれでもよかったんだ! リコリシュ人間たち、顔を見合わせてせせら笑う。円陣がわかれる。パン種人形は叫ぶ―― パン種人形 たのむ! やめてくれ! お願いだ! 女房がちょうどオーブンで食べ頃だぜ! フランス女だ! クロワッサンだよ! あんたたちにくれてやるから! おまけにブリーチーズとボルドー・グラン・クルーのボトルもつける! よつんばいで地面を逃げ回り、パン種人形は怪我をした子犬のように輪を描いてまわる。そのからだがふくれてきて、激しいしゃっくりが痙攣状にからだを走る。 パン種人形 ヒック! 失礼! ヒック! ヒック! リコリシュ人間たちが活気づく。パン種人形、見上げる。その顔が恐怖にひきつる。 コルクのような目をしたタール小僧が、ロープでとめたバーラップのズボンとプレイドのフラシ天シャツを着て、義足でぎこちなく影から現われる。トウモロコシのパイプがボタンの口にくわえられている。麦わら帽子がそのべとつくドーム状の頭にのっている。 パン種人形、恐ろしさに身をすくめる。絶望で顔がくしゃくしゃになる。 パン種人形 いやだ! やだ! タール小僧だけは――! 円陣の開いた部分から、タール小僧は初めて歩いた赤ん坊のようなおぼつかない足取りで、よちよちとパン種人形のほうに向かう。そしてパン種人形の上に倒れこみ、炎を巻き上げる。火は激しくはじけて燃え盛り、消える。タール小僧は崩れて細かい灰色の灰のベッドと化す。その山の下には八ダースのビスケットが埋もれている。 小人プロレス一座のように旋風を巻き上げつつ、リコリシュ人間たちはすばやくその山に押し寄せる。ビスケットをあごにつめこみ、ビスケットくずを吐き散らす。 何やら真面目くさったしかめ面をして、リコリシュ人間の一人がビスケットを尻の割れ目に挿入し、屁をひる。ビスケットは洞窟を横切って飛び、暗い肛門噴射の香りを後に残す。 そのリコリシュ人間はにやりと笑う。まるでルイ・アームストロングのようだ。 リコリシュ人間 はじけるほど新鮮! よじれた黒い尻山の間にビスケットのかけらをつめこんで、リコリシュ人間たちは陽気にしゃべり、くねり、湿った茶色の不協和音をひり出す。何十ものビスケットが、震える粘液に包まれて宙を舞う。 もの影に隠れたまま、バブルスはマッチをすり、洞窟に投げ込む。リコリシュ人間たちの尻が青い炎に包まれて燃え、かれらは悲鳴をあげる。その混乱に乗じて、バブルスはだれにも気づかれずに逃げる。 そしてタール小僧ってば、なーんも言いやがんねぇ…… 屋内。洞窟 洞窟の床を、柔らかい春雨のように足音がひたひたと進み、大きな観音開きのドアの前で止まる。ガス状のエーテルが地面からたちのぼり、幽霊じみたネコのような姿が、硬い樫材に飛び込む。 バブルス、壁から身を引きはがし、洞窟を走って横切る。そのドアの前で止まり、取っ手に手をかける。ゆっくりと開け、中に足を踏み入れる。ドアは虚ろなひびきをたてて閉じる。 溶暗  幾年にもわたってサリー嬢さまの孫息子をひざの上であやしてきたリーマスじいやは、もはや誘惑に打ち勝てなくなってしまいまったのです。  目玉をギョロリと見開いて、ズボンはくるぶしのところまで引き下げて、しなびた尻もあらわに、リーマスじいやはしおれた器官を子供のすべすべした白い尻山の間に出し入れするのでした。そして幽霊じみた黒んぼ音楽にあわせて指をならすのでした。 「なあ、ええ子だから、このリーマスじっちゃんに、そこんブレル熊グリースのびんぉ取っとくれやな。そう! そいつじゃ! んでもって、べっとり塗ったくっちくれ! よぅし、んじゃ一発頑張ってみようかい!」  サリー嬢さまは予告もなしに、リーマスじいやと孫息子とのこの場面に出くわして、即座に卒倒してくたばっておしまいになりました。  申し上げるまでもなく、リーマスじいやの関節炎の脚は。北極星の方向に向かってひょいひょいと踊っていたのでした。 ――アメリカ南部物語・裏編 室内――R・ラップ・リーマスじいやの教会 幾層にもなった色とりどりの顔料に覆われて、バブルスは観音開きのドアを背後にそびえさせたまま、教会の洞窟状の内側に立つ。 高い、球の内部状の天井にはドレッド・ヘアのマリファナ吸いのチョコレート肌の天使たちが描かれ、その下には落ち着かないラスタファリアンたちが、黒ヒョウ頭のついた動物毛皮に身を包み、もつれたドレッド・ヘアの先にはしなびた白い男根を編みこんで、教会の奥にある演壇に向かい、爪の鋭いヒョウの前足をつけた木の杖を、部族的熱狂の興奮で振りかざす。 演壇の頭上には巨大なポスターがかかり、ギョロ目の黒人が描かれ、煙突状の帽子をかぶり、星条旗模様の赤白青のストライプ・スーツを着ている。ズボンをくるぶしにまで落としてしゃがみ、手をひざに置いて、右のこぶしにはバターの棒を握っている。肩越しにふりかえって、歯のない口でにんまりと笑い、そのしわだらけのケツを、媚びを売りつつ差し出している。ポスターは、巨大なゴチック文字でこう訴えている。 アンクル・サンボはきみを求めている!  ポスターの下では、緑の準軍雑役服を着た関節炎の黒人アンクル・H・ラップ・リーマスが、はげた頭の周縁部からもつれた灰色のドレッドをピョコピョコ踊らせつつ、アンクル・サンボの毛だらけの頭にルガーP.08をつきつけている。 アンクル・H・ラップ・リーマス この男の反革命的犯罪とは何か? ヒョウ男たち 尻に熱いの欲しがってやがる! アンクル・H・ラップ・リーマス アンクル・サンボがきみをどうしたいかは、みんなご承知だろうが、きみはアンクル・サンボをどうしたい? ヒョウ男たち 熱いのくれてやれ! アンクル・H・ラップ・リーマスは留がーの引き金を引く。アンクル・サンボの頭は、血と骨と爆発音を噴出させつつ爆発。その死体が床に舞い落ち。ステージから蹴り落とされる。 アンクル・H・ラップ・リーマス 熱いの一丁あがり! 教会中を雷のような拍手が轟きわたる。アンクル・サンボのポスターは、突然あらわれた炎に食い尽くされる。その下にはリア・プロジェクション方式のスクリーンがあって、イディ・アミン・ダダの姿が映しだされている。そこにはこう書かれている: イディいわく:「とことんぶちのめせ!」 拍手が鎮まる。舞台照明が暗くなる。アンクル・H・ラップ・リーマスにスポットライトがあたる。かれはマイクを手にステージを行ったりきたりする。 アンクル・H・ラップ・リーマス ブラザー&シスターのみんな、白人ってのは狂った人間だぜ。繰り返そうか? 「白人ってのは狂った人間」って、そう言ったんだ。 そうとも。狂ってる。ちげえねえ。 白人、狂人連中は、テメーを何百回となく殺しちまえる核兵器を持ってんだと。だれもかれも、何もかも、こーんな派手にふっ飛ばしちまえんだ! しかも、何のためにそんなことすんのかまるで不明! 理由はただ一つ―― 白人、狂人どもは、死にてぇんだ。 それもこれも、狂ってっからなんだぜ。決まってる。 白人こと狂人には、精神分析屋の言う「死の願望」ってのがあんだ――死にたいと思ってんだと。 白人こと狂人はこの惑星上で唯一最悪の地球汚し屋どもだ。空気も水も、子供らの頭まで汚染しやがった。己れの食い物を育てる大地まで汚しやがったんだ。 「死の願望」なんてものを持ち合わせてるヤツでなきゃ、テメーの食卓にのっかって、尻の中身をぶちまけてから食事を続けるなんて真似ぁしないわな。 これで白人の精神が毒だってのはわかるだろう。ブラザー&シスター、白人の頭ん中って見たことあるか? 頭蓋骨のX線写真がスクリーンに映し出される。頭蓋骨は、とぐろむしウンコで充満している。内部には蝿の群れがブンブンとびかっている。 アンクル・H・ラップ・リーマス 白人が耳鳴りに悩むのはなぜかわかっか? ブラザー&シスター、ありゃぁ耳鳴りなんかじゃねぇんだよ。白人どもが「脳」と称する汚物のかたまりにたかる、蝿の音なんだ。 こう言うとなんだが、それにしてもだなあ、脳味噌がクソ味噌だってのに、白人のほうが優秀だなんて誰が言える? やつらだって、自分たちが劣ってんのはわかってんだぜ。そうでなきゃ、自分を噴っとばしたいなんて思うわきゃなかろうに。 ブラザー&シスター、もうわかったろう。そんなやつらを一緒の惑星に住まわせとく必要はねえんだ。 スクリーン、溶暗。ゆっくりしたレゲエのバックビートにあわせて、生霊のような姿が聖歌隊のような歌声を響かせる。 憑かれた声 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! アンクル・H・ラップ・リーマス 血を吐け! ふくれあがれ! 紫になれ! 憑かれた声 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! アンクル・H・ラップ・リーマス アミン主義者たる我々は、この世における生き神様はハイレ・セラシではなく、イディ・アミン・ダダであると信ずる! かれはその叡知によって、黒人の喰いものとすべく白人をおつくりになった! 憑かれた声 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! アンクル・H・ラップ・リーマス アミン主義者として我々は白人のしなびた器官を髪につけ、白人の力を吸収してわがものとし、その跳梁を終わらせる! 憑かれた声 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! アンクル・H・ラップ・リーマス アミン主義者として我々は、白人すべてが持つ自己燃焼の不可侵の権利を信じる! マッチの頭のように燃えちまえ! 火の玉になって燃え上がれ! 憑かれた声 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! アンクル・H・ラップ・リーマス あるいはわれらが燃えるタール小僧が、ナパームみたいにおまえらの肌にはりつくぞ! 憑かれた声 白人どもみんな 倒れて 死んじまえ いますぐに! アンクル・H・ラップ・リーマス アミン主義者としての我々の合い言葉はただ一つ! それは何だ? 憑かれた声 ヒョウ人間たちの群れが、杖につけた爪を掲げる。 ヒョウ人間たち とことんぶちのめせ! アンクル・H・ラップ・リーマス 合い言葉は何だ? ヒョウ人間たち とことんぶちのめせ! アンクル・H・ラップ・リーマス もっと大きく! ヒョウ人間たち とことんぶちのめせ! アンクル・H・ラップ・リーマス 聞こえないぞ! ヒョウ人間たち とことんぶちのめせ! アンクル・H・ラップ・リーマス そうだ! とことんぶちのめせ! 教会内が明かるくなる。生霊のような歌唱団が消える。アンクル・H・ラップ・リーマスの目が、バブルスのはずむオッパイに吸い寄せられる。まごうかたなき好色さをこめて、かれは舌なめずり。 アンクル・H・ラップ・リーマス どうやら今夜は我らが信徒への参入を求める者がおいでのようだ。 バブルス、もじもじして、ゴールドの鎖をジャラジャラさせた、Kangoledクラック・キッドのように派手な身振りをしはじめる。 バブルス いやぁ。えー? ちょっとチルしてんのよ――だからさ――ブラブラ、チョコチョコ、キョロキョロ探り入れてるだけ。でもって、yo、あんたたちのノリ、買うよ――もうこの後ろからでもたっぷり! もうバリバリ! バブルス、へつらうような笑顔を浮かべて歯をむきだす。腹部が液状に震えて波打つ。 アンクル・H・ラップ・リーマス いいや、シスター。ぜひこっちにきて参入していただこう。おまえの肌は、あらゆる色を象徴するものだ。混じってはいないが、まちがいなくダダの色。神の色だ。加わりたまえ。われらが一員となるのだ。 しだいに高まるコンガのリズムにあわせて、杖につけたヒョウの前足を振りかざしながら、ヒョウ人間たちが唱える。 ヒョウ人間たち ウーガ・ブーガ!! ブーガ・ウーガ!! われら彼女を受け入れる。われら彼女を受け入れる。われらが一員。われらが一員。おまえを一員にしてやろう。ウーガ・ブーガ!! ブーガ・ウーガ!! われらが一員。われらが一員。おまえを一員にしてやろう。 ヒョウ人間たち、バブルスを取り囲んで床から抱えあげ、頭上を大玉送りのようにしてステージのほうへと運ぶ。手や腕の混乱の中からびっくり箱のように飛び上がるのは、ココア色のピンヘッド。水玉模様のパジャマを着て、頭のてっぺんにはリボンつきのドレッド・ヘアが一本だけ。プラスチックのおもちゃのピストルを発射し、その派手な色の玉がバブルスの鼻にあたってはずむ。 ピンヘッド ウーガ・ブーガを逆さに! リコリシュ人間二人が群集の一番外側に立っている。それぞれ黒ヒョウ皮のチュニックを着ていて、それが片肩だけのストラップでとまっている。一人は山高帽をかぶり、火のついていない葉巻の吸い口をしゃぶっている。 山高帽のリコリシュ・ヒョウ人間 ブラザー、とことんぶちのめせ! もう一人のリコリシュ・ヒョウ人間 そうだそうだ! おりゃあもう、キャンデー売場のいっちゃん下の棚に置かれて、ミントの箱なんぞに置き換えられんなぁたくさん! もう可愛い黒チャン役なんざゴメンだ。たった今からおれのPC1 な呼び名はコンゴ派キャンデー――白んぼを殺すべく開発された、革命的お菓子だ! 毒入りきけん、食べたら死ぬで! クソウッ! あんなクソったれの、クソったれ匂い消しミントなんか! 山高帽のリコリシュ・ヒョウ人間 そうだそうだ! バブルス、探る手から探る手へと渡される。黒い指が、彼女の開口部をくまなく侵す。ドレッド・ヘアのヒョウ人間たちは、下卑た笑いをあげて、その指をくんくん嗅ぐ。バブルスの眉間にしわがよって、不満そうな表情が浮かぶ。その左の頬が引きつって、薄笑いとなっている。 バブルス 頼まれもしないとこに、どうしても指をつっこまなきゃならないんなら、少なくとももっと速く動かしてくれりゃいいのに! 床のセンターステージにあたる部分が、電気モーターのうなりとともに開き、水をたたえた四角いプールが現われる。ヒョウ人間たちがつくる、手のゆりかごにすわったバブルスは、床からプールの中へと放りだされる。水しぶきがステージにはねあがる。バブルスのサングラスは頭からはずれ、プールの底に沈む。アンクル・H・ラップ・リーマスは足をシャッフルし、腕を振り回し、手を叩く。恥も外聞もなく興奮して、Chittlin' circuit Holy Rollerのようだ。 アンクル・H・ラップ・リーマス この頑固のガキを洗っちゃる! 魂から白んぼの染みを叩き出しちゃる! そしたらダダさまに仕える用意が整う! バブルス、プールの中にすわり、目をパチパチさせて水を払いのけている。肌についたペンキの顔料が流れ落ち始める。色が混ざる。 アンクル・H・ラップ・リーマス ダダを讃えよ! アンクル・H・ラップ・リーマス、バブルスの額を手のひらで叩く。それも強烈に。その一撃で、バブルスは水面下に沈む。バブルス、ふくらませたダッコちゃん人形のようにすぐに浮かび上がり、水を滴らせて、空気を求めてあえぐ。せき込む。するとムシが――太って、黒く、扁平頭――彼女の口から弓なりになって出てくる。空中を飛んで、バシャンとプールに落ちる。そしてくねくねと水面を横切る。アンクル・H・ラップ・リーマス、もう一発彼女を叩く。バシン! アンクル・H・ラップ・リーマス ダダを讃えよ! バブルス、目をまわして前後に揺れる。その腹部が痙攣して波打つ。せき込む。そして、ムシがもう一匹その口から舞い出る。バシャン! アンクル・H・ラップ・リーマス、最後にもう一発、三発目の平手打ちをくらわせる。 アンクル・H・ラップ・リーマス ダダを讃えよ! バブルス、プールの中に消える。水面にはあぶくが浮かぶ。水は顔料でドロドロ。アンクル・H・ラップ・リーマス、濁ったプールの中をのぞき込む。あぶくはゆっくり消える。アンクル・H・ラップ・リーマス、支持者たちに向き直る。その表情は悲しみに包まれている。 アンクル・H・ラップ・リーマス ブラザー&シスター、ダダはより高い意図をお持ちだ。ダダは、この見事な腹を持った年頃の若い新参者を、ご自身のために召喚なされた。神の謎や御業の理由は、われわれの預かり知らぬところ。祈りましょう。 一同の頭が沈黙のうちに垂れる。コンゴ派お菓子の二人も抱き合ってすすり泣き、鼻からは太い鼻水を二本たらしている。 山高帽のお菓子の目が、信じられないと言うように飛び出る。口からは葉巻が落ちる。 山高帽のお菓子人間 大グーガ・ムーガに跳ねとぶエホバの証人にかけて! あれもぶちのめすってのか? バブルスがプールの中で起き上がる。水が粉末顔料を洗い流し、彼女の肌の真の色をあらわにしている。 言うまでもなく、原住民たちは不安そうだ。 ヒョウ人間たち、コンガ・ドラムで脅すようなリズムを打ち鳴らし、わけのわからないせりふをうなり、杖につけたヒョウの爪を磨く。中には手を地面に引きずって、呑んだくれたゴリラじみた踊りを踊り、尻のところから動物の毛皮を垂らしている。ヒョウ人間たちの詠唱が、絶え間ないハム音とともに教会内に低く響く。 ヒョウ人間たち とことんぶちのめせ! とことんぶちのめせ! とことんぶちのめせ! はだかの、包皮切除していない黒人坊やが、ラード入りのバケツを持って群集の中をまわる。ヒョウ人間たち、バケツに手を突っ込んで、硬い白い脂肪の塊を肌にすりこむ。 プールからはい上がり、バブルスはよつんばいでステージによじ登る。腹は激しく上下している。アンクル・H・ラップ・リーマスは、嫌悪のあまり後ずさる。ドレッド・ヘアのヒョウ人間たち、ステージに詰め寄る。顔が動物の毛皮と入り混じってぼける。 バブルスの背中が弓なりにたわみ、安物のデッキ・チェアのように二つ折りになる。再び痙攣しながら、彼女は身を伸ばしてよつんばいになる。腹はまるで妊娠しているかのようにふくれあがり、肌は黄金の光を裏から照らしたように輝く。銀の後光が頭を取り巻く。 口をよだれを垂らす病による緑のくちばしに換えたバブルスは、シュールなスローモーションで、群れ集う獣の爪をまとったヒョウ人間たちに向き直る。その視界を黄色のしぶきが覆いつくす。 ステージの端で、黒人坊やがバブルスの視線の正面に立っている。腹がふくれている。脚は、ひざのところで軽く曲げられている。その縮こまった、包皮つきのちんぽこから尿がほとばしっている。 バブルスの舌が口からのびる。そして彼女は吐く。ムシを、巨大な波のように吐きだす。 うごめく粘液と線虫を浴びて、黒人坊やはステージからふっ飛ばされる。激しく床に叩きつけられ、うごめく汚物の山の下じきになってしまう。 ステージから後退りしつつ、ヒョウ人間たちはうめき、迷信じみたジェスチャーで、もだえつつ黄金の光を放つ昆虫娘のほうを指差す。 アンクル・H・ラップ・リーマスのドレッドヘアはほどけ、側頭部から電気を帯びたように突き出している。歯をガチガチいわせながら、かれはステージの袖で身をすくめている。そして、マイクを胸にしっかり抱きしめている。 信徒たちが恐怖のあまり退却するのを見て、アンクル・H・ラップ・リーマスはすぐに気を取り直す。立ち上がり、バブルスに指をつきつけ、マイクに向かって命令調で語る。 アンクル・H・ラップ・リーマス こんな汚物を吐き散らす悪魔の落とし子など無視するのだ! ヒョウ人間たち、困惑した表情で指導者を見つめる。 アンクル・H・ラップ・リーマス ブラザー&シスター、われわれが救われる唯一の頼みの綱は――献金皿をまわすことだ! バブルス、アンクル・H・ラップ・リーマスに向かう。その顔は、これまで以上に深い緑色…… アンクル・H・ラップ・リーマス ポケットのドン底まで探れ! 手のひらを黄金で輝かせて、わしに見せてくれ! ……そしてアンクル・H・ラップ・リーマスを、うごめくムシのヘドの奔流で埋め尽くす! アンクル・H・ラップ・リーマスの目が、グチョグチョの黒い塊の中から大きく丸く見開かれている。 アンクル・H・ラップ・リーマス こいつぁひでぇ……! 悪夢のような歯をガチガチ言わせたムシが二匹、かれの瞳を喰い破り、眼窩から飛びだす。ムシの山は自壊して、もがく真っ白な骸骨を残す。 SFX: 精力的なちんぽこが、しとどに濡れたマンコに出入りする濡れたピストン音を、電気風洞でフィルターかけた音。 脚をひざで曲げ、足を宙に浮かべたまま、バブルスは仰向けに横たわり、身をくねらせ、尻を床にこすりつけている。 その皮膚の放つ放射光は暗いオリーブ色に変わり、昆虫のようにふくれた腹もへこむ。小さなクルミ大のしわだらけの瘤が、彼女の脚と胸に生じ、彼女のヒョウ皮模様のブラジャーを引き裂く。¥初めの三倍もの大きさにふくれあがり、破裂して、ミルク状の緑色の粘液をまき散らす。 唇のでかい、綿のような頭の、鼻孔の大きな頭が、膿疱のあとからつきだし、ギョロリとした目をパチパチさせて、目やにを取ろうとする。 バーヘッドが二人、魚眼レンズのどアップでニタつきながら、バブルスのブラジルクルミのような乳首に取ってかわる。まっすぐ並んだ白い歯を見せつつ、バーヘッドたちはバブルスと目線をあわせる。 右のバーヘッド よう、左の、黒んぼ中毒ってのはどうあやせばいいんだ? 左のバーヘッド 知らねーな、乳首頭さんよ。黒んぼ中毒ってのはどうあやせばいいんだ? 右のバーヘッド 唇をなめてやって、壁に貼っつけんのよ! 乳首頭のバーヘッドたちは視線を交わし、舌を突き出して、ツバであぶくをつくって飛ばしあう。 バブルスの肉体から生まれつつあるもう片方のバーヘッドは、屠殺場まがいの悲鳴とともにはじけ、潰瘍となった肉体の穴から飛び出し、粘液と体汁を後にひく。太い、筋肉質のしっぽが首から生えている。そrがステージの床を打つ。ビシャリ! バブルスの傷口は、魔法のように癒える。そしてからだの色も元に戻る。 飛び散ったヘドの山の中でうごめくムシたちは、どんどん大きくなる。その頭部がふくれて顔ができる。そしてしっぽの先で立ち上がり、口を開いてキイィィィィッ! ヒョウ人間たち、パニック。あたりは伏魔殿と化す。 混乱して逃げまどうヒョウ人間たち。しなびたペニスがあちこち飛び交う。杖につけた爪は床に投げ捨てられる。子供達は踏み潰される。血が飛び散る。目玉がちぎれる。内臓がゾロゾロ。 バブルス、プールからサングラスを探り出し、転がって足場をたてなおすとステージから飛び降りる。床にしゃがんでサングラスをかけなおし、群集の中を駆け抜ける。ネグロイド・ゲロムシの群れが、キイキイ鳴きつつ、肉を求めてあたりを徘徊。 バブルス、取り巻く混沌の中に血路を開く。ヒョウ人間たち、嘆願するよに頭を垂れる。そして嘆願する者たちは、その恍惚とした敬虔な畏れのさなかに、キイキイ鳴くネグロイド・ゲロムシの群れにかじられてしまう。 室内。地下通路。 光をバックにシルエットとなったバブルスが、ごつごつした壁の迷路のような通路を駆け抜ける。背後からは、人間の苦悶の声が響いている。 やがて、トンネルの突き当たりに、丸い光が現われる。バブルス、それに向かって駆けだし、その輝きに小躍りして、アンクレットつきの足は心臓の鼓動とリズムをあわせてガチャガチャ鳴っている。 強烈な摩擦音が地面を走る。そしてネグロイド・ゲロムシの群れが通路を曲がって背後に現われ、キイキイ、ガオガオ、ガチガチと威嚇音をたてる。 バブルス、光の中に飛び込み、タイムズ・スクェアのぎらつく輝きの中に、足から着地する。 キイキイわめくネグロイド・ゲロムシの群れは、下水溝の開口部をすべり落ち、ベシャッといういやな湿った音をたてて潰れる。 バブルス、急いで四十二丁目マルチシアター・グラインドハウスのドアに駆け込む。 四十二丁目マルチシアター・グラインドハウスの看板にはこうある: 「ロッキーホラー・ニグロ・ショー」 室内。四十二丁目マルチシアター・グラインドハウス――夜。 バブルス、劇場の薄暗い客席にすわり、顔の下半分にはギャング風にバンダナを巻いて、球根状の彫りの柔らかい顔の海の中に埋もれている。まわりの顔は、綿を詰めた頭から流れ出る髪の根元を、蛍光性の落書きめいたワイルド・スタイル・デザインで刈り込んでいる。 音楽が高まると、マペットのような観客たちは、幸せそうに唱和して左右にからだを揺する。マルコムXの死体がステージ上にふらりと現われる。そのゼリー状になった眼窩にはウジムシがうごめいている。 マルコムX やあ! ぼくの名前はエル・ハッジ・マリク・エル・シャバッズ! 覚えていてくれたかな? 六十年代に射殺されちゃったんだぜ。 ステージに砂をふりまき、ソフト・シューで足をシャッフルさせて、歌う。 マルコムX まさに驚異2 時は容赦なく過ぎて 思想も古くなってくる。 だからよくお聞き―― もう先は長くない。 つくり話が幅をきかせてる。 きみは言う―― 「意識は高まってる!」って。 でもぼくは言う―― 「ウジムシがうごめいてる!」 きみの魂を食い尽くしてる! 思いだすのは あの豚肉喰らいの頃 黒人性がぼくを直撃 そして声が響いた―― 「もう二度と!」 別次元からの ブタのしっぽは もうたくさん。 謎めいた もったいつけて 豚足喰うのもたくさん。 ポークは 白人悪魔神の 発明品 黒人の 地位向上を 阻害する! 観衆 豚肉喰らいはもう二度と! マルコムX 変な気分。 黒人のフラストレーション。 鎮静剤をまたゴックン。 そこで気づくのが これもまた去勢手段! でもコーク・ディップとおさらばして ドゥジ・チップを投げ捨てて 豚肉トリップもうっちゃって もう昔のきみとは永久におさらば。 別次元から きみに語ろう きみのアフリカ中心思想を 直撃しつつ うまくたぶらかして ぼくは何でもお見通し。 観衆 豚肉喰らいはもう二度と! マルコムX、おじぎ。劇場の照明がだんだん真っ暗になる。そして、マルコムXの腕がつけねからもげて、床に落ちる。マルコムX、バックステージに歩き戻る。その背後を、腕が這いずって追いかける。 フェードアップ: 室内。劇場――映画スクリーン。 粒子の粗い、白黒の第二次世界大戦のフィルム。破壊され尽くした東ヨーロッパの都市の映像が、ちらつきながらスクリーンに映る。廃虚から、煙が玉状にたちのぼる。フィルムに直接スクラッチした、くねる線で、ミッキーマウスの頭が残された都市の壁の上に浮かんでいる。フィルム表面に黒ペンキで点をつけられた死体が、あちこちに散らばっている。 BBCアナウンサー (ナレーション) 二十一世紀の最初の二十年で、武装して準軍事組織をつくりあげた白人優位主義者勢力は、アメリカの故郷の地において、「下品な不純人種ども」に対する最終的な勝利を勝ち取りました。 カットして:  一九五〇年代の「真の冒険」誌の表紙を真似た、プロパガンダ・ポスターの連続。ディズニー・スタイルで描かれたそのポスター群は、巨大な突き出したおっぱいと、さらに突き出た銃弾型の乳首をした悩めるファム・ファタルたちを示し、キャプションはドイツ式ゴチック文字で、ナチのたわごとがリサイクルされている。汗だくの黒人のカリカチュアが、白雪姫のボディスをはぎ取り、その薔薇色の乳首をつねる。ユダヤ人が輪になって、宙を舞うティンカー・ベルに、競争で順番に精液をかけている。目の細いアジア人たちが、シンデレラをガラスの靴でソドミーし、脂ぎったヒスパニックたちが眠れる森の美女を輪姦。  途中でカットして、ワルシャワのゲットーを襲撃するゲシュタポの映像。狩り立てられる者たちの顔は、フィルム上で、黒人歌手のように黒く塗られ、マンガじみた目と唇がかきこまれている。ゲシュタポ襲撃隊の腕章の鈎十字には、ミッキーマウスの顔がスクラッチされている。フライドチキン屋、酒屋、店先の教会、小切手現金化店、美容院、床屋、ブラック・ムスリムのモスクなどの看板がスクラッチして描きこまれている。重低音ラジカセを持ってはずみながらヨタヨタ歩く、黒人少年の姿が、スクラッチ線によるアニメで、はずみながら通りを下だって行く。ラジカセのスピーカからは音符が踊り出る。 BBCアナウンサー (ナレーション) 無差別テロやナチス風の蛮行、それにあからさまな暗殺などの後で、白人優位主義者の軍団は、神とその息子の御名を持ちだすことで大衆の共感を得ることに成功しました。自分たちの行動が「白人キリスト教徒総体としての福祉」に貢献するものだと主張したのです。 カットして:  ニュルンベルグ党大会のフィルム。壮麗さと熱狂的ヒステリーがすべて再現される。鈎十字を染め抜いた旗、垂れ幕に腕章、絵だけのアドルフ・ヒトラーの人形は、すべてフィルム上で生き生きとしたエアブラシによるミッキーマウスの姿にとって代わられている。どれも後光のような効果がかけられている。ミッキーマウス・クラブの主題歌の葬送バージョンが、群集による「ジーク・ハイル!」「とイェーイ、ミッキー!」の叫びに埋もれて聞こえる。本物のアドルフ・ヒトラーにアップでは、かれの顔はコンピュータ・グラフィクスでデジタル処理をかけられ、世に名高いかのネズミの顔に似せられている。 BBCアナウンサー (ナレーション) この「白人キリスト教徒総体としての福祉」の名のもとに、エントレーズングまたは「最終解決法」が施行されました…… カットして: アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所の残虐行為のモンタージュ。残虐行為に次ぐ残虐行為が、克明に、胸の悪くなるような詳細さで重ねられる。それが重なって、最後の死体のピラミッドへと移る。キャンプの「シラミ除去」ガス室内で、「死につつもお互いをかきむしり引き裂きあう」死体である。その顔は、またもや黒人歌手の黒で塗りつぶされている。モンタージュの最後は焼却室のドア。看板にはこうある。 有色人種専用 音楽が高まる:「星に願いを」 BBCアナウンサー (ナレーション) かの古き黒人霊歌の歌詞にもありますが、白人はついにその重荷を下ろした、というわけです…… 火葬室のドアが、きしむ蝶つがいでバタンと開き、灰の山と黒焦げの骨が、炉から床に落ちる。そのてっぺんに、歯のない頭蓋骨が着地。タイトルが、スクリーン上に飛び出す: ロッキーホラー・ニグロ・ショー 音楽:ゴシック・スラッシュ・メタル タイトルバック、溶暗。クレジット流れる。 出演:死んだ黒んぼ無慮数千 音楽、消える。 空撮のロングショットで、黒焦げのニューヨークの廃虚。マンハッタンの名高いスカイラインは、大量の黒煙によって覆いつくされている。稲妻が、定期的に光る。ゆっくりズームインして、黒こげた石と溶けた鉄の瓦礫のアップ。 BBCアナウンサー (ナレーション) 二十一世紀に起こったアメリカ合州国第二次市民戦争は、国土を廃虚と化した都市に、根絶やしにされた生命の広大な墓場へと変えてしまいました。 ワイドショット、瓦礫だらけの地面と、その背景に巻き上がる巨大な黒煙。雲は不吉げに下から照らされている。 カメラ、五人の「新世界」黒人ゲリラ兵のアップ。ボロボロの、血痕だらけの制服を着ている。三人の男と二人の女は、壊れたコンクリートとよじれた鉄筋のの山から這い下りる。手は潰瘍と水ぶくれだらけ。顔は疲労と敗北感が色濃い。ゲリラたち、とぼとぼとした足取りで走り、腕は生気なく体の横でぶらぶらしている。渦巻く黒雲が、背後にどんどん迫ってくる。 ゲリラの一人が振り返る。そして絶叫。巨大な鋼鉄のエイが、渦巻く雲の中から漂い出てくる。その銀の船体には、円が描かれ、その中に若い黒人のシルエットがあって、それが斜めに走る太い銀の線で打ち消されている。  集中した熱線ビームが、エイのくちばし部から放たれる。ゲリラは、熱線のバックライトの中で溶ける。そのボロ服が燃え、肉が溶け、骸骨が灰と化す。 クロスフェードして: 室内。エイのデッキ――メイン・スクリーン――昼間。 デッキのスクリーン上には、ゲリラ戦士たちが銃眼の十字線に捕らえられている。光束が、ボロボロの一団を直撃。かれらは黄金色のカリカリのフライとなり、フライドチキンのように地面に転がる。 メインスクリーンがブーンとうなり、点滅し、色とりどりの光を放つ。脅すような死に神の頭が。次のような問とともにスクリーンに現われる。 レーザー・フライド黒んぼ 第三段階の準備はいいか? ゴム製フライト・スーツの、ミッキー帽をかぶった少年二人が、スクリーン前のジョイスティックを握り締めている。その肋骨部分が、空気でふくらましてあるのが視界に入る。 スピナー 大当たり! やつの頭の綿毛を焼きとってやったぞ! すごいだろー! コーキー うん! しかも食べられそうなくらいきれいな仕上がり! スピナー 黒んぼ食べるなんてオナラが出ちゃうよ! 晩ごはんは何? コーキー ママが好物をつくってくれてるぜ。マカロニとチーズだ! スピナー マカロニとチーズだって! しめしめ! そいつは腹一杯のお楽しみだね! 行こうぜ! 少年二人ははしゃいで駆け出す。 コーキー マッシュポテトも山ほどあるといいな! クロスフェードして: 室内。ディズニー・マジックモール。 青い鳥が、眠れる森の美女の城の尖塔をぐるぐると旋回。様式化された黄色の太陽が、笑顔で目尻にしわをよせて、漫画の空に浮かんでいる。その突き出した口からは音符が飛び出す。モノレールが多層式のショッピングモールの中を洞窟の中を、うなりをあげて走る。モノレールが止まり、ミッキー帽姿の宇宙少年たちがそれに飛び乗る。 カメラ、下に向かって、森の中のキャンプファイアーの書き割りを背景に「スモール・ワールド」を歌う、機械仕掛けの人形たちを映す。そばかすだらけの、薔薇色の頬をした白人の子供の人形は、ナチスっぽいミッキーマウスの制服を着て、ブーツのかかとを打ちならし、ナチス式片腕敬礼をして、はだかで串刺しになった黒人の束を焼くキャンプファイヤーの炎を囲む。黒んぼの口には大きな赤いりんごがくわえられている。 BBCアナウンサー (ナレーション) しかし都市の瓦礫のはるか下には、別世界が広がっていました。妖精の粉と、安手の手品で目をくらませられた世界。意地悪なアヒルとしゃべるネズミの住む世界。ホログラフ看板が超超低価格と大バーゲンを約束する世界。あらゆる年代の子供たちのための、地下のおもしろ世界。家族全員のための、そこで暮らせるショッピング世界。ディズニー・ワールドです。 カットして:  ハイビジョンテレビ画面が、球状のミッキーマウスの顔型になっている。その画面が、砂の嵐と白色雑音であふれ、それがパチッと消える。夜の眠れる森の美女の城が放送され、その擁壁の上では花火が華開いている。 男に餓えた目をして、木の葉の服に身を包んだボインのティンカーベルが、キラキラした妖精の粉を後に引きながら、杖を振りつつスクリーン上に現われる。アメリカ大統領の紋章が、遠くの同心円の中に現われるが、その鷲はミッキーの顔に置きかわっている。スクリーン上のキャプションにはこうある: アメリカ合州国終身大統領 特別声明 ティンカーベル、その半透明の羽の端をにぎり、おじぎをして、ハチドリの優雅さで飛び去る。「紋章」とキャプションが切れる。カメラ、テレビ画面にそのまま入り込んで、城のミディアムショット。 錆びた鎖のきしみとともに、城のはね橋が下りて、壕を橋渡し。ドライアイスのベッドに載って、ガラスの棺が城の口からすべりだす。霜のおりた棺のふたが、キイィッと開く。おとなしい紺のスーツに身を包んだ男が現われるが、その顔はヤマアラシの毛皮のように、つららの束に包まれている。そのトゲトゲの氷玉がとけてみぞれになり、まとめて落ちる。男、にっこりして咳払い。男は、ウォルト・ディズニー。 ウォルト・ディズニー 今を過ぎること五十とさらに二年前、わたしたちがすべてを負うている偉大な狙撃手が、狙いをさだめ、引き金を引き、民衆を煽動する黒んぼを射殺しました。その一弾は、あなたやわたしのような、真面目に働く白人キリスト教徒の税金にたかってブタのように生きる、何百万もの黒んぼどもにとって、不吉な死の鐘として響いたのです。 あいつらはこう思いました。「やれやれ、これで月々の生活保護もおしめえだ! またニワトリ泥棒の暮らしに逆戻りか!」 しかし五十年たった今、わたしたちはもはや黒んぼがいないという事実を祝えるのです。五十年たった今、わたしたちはもはや、黒んぼたちの生であった「ブルース」だの「豚足ゼリー」だのといった下品な存在に苦しまずともよいのです。五十年たった今、わたしたちは黒んぼが「おれは差別の鎖によって悲しくもゆがめられてしまった」と文句を垂れるのをきかずともよいのです。アメリカ社会の小便臭い街角に立って、ドゥワップを歌い、キングコング・ウィスキーをあおるのを見なくてすむのです。五十年たった今、わたしたちは「おれは自分自身の国で亡命者となっている」という黒んぼの愚痴を聞かずにすむのです。わたしたちのナイーブで疑うことを知らない娘たちが、まちがった同情のためにその黄金の下腹部をさしだすのにつけこみ、それにまたがってその邪悪な種でもって娘たちをはらませるのを見なくともよいのです。 アメリカは、黒んぼどもを永眠させることで平穏を見出だしたのです。かれらの主張する人権をすべて剥奪しました。我らが国家の基盤を揺るがさんとしていたその反抗を鎮めたのです。 わが友人たるみなさん、想像力の奇跡と力によって、わたしは星に願いを駆け、夢を実現させました。 星に願いを―― いつの日か、この国が立ち上がり、その合い言葉の真の意味を文字通りに生きようとしますように:「黒んぼどもを吊せ! ユダヤ人は焼き殺せ!」 星に願いを―― いつの日か、ジョージアの赤い丘の下で、家族全員のためのライドやアミューズメントでいっぱいの素晴らしいショッピングモールで、かつての奴隷所有者の息子たちが奴隷の息子たちをほふり、もはや食器が盗まれる心配をしなくてもよくなりますように。 星に願いを―― いつの日か、この国の真価が、有色の徒の不在によって計られますように。 星に願いを―― そしてわたしはその願いを実現させました。 星に願いを―― いつの日か、すべての黒チャン街が焼け落ち、黒んぼのたまり場や裏通りが撤去され、黒人スポットが白く塗り替えられ、上が下に、ネズミがしゃべり、ゾウが空飛び、ファンタジー・ランドの栄光が明かされ、ミッキーの友だちすべてがそれを共に眺められますように。 そして黒んぼどもに死の時が忍び寄る時、アメリカは一点の曇りもない白性の国となったのです。ニューハンプシャーの巨大な丘の上で焼き殺される黒んぼ。ニューヨークの大山地で焼き殺される黒んぼたち。ペンシルバニアでひときわ高くなる、アレゲーニー山脈で焼き殺される黒んぼたち。 コロラドの雪に覆われたロッキー山脈で焼き殺される黒んぼたち。 ミシシッピーのあらゆる丘やモグラ穴で焼き殺される黒んぼたち。いたるところの山で、黒んぼが焼き殺されます。 わたしたちは黒んぼが焼けるにまかせ、その悪臭はあらゆる村や集落、あらゆる州やあらゆる都市に満ちました。でも着にしませんでした。内心、こう思ったものです。「黒んぼどもなんか、勝手に焼けてろ!」 するとある日、空気が澄みわたり、そしてミッキーのお友だちすべて、白人の男も女も、白人の男の子も女の子も、手に手を取って、かの黒ちゃん連中の霊歌の替え歌を歌ったのです。 「やっと消えた! やっと消えた! 全能の神に感謝を、あの黒んぼどもがやっと消えた!」 室内――ゾンビマスターの巣窟――夜。 コンク頭をふんぞりかえらせつつ、ゾンビマスターが折り畳み式カンバス・チェアにすわり、黒いショートコートの燕尾服をきて、サテンの裏地のマントをはおっている。 その巣窟は、マジック・ショッピングモールの気の利いた機械群の何キロも下の、地下の洞窟に位置しており、一九五〇年代ポップ・アトミック様式に抽象表現主義のひねりをきかせた装飾がなされている。金属製アフリカンマスクが、幾何学的な基本要素に還元されて壁にかかっている。 背景には、ミッキーマウスの耳のついたHDTV壁掛けスクリーンがあって、ゲルマン調のドナルドダックが白衣と眼帯をつけ、ドクトル・メンゲレ・ダックとなって、ブレラうさぎ、ブレラきつね、ブレラくまたちに、「お茶目」な臓器移植手術を執行している様子が映っている。助手のヒューイ、デューイ、ルイは、作業しながら「ジッピディ・ドゥ・ダー」を口笛で吹いている。 突然、ゾンビマスターが椅子の中でガバッと身を起こす。そのギラつくオールバックの髪は、バラバラに乱れている。金歯ののぞくニヤつきは、メタンフェタミンの禁断症状の苦悶の最中にいるピエロのようだ。黒ぶち眼鏡の丸く暗いレンズには、白線が狂ったように渦を描いている。 ゾンビマスター わしは未来を見切った! 見たら、マウマウがサンタにキスしてた! 髪をガキ向けのベトベトポマードで塗り固め、ダックテールにまとめた頭が、ゾンビマスターの股間で上下に激しく動いている。そのぶかっこうな尻は、スパンコールで輝いている。ゾンビマスターの腰が、オルガズムの放出で弓なりになって、渦を巻く催眠術用眼鏡が顔から落ちる。その瞳孔が、二十五セント玉ほどの大きさに拡大。 ゾンビマスター キング式チトリンのクソ肘鉄! かびだらけの緑色で、あちこちムシ喰い穴だらけの、ダックテールの生き物は、スパンコールつき足首むきだしベルボトムで立ち上がる。 上唇を傲慢なせせら笑いにゆがめて、ふくらませた頬に精液をため、生き物の揺れる腹部がヒラヒラつきウェスタン・シャツからはみ出す。刺繍つきのえりを立て、それを引っ張りつつ内心のロカビリー・ビートにあわせて頭を揺すっている。のみこむ。のどぼとけが上下する。 生き物は、あごから滴る精液をぬぐう。精液のかたまりが床に落ち、生き物のブルー・スエード・シューの爪先にはねかかる。 もうおわかりだろう、このブクブクのロカビリー生物は「貧乏白んぼトレーラーパークの守護聖人」にほかならない――すなわち、エルビス・ゾンビである。 ゾンビマスター、立ち上がってズボンを引っ張りあげ、チャックを閉めるとウェストバンドを調節。エルビス・ゾンビを抱きしめ、整形しまような宇宙靴でタンゴを踊る。目からは青い火花が散る。 歌うゾンビマスター。 ゾンビマスター おまえに呪文をかけた……! テレビ画面にウォルト・ディズニーが再登場。ゾンビマスター、深く集中して眉をひそめつつウォルトを見つめる。そしてエルビス・ゾンビを床に落とす。 ウォルト・ディズニー 歓喜の時が再びやってきたのです! そして毎年恒例の、キリスト第二の到来パレード十周年記念をここに御届けします! 今年はいつになく盛大かつ華やか! USA目抜き通りでパレード、船に花火に鼓笛隊! トウモロコシやホットドッグ、綿菓子をいっぱい食べて、風船やTシャツや「ぜんまいじかけの水面を歩くキリスト人形」なんかを売りまくる! マンガのお友だちが、新約聖書の人気場面を演じます! グーフィーと仲間たちも勢ぞろい! そして最高なのが、キリストは一銭も手にしません! どのみちヘベくんは何年も掃除を続けてきたんだし! だからいっしょに楽しみましょう! 素晴らしいですよ! 不肖、このわたしだって、せっかくの機会だし復活して見せるかも! ゾンビマスター、かぶりを振って、ぞっとしたようにウォルト・ディズニーを見据える。 ゾンビマスター おぬし、どっかおかしいぞ! どっかの何かが足りないぞ! そうか! わかったぞ! お前らみんな、そこにはいないんだ! おぬしまるで――えーと、えーと――わからん! ゾンビマスター、巣窟から足早に立ち去る。後をエルビス・ゾンビが、びっこを引きつつ追いかける。 溶暗 室内。ゾンビマスターの実験室――夜。 実験室はトタンで覆われ、霜で青くなった人体部分が貯蔵されている。巨大なウォーク・イン式冷蔵庫という感じで、うなりをあげる巨大なグラフェンバーグ発電機が二機、その大部分を占拠して火花を散らしている。あらゆる人種の男女の死体が、部屋中の手術台にはだかで腐乱しつつ横たわっている。頭上からは、何百もの手足がぶら下がる。肉屋の作業台のようなテーブル上に、ガットで縫いあわされた顔がいくつか散らばっている。頭も手足もない胴体を無数におさめた棚が壁際に並ぶ。目玉や鼻、耳が、緑のピクルス液のようなものに漬かってガラスびんの中に浮かび、「ワニ酒」というラベルのついた半合びんの列と並んで置かれている。 弾痕まで完全に再現されたJFKの頭が、クモのような細長い脚を生やし、床の上をカサカサと横切る。ムカデの脚をつけたペニスを追っているのだ。 JFK 一度でいいから一人尺八がしてみたかったんだな! エルビス・ゾンビを従えて、ゾンビマスターがマントをなびかせつつ実験室に大股で入ってくる。眉は決然としている。空気が冷たいので息が白い。木製のオールで、得体の知れない紫の液体の中で泡立つ目玉のシチューをかきまわす。 ゾンビマスター ワニの盲を取って 魚の左目を取って カエルの肌を剥いで まぜて仕上げをごろうじろ。 腕を高速撮影でふりまわしつつ、ゾンビマスターはまるでタコ並の手足をはやしたかのように縫い、部屋中の死体を再構成。そのそれぞれを、ワニ酒でよみがえらせる。 ゾンビマスターは目を細めつつ、ペトリ皿をまばゆい頭上の電球にかざす。 ゾンビマスター この皿には、かの白人テクノロジーの3D驚異であるキャプテン・ニグロの鼻より削り取ったる組織。これを使って、わしはかれの巨大鼻をもとのネグロイド的サイズに戻してやり、革命に奉仕する一員として取り立てようぞ! ゾンビマスター、ワニ酒の半合びんを口許に運びつつ、つぶやく。 ゾンビマスター サル並クソったれどもめが、ブルースのことなんかなーんも知りゃしねえ! 黒んぼめ、学校に戻ってイロハとひい、ふう、みいを習いなおして、ドレミにブルースを吹き込めるよう鍛え直してもらいやがれ! ゾンビマスター、仕事にかかる。爆発的にくしゃみ。ライム色の粘液の粒が顔に散る。ゾンビマスター、敬虔に顔をあげる。 ゾンビマスター (ニヤニヤしながら) 白んぼども、気ぃつけな! マイケルがあんたのママをモノにしちまうぜ! 屋外。ディズニー・マジックモール――昼間。 マジックモールの大芝生の上に色とりどりの花で描かれた、国家社会主義党の旗が広がっている。そこに。心優しいビッグ・ブラザーのような笑みを浮かべたミッキーマウスがかかれている。その隣の並木には、気取ったスーツを着た機械仕掛けのカラスの群れが、高尚なゴスペルをがなり、しっぽをゆすり、タンバリンを鳴らす。事務員っぽいカラーをつけたカラスが、固い声で宣言する: 事務員カラス みなしゃん! 天国えケークおークの準備はいいかな? 屋外――アメリカ目抜き通り――昼間。 口笛を吹くマンガ太陽が、夏のまばゆさで照りつける中を、ニンフェットのように新鮮な女子鼓笛隊のパレードが行進。黒い顔のダンディーが、バックダンスしつつ、派手な縁取りのポンポンパラソルを、娘たちの頭上に差しかける。鼓笛隊は若い日焼けした脚と金の房のついたブーツを蹴りあげ、清潔な白いパンティーをのぞかせる。オフスクリーンで、ブラスバンドの泥臭い金管の響き。 旗を広げつつ、ミッキー青年隊行進バンド団員が足並そろえ、ドイツ式革ズボンとミッキーの耳つき革帽子を身に着け、ナチスドイツ式に脚を曲げずに行進。それをにぎやかに見守るのは、十字架崇拝、ポップコーンとホットドッグくちゃくちゃの白人の群れ。みんな、まるでアパラチアのミュータントが近親相姦してできた、拡大家族が七月四日アメリカ独立記念日ピクニックに集まったかのような外見と行動だ。最初のはりぼてが見えてくると、群集は大歓声をあげる―― 白んぼミュータント軍団 ハイル・ミッキー! ハイル・ミッキー・キリスト! 茨の冠をかぶり、ミッキー・キリストはその風船っぽい白手袋で、ネオン製の十字架にぶらさがっている。そのフクロウのようなウォルター・キーン目玉は悲しげに天を仰いでいる。 くちばしの曲がった九官鳥が、黒いラビっぽい服装で、はりつけになったネズミに石を投げる。ユダヤ教徒のヤルムルカをかぶった鳥が、ミッキーの腰布の下をのぞく。 ヤルムルカ九官鳥 (強いイディッシュ訛り) 包皮切除? 切除されるもんがありませんわい! 太いタイヤをつけた飼い葉桶もどきにのって、三羽カラスのヒューイ、デューイ、ルーイが藤編み乳母車の中でお互いのくちばしをつつきあう。気狂い帽子屋とそのお茶会仲間が、最後の晩餐の新解釈を披露。群集は、愛情こめた笑いでそれを迎える。 雷が響き、稲妻が金を散らした紫の空を走る。 ふくらんだ、薔薇色の頬をした、ふくよかなピンクの天使が長い金のらっぱを吹き鳴らし、派手に旗が並ぶ、世紀末の通りの上をはばたいて、プラスチックのキラキラお目々をしたサーファー的ブロンドのキリストの到来を寿ぐ。群集、口笛を吹いて喝采。 白い羽根の鳩を肩にのせ、われらがプラスチック・キラキラお目々の神は、紫のクッションを敷いた玉座に立ち、ローズ・ボウル・パレードのクイーンに選ばれたふわふわ娘のように微笑んでいる。腕を宙にあげ、群集を今にも祝福しようとしているかのようだ。その指の間に赤い花弁のバラが現われる。その指が、中国の爆竹のようにはじけて煙る。バラは無数のワンダーブレッド社のパンと、バンブル・ビー社のツナ缶に変わる。イエス、それを群集に放り投げる。 イエスは腰をおろして、聖霊と冗談口を叩きあう。ツナ缶とワンダーブレッドで餌付けされた信奉者たちは大喜び。 聖霊 罪だよ、このバカ! つ・み! 神殿から罪を追い出せって言ったの! SFX: 爆発するようなくしゃみがオフスクリーンで。 イエス・キリスト God bless you! (お大事に!) イエス、くしゃみのした方向に顔を向けるが、途端に大量の鼻水を浴びせられる。そのプラスチック・キラキラお目々が、マンガっぽい驚きでぱちくり。 屋外。眠れる森の美女の城――昼間。 チョコレート・フォンデューにひたされたような、巨大なサクランボ型の鼻が、眠れる森の美女の城の壁にはりついている。その鼻孔からは青っぱなが垂れている。 屋外。アメリカ目抜き通り――昼間。 群集、訳のわからぬパニックで霧散。歩道を覆った粘液ですべっては転ぶ。 屋外。眠れる森の美女の城――昼間。 城の壁をじわじわと下だりつつ、巨大な鼻は鼻汁を垂れ流し、フガフガとアメリカ目抜き通りの方へと向かう。 派手なくしゃみと共に、ゴジラ級の鼻は溶岩をぶちまける火山の勢いで噴火し、通りを厚い粘液層にまみれつくさせる。茶色の、大岩並の鼻クソが通りを転がり、パニックした歩行者を押し潰す。青っぱなの洪水の中で、人々は腕をふりまわしつつ溺れ死ぬ。鼻は怒りに身をのけぞらせ、台風級パワーで思いっきり息を吸い込む。人々は地面から巻き上げられ、対の鼻孔の毛だらけの暗がりに吸い込まれる。 突然、通りに無数の亀裂が走り、割れる。キリストのパレード車は、安物の縁日のライドのように揺れる。アスファルトとコンクリートの塊が、宙にゲップされて舞い飛ぶ。何百もの骨の浮いた手が、瓦礫の中から手探りで現われ、パレード車のはりぼてを千切り、その金網フレームをむき出しにする。 パレード車の下のクレーターからは、無数のゾンビがよじ登ってくる。腹部の腐った穴からは、内臓がロープ状の輪になってぶら下がっている。ゲロ状の腐臭漂う粘液をジクジクさせつつ、何百ものゾンビがパレード車の横につかみかかり、できものだらけの腕が、われらが主めがけて伸ばされる。その手は主の目玉を片方えぐりだす。目玉はハッシシ・パイプに詰められ、吸われる。別のゾンビが主の指をかじり血をサンダーバード・ワインの空きびんに注いで飲む。キリストのあばら骨がむしり取られ、辛いソースとバターの鍋にぶちこまれ。それからバーベキューされる。頭は首から引っこ抜かれ、スイカのようにかじられる。 ディズニー・マジックモールはゾンビに占拠される。ゾンビたち、ファンタジーランドのアイスクリームとキャンデー製の装飾を蹴散らし、トゥモローランドの技術的な驚異の上を、モノレールで走り回る。 ゾンビたち、巨大ティーカップに乗ってクルクルとまわる。ディゾルブして: 室内。眠れる森の美女の城――昼間。 手にした提灯の光で、ゾンビマスターとびっこのエルビス・ゾンビの影が、狭苦しいクモの巣だらけの廊下に落ちる。エルビス・ゾンビは杭と木槌を抱えている。 ゾンビマスター 今こそディズニーによる白人優位主義の恐怖政治に終止符を打ってやる! エルビス・ゾンビ はいご主人様、白チャンどもは皆殺し! コウモリが視界に飛び込む。エルビス・ゾンビ。宙でそいつの翼をとらえ、丸ごと飲み込んで、顔中を鮮血まみれにする。 ディゾルブして: 室内。眠れる森の美女の城――地下室。 提灯を持ったゾンビマスターと、杭に木槌を持ったエルビス・ゾンビは、ボロボロ崩れかけた石段のてっぺんに立つ。そしてそれを下だる。 ゾンビマスター、冷凍室の金属ドアを開ける。その中には、ガラスの棺に眠るウォルト・ディズニー。 ゾンビマスター、眠れるウォルトを見下ろし、棺のガラスのふたを開ける。そして杭と木槌をエルビス・ゾンビから受け取ると、杭をウォルトの心臓に打ち込む。 ディズニーの首から煙とスパークが飛び散る。眼窩は青く燃え上がる。からだはつり上げた魚のようにはねる。顔は、次々に不自然な表情をつくる。 ゾンビマスター、はっと気がついて目を大きく見開く。 ゾンビマスター なんだ、ディズニーは冷凍になんかなっとらん! こいつぁ自前の発狂デザインによるただの人形じゃ! ディズニーの顔が黒ずんでとける。その下には網のような配線と、小さな点滅する豆電球。 ウォルト・ディズニー ゾウが空飛ぶ……五十年たった……して……汚物……のびんから……小便臭い街角に……そしてファンタジーランドの栄光が明らかにされる! ウォルトの目が輝き、頭が爆発。からだが炎に包まれる。 溶暗。 屋外。アメリカ目抜き通り――夕方。 勝利で胸を張り、ゾンビマスター歯アメリカ目抜き通りをかっ歩。その助手がひょこひょこと並んでいる。ディズニー・マジックモールは瓦礫の山と化している。いたるところに火の手があがる。通りは鼻汁まみれ。何百ものゾンビがうろつき、血まみれの死体をかじっている。グーフィーの頭が、背の高い木の杭のてっぺんで笑っている。その目からは血が滴る。 女子鼓笛隊の一人が、鼻水のあぶくの中に捕われている。それを横目に、二人は泥の中で潰された白井鳩をまたぐ。気狂い帽子屋の「10/6」と書いたシルクハットをかぶったゾンビが、水ぎせるをくゆらすイモムシとクラック・パイプを分け合っている。エイブラハム・リンカーンのロボットが、混乱してよろよろとうろつきまわっている。 ゾンビマスターとエルビス・ゾンビ、最後に巨大な鼻のとろこにやってくる。鼻孔からは大量の血がドクドクと流れ出している。悲しいことに、それは道端で死にかけている。ゾンビマスター、目に涙を浮かべる。 ゾンビマスター わが友よ、おまえはよき兵士だった。雄々しく勇気をもって闘ってくれた。革命はお前を忘れることはないだろう。 炎上する騒乱の中から、ぼろぼろのゾンビたちが大量に集まってくる。ゾンビマスター、鼻をなでる。 ゾンビマスター さようなら、わが友よ。 エルビス・ゾンビの目は天を仰ぎ、近くの炎がその顔を照らす。エルビス・ゾンビ、ゴスペルを鼻にかかった声で歌いだす・他のゾンビたちもいっしょにうめく。 エルビス・ゾンビ ラバの背にまたがりてモーゼとともに…… 音楽が盛り上がり、歌は突然アップビートのロックンロールへと急転。 エルビス・ゾンビ One for the money! Two for the show! Three to get ready! Now go! Go! Go!1 複雑な空手の蹴りと突きを繰り出しつつ、エルビス・ゾンビはラスベガスのステージに戻ったかのような動きを見せる。不幸なことに、腐敗が進行していたため、からだがちぎれ、その一部はまっすぐにカメラのレンズに激突。クモの脚をはやしたJFKの頭が、かつて「エルビス」だった汚物の山の横でうめく。 終わりのクレジットが流れる中、みんなは血を流す鼻のまわりを囲んで手をつなぎ、「ウィー・アー・ザ・ワールド」のタブローをつくる。翼を生やした骸骨が、サイケデリック'60sの装飾をつけて、エレキギターを弾く。骸骨、ストリングにかじりつき、ギターを炎上させる。以下のことばが現われる: THE END 室内。グラインドハウス――観客席――夜 すりきれたビロードのカーテンが、映画スクリーンの白い空白におおいかぶさるにつれ、観客席の頭上の明かりがつく。同時にバブルスは、目の前の座席の列の下に飛び込む。 ロビー目指して匍匐前身しつつ、バブルスは生あたたかい安ウィスキーの水たまりや、湿けたポテトフライの中を進み、視界の端ではあたりの状況をうかがっている。 スリンキー(階段などを一人で下りるバネのおもちゃ)と歩調をあわせてはずみつつ、騒々しいマペット黒人軍団がひものほどけたスニーカーの爪先で通路を下だり、綿のつまった腕を様式化された傲慢さでふりまわしている。 サイレンまがいの大音響重低音ラジカセをフルボリュームで鳴らしつつ、野球帽をかぶった黒マペット(あるいはバペット)二人が「IT'S A DICK THAANG! YOU WOULDN'T UNDERSTAND」(野郎の話! あんたにゃわからん! くらいな感じ)と書いたTシャツを着て、ボール紙製の皿に入った芥子ソースの手羽焼きをかじっている。 バペット1 おぉっと! とんでもねぇこと思いついた! ちょいと銭たかって、セントラルパークにでかけて、白んぼヲンナを強姦しちゃうのよ! バペット2 それいい! ニューヨークポストの一面に、あのデブのドゥ・ラグ司教と握手してる写真が載るぜ――「黒人青年セントラルパークでコーマンきめる!」六時のニュースでクソたっれどももっと脅かしやる。たまんねっす! バペット1 決め! そいでラップやって、そいつぉレコードに仕立てて、んでガッポリ稼ぐ! 女を全部モノにする! バペット2 おっし! そのノリ! ネーチャンどもみんなにしゃぶらせる! チキンの骨を一面に巻き散らしつつ、バペット二人は檻に入ったアカゲザルにクラックをやらせたように、ぴょんぴょん跳ね回る。そして化け物じみた大きさにまでふくれあがり、床に転がって頭をボカスカ叩く。どちらも凄い勃起の復活祭の卵のようだ。 バペット2が立ち上がる。コットン製の手が、興奮の仕草。 バペット2 もっとすげー儲け話! こいつを映画に撮んの! 映画に! モロ現場で! セントラルパークで! 生中継!シネマ・ヴァリテってやつ! 何とかいうブラザーが六〇年代の昔に書いた見たく、こいつを革命的行為だって言うわけ! バペット1 (混乱してピンポン玉の目をギョロギョロさせつつ) 何とかいうブラザーって? バペット2 (バペット1の後頭部をはたいて) あのチンコの突き出したズボンをつくったやつだよ、このウスラぼけ! このクソをカンヌで上映して、グランプリになって、リビエラで超ビキニのネーチャンたちの山にしゃぶらせんの! バペット1 乗った! ’したら自前の「店」出して、野球帽とかTシャツとか売りさばく! それもしげみでヲンナに突っ込みかましてる生写真つきのやつ! バペット2 そうそう! まだ続き! テレビでスニーカーのCMなんてのも! でも、とりあえず手初めに、銭たかんねーとな。 バペット1、オフスクリーンにすわって影を床に投げかけている男に話しかける。 バペット1 Yo, man! 五ドルある? 影が立ち上がる。 影 (喜々として) 五ドル? もちろんあるよ。さあ五ドルを――どうぞ! SFX:ズドドドド! 青い閃光が、バペット1の顔に浮かんだ驚きの輪を照らしだす。綿の詰めものが、胸に開いた弾痕から黄色い塊となって落ちる。開いた腹からは、可愛いおもちゃの内臓が飛び出す。 影 (気遣うように) それだけで足りる? 最近は何かと物入りだろうに。もっとあげよう。 SFX:ズドドドド! 銃弾、バペットの色を塗ったピンポン目玉をはじき飛ばす。ピンクのクッション製脳味噌が。その紙製頭蓋骨から落ちる。 影 (明かるく) 今日のインナーシティにおける若いアフロ・アメリカ青年たちを取り巻く麻薬危機は、ほとんど大量虐殺にも近い状態になっているからねえ。わたしもできるかぎりの手助けは惜しまないつもりだよ。十ドルくらいじゃ立ち直るのに足りないだろう。 SFX:ズドドドド! バペット1、床に倒れる。影はバペット2に向き直る。 影 (親しげに) きみはどうだい? きみも手元不如意な感じだねえ。 バペット2 いい! いらないって! 金はいいから! 影 (同情をこめて) いいや、ぜひとも受け取っておくれ。構わないんだよ。わたしは十分に持っているんだから。こういう恵まれた地位にある人間は、みんなもっとわたしを見習うべきなんだ。あの黒人起業家の模範2 がテレビで宣伝してたスニーカーを見たけれど、こんだけあればあれが買えるだろう! SFX:ズドドドド! バペット2、風船のように破裂。綿の詰めものが宙を埋め尽くす。 影は銃を乱射し、バペットたちを、まるで縁日の射撃の的の紙製アヒルのようになぎたおす。絶叫する金歯のバペットたち、狂乱して出口に殺到し、お互いを踏みつける。 ウージーの掃射を全開にして頭上の照明を壊しつつ、武装バペット軍団が飛び込んできて劇場を混乱の闇に変える。影の白い細面が、銃撃戦の銃口の火でストロボ状に照らされる。 白いひものドック・マーテン・ブーツで、影はギョロ目の綿製黒んぼの死体の山の上で歌い踊る。伴奏は銃声、警察のサイレン、そしてゲップするラジカセ・バペットたち。 影 トム・ディクソンも言ってただろう! 人種混交には気をつけろって! でもリベラルどもが小賢しく立ち回り 黒んぼどもがのさばって! デカ黒チンコをズッコズコ! サミー(デイビス・ジュニア)がニクソンと抱き合ったのを覚えてる? 白人の権利のために闘え! (たわ言には耳を貸すな!) わたしはきみの不安を口に出すだけ 白人種・高等人種が 消え失せる! この混沌と無秩序の世界で 時間はどんどん短くなる まるで水面下で呼吸するみたい。 白人種の境界線はどんどん縮んでる 白人よ! 秩序に忠誠を! 白人の権利のために闘え! (たわ言には耳を貸すな!) ウージー武装の黒んぼども シオニストのユダ公どもの援助を受けて クソったれのお気楽黒んぼめ! 寝込みを襲ってぶちのめせ! それから風呂にしょんべんしてやる! このこの雑種の雑音を削除すべく 新たな劇的算数を! 「その一:標的に照準を。爬虫類みたいになれ。かれは微笑んでそう言った。そして目は明かるく輝いた。射撃のパターンは左から右へだぜ」3 ムラートのゾンビども、混血アカども に白黒まだらの変態どもめ! みんな団結して こんな軟弱不純血の輩を抹殺せよ! 「おれは殺すだけ。善悪はあんたらが決めな」4 チリチリ頭! 山猿! ワニの餌! 黒ちゃん! 並べろ! 掃射! 月に発送! 白人の権利のために闘え! (たわ言には耳を貸すな!) 「頭蓋骨の中の脳味噌がガラス球なら、反射、ひたすら反射だけで動くことになる。あいつの言ったのは正確には『五ドルくれよ』だった。おれのポケットのふくらみは……おれにとっては脅威でもなんでもない」5 影 ミドリザルの精液の バイ菌すすって ジャングル小屋で ヒヒのケツはめ Yo! 白んぼさんよ! 純血でファンキー! アフロアメリカの死のサルと 血を混ぜたりすんなよな! 白人の権利のために闘え! (たわ言には耳を貸すな!) 「弾さえあったら、あの連中をもっともっと撃ってただろう。おれにとっての問題は、弾が切れたことだったんだ」6 白人よ、目覚めよ! ゾッグ政府で 目がくらんじまったか! 影は黒のトレンチコートの前を開ける。そこにはからだにはダイナマイトが巻きつけられている。導火線に火をつける。 ドッカーン!! 白人男の死体一丁上がり。 カットして: 室内。グラインドハウス――ロビー――夜。 夜警棒振り荒れる夜7 爆発の衝撃でバブルスは噴き飛ばされ、二重ドアを抜けてロビーに飛び出す。そして、ポップコーンと詰めものの綿の山に転がっているバペットの事切れた死体の上に落ちる。そのバペットから野球帽とウージーを取り、ポップコーン・メーカーの割れたガラスケースに寄りかかりつつ立ち上がる。帽子をかぶって調節し、ひさしを横にする。 男便所からバペットがよろよろ出てくる。金歯の間にクラック・パイプをくわえている。バブルスの裂けたビキニトップから乳首が飛び出しているのを目にして、かれは自分の股間のふくらみを弄ぶ。 バペット (ニタつきながら) Yo, AAP8 のネーチャン! ここにでっけえサルがいるぜ! バブルス、腰だめでウージーを構え、相手ののどに狙いを定める。 バブルス あんた、その髪型並に真面目にしてやるよ。 そして引き金を引く。バペットの頭は、綿を噴きだしながら胴体よりちぎれ飛び、五色のパンヤをふりまきながら宙を舞う。そしてロビーの板ガラス製窓を突き破り、夜の中へと転がり出る。 屋外。グラインドハウス前――四十二番街――夜。 頭が転がり出た先では、バペットの暴徒がグラインドハウスのネオン看板の下でパニックに陥って走り回っている。頭は、通りすがりの黒いコットン製の手の中にすっぽりと落ちる。切断された頭の目が、眼窩の中でギョロギョロと回転。頭を受け止めてしまったバペットは、恐怖で金切り声をあげる。その蛍光色の髪がピンと逆立つ。 髪の逆立ったバペット うっひゃー! ヒップホップ・フードゥーにやられちまったぃ! 脅えたバペット、腕を振り回し、頭は宙を舞って、韓国人経営の電気屋のウィンドウに飛び込む。ガラスが輝く砕片となって歩道に降り注ぐ。 銃弾が飛び交う中、ビンを投げるバペットの群れが、燃え盛るかがり火とひっくり返ったゴミバケツの中で暴れまわる。 警官隊が、軍隊状に四十二番街を行進し、催涙ガスの発煙筒を暴徒たちに投げつける。 警棒を構え、昆虫軍のような暴動鎮圧装備に身を固めた警官たちが、悪魔の目をした馬に乗って暗闇の中をギャロップし、ギョロ目の黒んぼどもを群れごとなぎ倒す。 うなるサイレン。装甲車のバブルトップが回転。警察のヘリが頭上に滞空。 バブルス、グラインドハウスの何もない窓枠から外に出て、緑っぽい催涙ガスの霧めがけて間欠的にウージーを発砲し、黒い肌からパンヤの玉を流している、ボロボロの人形たちの迷路の中を戦い抜ける。バペットたちは炎上し、狂ったようなデルヴィシュの踊りを踊りつつ崩壊する。 金属的な、ドラム状のジャングル・ビートが、不吉なリバーブを伴なってあたりに響き渡る。半透明の影が群集を包み込む。混乱が静物へと変わる。空気が緊迫。 突然、空からコウモリ翼の虹色のかたまりが空から降ってきて、騎馬警官隊をのみこむ。ピンポン玉の目が、畏れに口をあんぐりを開けて見上げる。 カットして:身長二百メートルのサイボーグが、タイムズ広場の派手なネオンの輝きの上にぬっと立っている。 まるでティラノザウルスと鋼鉄男ジョン・ヘンリーをかけあわせた存在が、クローム・キャップつきの伸縮自在ペニスを鈎爪の手に握り締めているかのようなサイボーグである。その顔は平たく残忍で、卵型の頭についた眼窩の中からは、それぞれ赤い光線がのびている。その巨大な黒いフレームにつくりつけられた小さなロケットは、青いジェット炎の息を吐く。サイボーグ、のっしのっしと歩く。足音は、大きく鈍い。目が危険な赤に輝く。 サイボーグ、その節つきの金属ホースをしごき、ザーメン状の物質を宙に撒く。ゼリー状の精液が通りにあふれる。バペットたちは恐怖でちりぢりに逃げ去る。警官たちは踏み潰される。 カットして: 赤外線サイバネティック暗視装置で、サイボーグは周辺を走査。結晶化した精液が、見渡すすべてを霜のように覆っている。サイボーグの感熱式光学モニタ上でカーソルがビープ音をたてる。意味不明の文字が、デジタル・ディスプレイに表示される。モニタ、ラバー装束のSM女王さまの姿を拡大して映す。腰に浣腸器が巻かれているのが見える。 サイボーグの頭が、ゴリゴリと音をたてつつ下に傾き、ガラスの枠に入ったSM女王さまのポスターの下に向けられ、バブルスを見つける。バブルスは、ポルノ劇場の開放式ホワイエの影にしゃがんでいる。 サイボーグ、爪で彼女をすくいあげ、不審そうに見つめる。眼光は、愛情らしきもので和らぐ。サイボーグのあごがカパッと開く。 バブルス、そこに投げ込まれる。ぱくん! サイボーグ内部――イメージ室。 ネグロマンサー9 思いっきり金切り声をあげながら、バブルスはサイボーグのよじれた臓物トンネルを転がり落ち、ブラックライトで照らされた部屋の八角形の床に着地。壁は絶えず変わり続けるイメージの混成。バブルス、身を起こしてその混乱を見つめる。 目が紫外線の光に慣れてくるにつれて、おぼろな後光を浴びたシルエットがイメージ室の壁から浮かび出てくるのが見える。中身のない白いリネンのスーツに、ゆっくりと焦点があわされる。スーツのズボンの脚がマリオネットのようによじれ、袖口の少し下では白手袋が浮かんでいる。ラベンダー色の霧がシャツのえり部分から吹き出して、宙に浮かぶ夜光性ドレッド・ヘアとなって固まる。光る目玉が二つと、ぷっくりした赤い口が、編まれた髪の巣の下の卵型空間で輝く。 トーキング・ドレッズ わたしのおもちゃが気に入っていただけたかな? これぞ未来の黒人――百九十トンの全身都市戦闘機械。わたしの設計者たちは、きみたち地球の世紀末に書かれた本から発想を得たんだよ。「トム・スウィフトと蒸気駆動の黒んぼ」という本からね。 古ぼけたハードカバーの本が、空中に物質化して出現。トーキング・ドレッドの白手袋をはめた手が、本を開いて銅版画のイラストを指し示す。そこにはがっしりした方は場の広い白人少年が、巨大な黒いロボットの尻にある開口部に石炭をシャベルで投げ込んでいるさまが描かれている。キャプションにはこうある。「すごいぞ、トム! 綿繰機に匹敵する発明だ!」 トーキング・ドレッズ なかなか可愛いイラストだろうが、え? 本は脇に投げ捨てられる。と、それはラベンダー色の輝きとともに蒸発。バブルス、不思議そうに首をかしげ、宙に浮かんだ目玉をのぞき込む。口が、勝手知ったる様子でにっこりする。 トーキング・ドレッズ どっかで見覚えがあると思っているんだろう? どこかで見掛けたような気がする、どこだかは思いだせないんだけれど、この顔は知っている。そしてその既視感が不思議なんだろう。だが何の不思議もないんだよ。わたしは以前にも、きみたちの世界と接触を行なったことがあるんだ。 この惑星との初の知的コミュニケーションの試みは、惨胆たる結果に終わったよ。まったくの不発。わたしは自分の存在を伝えるべく、自分を彼女の夢に投射したんだ。インドに住むスコットランド女性。残念ながら、彼女はわたしの送信をごちゃごちゃにしてくれてね。映像が頭の中で歪んで、それが根をおろし、雑草のように広がってしまった。その結果がこれだ。 第二の絵本が出現する。今度はマゼンタの煙とともに。トーキング・ドレッズ、それをバブルスに手渡す。バブルス、それを開いて読み始める。 ? チビくろザンボ  チビくろザンボは黒んぼの男の子です。または黒ちゃんです。あるいは土人の子。あるいは、有色人種の男の子の呼び名ならなんでも――炭俵、インク小僧、たどん、泥人形、なすびっ子、チョコレート・ムーンパイなどなど。そしてチビくろザンボは、かあちゃんと一緒に、泥と葉っぱでできた一部屋しかない小屋に住んでおりました。この小屋はジャングルの中の、ワニまみれの沼の近くに建っておりましたので、ザンボをワニのえさと呼んでもいいでしょう。  ザンボとかあちゃんの住む小屋には、あまりものがありませんでした。土の床、サイコロがいくつか(ザンボとかあちゃんは、サイコロ遊びが好きだったのです)、そして何百匹もの大きな茶色いゴキブリ。ゴキブリたちは羽根をカチカチぴしゃりとはばたかせ、小屋の中をブンブン飛び回っては壁にぶつかっていました。  ザンボのとうちゃんタンボは、安物のやし酒を呑むのが好きでしたが、ザンボが生まれるずっと前に家を出てしまったので、ザンボとかあちゃんはとっても貧乏でした。ジャングルには、母子家庭の生活保護手当てをくれるところがなかったのです。ジャングルは野蛮でしたから。少なくとも、ザンボのかあちゃんマンボはそう言っておりました。「いつんなったらここも文明化して、あたしも生活保護が受けられっようになんのかねえ」  ザンボのかあちゃんはゴリラのように巨大で、見た目もゴリラみたいでした。でっかな赤い口が、粘土の皿二枚をつっこんで変形させられて張りだし、鼻には大きな骨が通してありました。それに手を地面にひきずりさえしていたのです。  ザンボも見た目は五十歩百歩でした。「神様! こんな醜い子を授かるなんて、あたしが何をしたってんですか!」とかあちゃんはうめいたものです。「それに、なんだってこんなチリチリの毛にしたんだか! 羊の尻のもつれた毛みたいじゃないか!」  ザンボはほんとにほんとに真っ黒でした。槍振り土人のチョコレート並、とかあちゃんはいったものです。唇をカタカタ鳴らし、ザンボにむかって、おまえは見たこともないほど真っ黒な子だともうしました。フライパンより真っ黒だと。  「そんなにクソ真っ黒?」とザンボ。  「そうともよ! あんたが生まれた時にゃ、あんたがあまりに黒かったもんで医者はあたしをひっぱたいたもんだよ!」  かあちゃんにそう聞かされて、ザンボの目は大きく悲しそうになりました。そしてこう思いました。「なんでこんな黒くてブルーになっちゃったのかな?」  (時々ルイ・アームストロングはバンドをつれてジャングルにやってきて、ジャングル・バニーたちのために演奏しました。チビくろザンボがブルースに言及することが多いのはそのためです。演奏にはジャングルのジャングル・バニーたちが勢ぞろいして、最高の羽根で着飾って大麻を吸ったものです。ルイが吹くと、タコのように舞い上がったジャングル・バニーたちは「ウーガ・ブーガ!10 」と歓声をあげたものです。)  さてチビくろザンボはスイカが大好きでした。でも、赤い汁気の多い部分は食べませんでした。種が嫌いだったからです。  「ジャングルで種なんか吐き出してたら、アホみたいだろが。口に種が詰まってたらライオンが殺せねえや」  だからザンボは皮だけ食べて、残りは捨ててしまいました。  でもスイカよりもザンボが好きだったのは、ホットケーキでした。皿入り唇のかあちゃんよりも、ホットケーキのほうが好きなほどでした。甘い砂糖まみれのシロップと、熱い黄色のバターを滴らせた、高さ一キロメートルにも積み上げられたホットケーキ! 考えただけで、ザンボの唇はよだれで濡れるのでした。うーん!  ザンボのかあちゃんは、毎日三回朝、昼、晩と、ザンボにホットケーキをこさえてやりました。しかもインスタントではなしに。ジャングルでは、ジェマイマおばさん印のホットケーキ・ミックスは売っていなかったのです。  ザンボはパンケーキのつけあわせに、伝道師ソーセージがほんとに好きでした。「かあちゃん、いつんなったら聖書広めの白んぼが喰えんの?」  そこでザンボのかあちゃんは歯をやすりで研いで、新鮮な絵の具を顔に塗ってしげみに隠れ、丸々太った白い伝道師を捕らえるのでした。そして赤身をミミズのような挽き肉に挽いて、サルの腸に詰め、油できつね色に揚げるのでした。  「うーん、おいしいよう! かあちゃん、おれ、白人って大好きだよ!」  ある日、ザンボのかあちゃんはパンケーキの練り粉を一からこしらえ、空飛ぶゴキブリの空挺師団を撃退しつつこう言いました。  「ああ、あたしたちゃなんて野蛮なんだろうねえ! 生活保護もなけりゃ、ジェマイマおばさん印のホットケーキ・ミックスもない、何もありゃしないんだよ、このジャングルには! いつんなったら文明化して、アメリカの白んぼさんたちに綿を摘んであげられるようになんだか!」  ザンボはかあちゃんの腰みののすそを引っ張りました。(ザンボのかあちゃんは、この腰みのしか身につけておりませんでした。黒いブッシュベイビー的尻と、ひしゃげたジャングル女おっぱいむきだしのかあちゃんの写真が「ナショナル・ジオグラフィック」に掲載されて、かあちゃんはやっと文明化されつつある実感がわいてきたものです。生活保護の小切手が舞い込んでくるのが、目に映るようでした)「かあちゃん、それに熱い黄色のバターもないよ!」  「あれまあ」とかあちゃんは嘆きました。「熱い黄色バターもないって? 子供を抱えたあたしゃどうしたらいいんだい! この子は甘い砂糖まみれのシロップだけでホットケーキを喰わにゃなるまいよ! こんな野蛮なジャングル暮らしはもうたくさん!」  「かあちゃん、泣かないで!」とザンボは、フォークでホットケーキを口に詰め込みました。「見てよ! 食べるから! 甘い砂糖まみれのシロップだけでもおいしいよ! あんな熱い黄色バターなんかいらんって! 熱い黄色バターなんて、からだによくないんよ! コレステロールは高いし、動脈硬化は起こすし、高血圧の原因だし! 高血圧は、今日黒人の死因のナンバーワンです! あの空飛ぶゴキブリどもにも、いいとこ一つだけあるよ! やつら、ひたすら菜食主義だかんね!」  この種の発言の常として、ザンボはうそをついておりました。  かあちゃんが鞭でぶちのめされた犬のように号泣している横を、ザンボはホットケーキの皿をもって、口をとがらせつつ小屋から歩み出ました。ぷんぷん怒っていたのです。  「ちくしょう! 絶対に熱い黄色バターをめっけてやる! あんなとこにすわって、金持ち白んぼ連中に文明化してもらったり、ジェマイマおばさんといっしょに綿をつんだり生活保護の小切手もらったりすんのを待っててたって、熱い黄色バターは手に入りゃしない! だいたい、綿ってなんじゃい? ちくしょう!」  ザンボは、ホットケーキを高く積んだ皿を手に、うっそうとした暗いジャングルを歩いていきました。突然、やしの木陰からとらが踊り出ました。「よう小僧! 看板が読めんのか! 『黒ンボ厳禁』って書いちゃるだろが!」  「ううん、おいら字が読めないもん。ブンメー化されてないもんでね。黒チャンって何?」  「なめた口きいてんじゃねーぞ、小僧! おれの故郷じゃ黒ちゃんのガキを喰うんだからな!」  「喰っちゃえられんの?」とザンボは、こわくて目を見開きながら震えていいました。  「喰っちゃえられるとも」ととらは、妙にていねいにもうしました。  「えらきゃ喰っちゃえられってみな!」ザンボはすばやくほこりを舞いあげながら、やしの木によじのぼりました。  とらはちび黒んぼのすばやさにびっくりしました。  「このちょこまかしたチリチリ頭の小僧め! いますぐ下りてこい!」  ザンボはひざの上でホットケーキの皿のバランスをとりながら、やしの木の上からとらを見下ろしました。そのようすはまるで石炭のかたまりのようでした。  「あんた、いったい正気かね? そう言われたからって、はいそうですかとおいらが下りてくとでも思ってんの? それでおとなしく喰われてやるとでも? とらの旦那よぉ、ここはジャングルかもしんねーけどな、かあちゃんはアホを育てたわけじゃねーんだぜ!」  ザンボが笑うと、見事な歯並びの白い歯がのぞきました。  とらの顔は、憤りのあまり真っ赤になりました。足を踏みならし、しっぽをたたきつけます。  「この口の減らない山ザルめが!」ととらはあたまから湯気をたててもうしました。「こっちはおまえら黒んぼどもに、ゴキブリまみれの小屋をつくるための泥や葉っぱをありったけくれてやって、槍をふりかざすのに十分なオープンスペースと、喰い放題のやしの実をくれてやったってのに! その見返りに求めているのはチンケな飯だけだってのに! きさまら黒んぼども、ちったあ感謝の念を見せたらどうだ!」  「カンチャってなあ、なんだい、とらの旦那?」とザンボは無邪気にたずねます。  とらは、ザンボの黒んぼ的まぬけぶりに、目の前が見えなくなるほどの怒りをおぼえました。前足をげんこつに握って、ふりかざします。  「愚鈍なジャングル小僧一匹! おれが求めたのはそれだけだ! いかれた髪のインク野郎! こいつが消えたところで、だれも悲しみやしない。でっかい醜い、鼻に骨を通したかあちゃんだって? あのデブのスイカとホットケーキばばあなら心配いらねえって。てめーの正気をなくしたってのに、いまだもって気がついてないような女だろうが!」  これをきいてザンボは怒りました。とらは、ザンボのかあちゃんの悪口をいっているのです! でっかいし、醜いし、鼻に骨を通しているのは事実ですが、それでもかあちゃんにはちがいありません。このとら、どうかしちゃったんだろうか? 人のかあちゃんのことを、サルのウンコよばわりしたりしちゃいけないことくらい、知らないんだろうか?  「ほざきやがれ、飼い猫のくさったの! 下りてって、しましまが消えるくらいぶちのめしちゃうぞ!」  とらは笑いました。「こっちはてめーを引っぱたいて脱色してやるぜ。ついでにあのデブのホットケーキ気狂いのかあちゃんも! さ、えらきゃ何とかいってみな、このガキ!」  ザンボはとらの頭にやしの実を投げつけました。  やしの実は、とらの耳の間に大きな脈打つこぶをニュッとつくりました。くらくらしてやしの木のまわりをまわりますが、その頭の周りを星がくるくるまわっています。鳥がまわりをぴいちくぱあちく飛んでいます。目の中を隕石が飛び交います。  正気に戻ると、とらは怒りのげんこつをザンボに振りかざしました。  「こうなったら痛めちゃるかんな、このウージー武装のガキんちょめが! しまいにゃもう二度とラップが聴けないようにしてくれる!」  とらはやしの木のまわりをぐるぐると駆け出しました。  「せいぜいそっからの眺めを楽しんどけよ。とっ捕まえて、故なまいきな黒ガキにしてやるからな!」  とらはどんどん速くまわりだしました。あんまり速く走ったので、すばやい黄色の光がぐるぐるまわっているみたいです。  「チリチリ頭! ジャングル小僧! インク野郎!」ととらは吠えます。  とらはますます速度を増しました。「槍持ち土人! マウマウ唇!」  突然、炎が輝き、焦げ臭い煙のにおいがしました。輝きで、ザンボは目が痛くなりました。一瞬のうちにとらは消えました。チビくろザンボはびっくりして目をぱちくり。  ザンボは自分の目が信じられませんでした。ちいさなげんこつで目をこすり、目をぱちぱちさせてみます。でも本当でした。とらは消えていました。  そして真下には、やしの木を囲む明かるい水たまりのように、熱い黄色のとらバターが四百キロも!  チビくろザンボは唇をならしました。  やしの木をへこへこ下りる直前にザンボの頭に浮かんだのは、ホットケーキのつけあわせのことでした。やすりで研いだばかりの歯で、ジュウジュウいう伝道師ソーセージにかぶりついたらどんなにおいしいだろうな、と。 おしまい ? 本を閉じて目をあげたバブルス、トーキング・ドレッズが檻に入れられたヒョウのように、八角形の床を行ったり来たりしているのを目にする。 トーキング・ドレッズ わたしのイメージは、そうやってきみたちの世界に浸透していったんだ。この女の文化的な枠組みでは、わたしの存在を理解するための心の準備は皆無だった。彼女は己れの知識の総和の外にある存在など、想像もつかなかった。そこでわたしの存在が引き起こした混乱を説明すべく、自分の知っているものに依存したわけだ――いたずらっぽい肌の黒い少年と、権威主義的なとらとにね。さもなければ、彼女は語られぬほどの深みにいたる神秘的融合を体験し、きみの世界における予言者となっていたことだろう。  この女性の混乱に端を発する累積効果は、まったく予想外のものだった。びっくりさせられたよ。このわたしが、絵本やマンガやアニメなんかに登場するようになったんだからね! わたしの顔が小麦粉の袋のマークになり、絵葉書や糖蜜のびんや、シーツや壁紙のマークになるとは! あげくの果てには、子供用のぜんまい仕掛けのブリキのおもちゃにまでなったよ!  わが知性は地球最高の知性をも凌駕するが、そのわたしをもってしても理解できなかった。わたしは地球外生命体であって、なんでもござれの宇宙サンボじゃないんだ! 別の惑星からやってきたんだぞ! きみの世界があと二千年はかけないと到達できない技術力を持っているんだ! そういう存在を、脱色剤の箱のイラストなんかで無駄使いするかね!  もちろん、状況を正すべく努力はした。このインドの女性に行なったのと同じ送信を、ある精神科医が受信してくれたよ。かれがきみたちの世界にもたらしたのが『Peau Noire, Masques Blancs』、または『黒い肌と白い仮面』という作品だ。 一度、ある映画作家の夢の中でタップダンスしてやったことがある。ポルノ的な都会動物寓話のアニメで知られる男だが。寝耳にこうささやいてやったよ。」おれは黒んぼだ。踊るのを見てな」 一番うまくいった試みは、あるエジプトの神の名をとったミュージシャンだった。あいつは非常に優れたレセプターだった。しかしながら、そのうちかれはヤク漬け金管奏者のオーケストラを指揮して、「レッツ・ゴー・フライ・ア・カイト」や「ジッピティ・ドゥ・ダー」の自己流アレンジを演奏させるようになってしまった。その時点でわたしはすべてが無駄だと悟り、あきらめたんだ。きみたちの世界は、この銀河でも他の銀河でも、知的コミュニケーションの面では長けていると言い難い世界だしね。かわりにわたしは、この惑星を制圧して、きみたちを分相応の家畜扱いしてやることにしたよ。 バブルスがトーキング・ドレッドの判断の重みを考えているうちに、かれはぼんやりしたラベンダー色の霧にかわり、スーツはくしゃくしゃの山になって床に落ちる。 霧は天井に向かってたちのぼり、ヒューマノイド的楕円にかわり、途方もない大きさにふくれあがる。胴体を離れた、ドレッドヘアーの頭が、テニエルの描いたチェシャ猫の消えながらのにやにや笑いとともに宙を漂う。 トーキング・ドレッズ そうだよ、ブラジルくん。この宇宙サンボは退化した白人の処置を考えてあるんだ…… トーキング・ドレッズの白手袋が、以下のことばをはさんで浮かぶ: 退行性白人用 究極計画 イメージ室の壁が光と色彩でぐるぐるまわり、中空に小さな田舎町の幻影をホログラフ状に浮かび上がらせる。 幾重もの燐光性の霧に包まれトーキング・ドレッズの頭は生真面目で事務的な声で語る。 トーキング・ドレッズ うわべだけ見ると、「ガーヴィーズ・コーナー」は、アメリカの小麦ベルト地帯の黄金の平原にある。ごく平均的で穏やかな町に思えることだろう。 カットして: 夜明け。小さな中西部の町ガーヴィーズ・コーナーに日が昇ぼる。しなびた黒人が、デニムのオーバーオールを着て、カラカラ鳴る鍋やフライパンをぶら下げた廃品回収車を押している。金属製スプーン二つで商品を叩きながら、ブルース調の歌を歌う。 くず屋 ぼろ切れ! 屑鉄! ぼろ切れに屑鉄! くず屋は町の広場に建てられた戦没者記念碑の横を通り過ぎる。かれの歌が、あちこちの路地にこだまする。朝風に、アメリカ国旗がそよぐ。風に吹き流されたチラシが、道端のドブにはまっている。それにはこうある: 町主催バーベキュー大会が今夜! お一人でも! みなさんでも! およそ一九二〇年代様式の建築ばかりの町ガーヴィーズ・コーナーは、ノーマン&ジョージ・ロックウェル兄弟が少年時代の模型列車用にこしらえた町のような雰囲気。秩序ある、並木通りによる地域計画の産物に建つのは、市役所、郵便局、教会、赤煉瓦の学校、保安官事務所、列車の駅。価値観も思考法も、うそ臭いまでにアメリカ的で小さな町的なので、「フランク・キャプラさえ吐き気をもよおした町」と呼んでいいかもしれない。小太りの商店主たちが、店を開ける。銀髪の女教師が、学校の階段をのぼる。郵便配達夫が、駅員に手を振る。保安官はくず屋とおしゃべり。 保安官 おれのいってることがホントにわかるだけの馬程度の知性を持ち合わせてんのかね、おまえは? くず屋、いななき声を出して地弾駄を踏んでみせる。保安官、老人のはげた黒い頭を叩き、角砂糖を投げてやる。くず屋、それを舌で受け止める。 保安官 おまえのその舌使いは好きだぜ。おまえってやつは、ヒキガエル並にすばやいし、黒人のかがみだな。 トーキング・ドレッズ (ナレーション) 慎ましい白い家の窓枠でさましてある焼きたてのアップルパイのあたたかい香りで空気が甘くにおう町、とでも言おうか。 屋外――戸建て住宅――裏庭――朝。 開いた裏窓の下に、そばかす顔の若者二人がしゃがんで、窓辺でさましてある深皿のアップルパイを盗む。 トーキングドレッズ (ナレーション) 男衆が雑貨屋のピクルス樽を囲んですわり、噛みタバコの噛みかすをタンだらけのタン壷のふちに吐き出しつつ、汗水流す黒人の季節雇い労働者についてピント外れのジョークを飛ばすような町と言ってもいいな。 屋外――雑貨屋前――昼前。 男1 見ろや、あの痰。 男2 うん。 男1 でっかい、赤い、ぐにゅぐにゅのクズ。 男2 うん。 男1 まるっきしのイカみてえ。 男2 うん。 男1 日雇いどもに売りつけられっかな。 男2 うん。 男1 連中ならうまそうに喰うぜ。ガーリックオイルで揚げてさ、うんめえの。 男2 うん。 男1 ピザのトッピングに最高。 男2 うん。 男1 日雇いどもからボロ儲け。 男2 うん。 男1 黒んぼからも。 男2 うん。 男1 …… 男2 あのクソ見てっとなんか腹が減ってきた。 トーキングドレッズ (ナレーション) 胸の大きなブロンドの女の子と、四角いアゴの男の子が、アメリカ目抜き通りをでっかいだけが取り柄のボロ車で走り、ビッグバンドのスイングにあわせてジタバグを踊り、近所の酒屋でせいぜいがソーダポップを飲んで満足しているような町。 屋外――目抜き通り――真昼。 ずんぐり顔の、そっ歯で乱れ髪のティーンが、ベコベコのオープンカーのハンドルをにぎり、助手席の胸のでかい髪の色の浅い女の子に話しかける。 少年 ねえジュディ、どうだい、町のヤバいあたり1 に乗り付けて、バックシートでおフェラしてくんない? ジュディ アンディ、すってきぃ! 室内――アンディの車のバックシート――ガーヴィーズ・コーナーのヤバい地域――昼下がり。 ジュディが頬をふくらませ、アンディのひざで脈打つ恥垢まみれの投射物に息をふきかける。 アンディ ジュディ、最高だよ! 口の中で出していい? トーキングドレッズ (ナレーション) 一日の労働の価値を、アメリカ国旗の色を、そして神の十戒を知っている、昔ながらのアメリカ町、それがガーヴィーズ・コーナーだ。 屋外――ガーヴィーズ・コーナーの郊外――夕方。 日が地平線に沈みかける頃、町の人々はくわや斧、ロープ、アメリカ国旗などで武装して、町はずれに行進する。町の牧師が黄金の十字架つき革装聖書を胸にして群集を率いる。そのまなざしは、敬虔そうに天に向けられている。 突然、もうもうとほこりを巻き上げつつ、くず屋が群集の先頭に突進し、立て札の横を走り去る。そこにはこうある。 黒んぼめ! 明日の朝日が拝めると思うな! 屋外――町の広場――夕暮れ。 かがり火がたかれる。町の人々は戦没者記念碑のまわりに集い、あふれる涙をぬぐい、胸は敬意でふくれている。アメリカ国旗のすぐ下には油のしみたロープの末端に、黒焦げになったくず屋の死体が悲しそうにぶら下がっている。そのシャツの胸には「町のバーベキュー」のチラシがピンで止められている。 トーキングドレッズ (ナレーション) だが、見た目だけではなにもわからない。古き良きアメリカの栄光を象徴する、星と赤白青の縞のおなじみのアメリカ国旗のように見えるものは、実は…… アメリカ国旗が煙をあげ、炎に包まれる。くず屋が頭をもたげ、目を開き、狂ったように笑いだす。ホログラフの幻影にさざなみが走る。マーカス・ガーヴィーのブロンズ像の上に、黒赤緑の三色旗がはためく。 トーキングドレッズ (ナレーション) ……黒赤緑の黒人統一世界政府の旗なのだ! またの名をサンボの世界! ガーヴィーズ・コーナーの市民たちは、よく見ると涙など流していない。桃色のドーラン・グリースをぬぐいさっているのだ。その下では、ガーヴィーズ・コーナーの市民たちは一人残らず黒人だった! トーキングドレッズ (ナレーション) 庶民的魅力の裏で、ガーヴィーズ・コーナーは実はハリウッドの空き地のセット並のウソっぱちなのだ! ガーヴィーズ・コーナーが、顕微鏡めいたおもちゃサイズに縮む。 爆撃された建てもの、瓦礫の山となった敷地、店先の教会、鉄格子のはまった酒屋が「町」の偽のファサードを取り囲む。悲惨な人々が通りにたむろ。ふちがボロボロの麦わら帽子をかぶった労務者トリオが、看板の下でドゥ・ワップをうめき出す。その看板にはこうある: サンボの世界にようこそ! トーキングドレッズ (ナレーション) アメリカ一危険なスラムのど真ん中に位置するガーヴィーズ・コーナーは、アメリカ社会が白人に提供する権利と自由を、まったく気づかれずに蝕むべく、黒人たちが普通の法律遵守の白人市民のように着、行動し、考えるよう訓練を受けるにせの町なのだ。 これらの破壊工作エージェントたちはカモフラージュと変身術に著しくたけている。すっぱくなった牛乳風呂に入って、白人どもの匂いすら模倣できるのだ! やりすぎだと思うかね? 通常のニグロの頭で考えつくにはあまりに常軌を逸した計画だと? だがそこでよく考えてみてほしい。 きまり悪くなるほど踊りの下手な人間を見たことはないだろうか? もう、まったくセンス皆無な人間を? そしてスタイルとファッションと態度を体現しているきみはそれを見てうめき、この金魚丸のみ山だしのイモ野郎のおかげで、白人が世界中のディスコで不評を買うのだと思っただろう。よーく考えてごらん! その人物はおそらく、ハーレムで生まれ育ったのだ――そして白人に汚名を着せるべく訓練を受けてきたのだ! 室内――サンボ人工白人大学(「黒い明日のために今日は白」)――教室――夜。 背の高い、エレガントな黒人が、床にひきずるほどの白いローブを着て、ニットのキャップをかぶり、黒板に立つ。 教官 いいかね、生徒諸君。ルイス・ファラカーン司教はかつてこう語った。「黒人を白人に仕立てることはできるが、白人を黒人に仕立てることはできない」 そこでわれわれは、ルイス・ファラカーンから白人を仕立てあげてみた。そしてできたのが…… フレッド・マクマレーのドッペルゲンガーがテレビモニタにちらつきながら映し出される。ドッペルゲンガーはゴム製の人工仮面を顔からはがす。その下からはルイス・ファラカーン・ワニが、綿の詰めものとバンドエイド色のラテックスの下からにっこりする。白いチョークで、教官は黒板にこう書く: フレッド・「ファラカーン」・マクマレー: しくじったヌビア人 教官 白人の精神を首尾良く転覆させ、われらがニグロ性をもってこの惑星を支配するためには、まず白人という存在を、自家薬籠中のものとせねばならない! 白人のように考えなくては! 白人の目でものを見なくては! 白人の精神を攻撃し、その「白さへの意志」を転覆し戦いの始まりを待たずして白人を打ち破るのだ! すなわち、われわれは白人の頭をおかしくしてやらなければならないのだ! 教官はゴム製人工仮面をひきはがす。その下で、かれもまたフレッド・マクマレーとそっくり。 カットして: 室内――イメージ室。 暗闇の中で、白黒の風車がまわる。不気味な電気音をたてつつ、トーキングドレッズの点のような瞳孔が白熱し、拡大。かれの発することばが、ゆらめく蛍光性の円となって口から震え出るのが見える。 トーキングドレッズ 白人はしばしば、文字通り黒人の物理的な存在が目に入らないのだ。メラニン色素爆弾が白人種の無意識内で爆発し、世界の黒人すべてを消滅させたかのようだ。黒人は、白人精神の歪んだ風景の中で、見えざる存在となったのだ。不在に。虚無に。われわれはいまや、見えない人間からなる人種なのだ。 トーキングドレッズの発する声の輪はバブルスの頭を取り巻き、煙の輪となって消滅する。それにつれてバブルスは、催眠術にかけられたような不快眠りに陥る。夕暮れのやわらかなコオロギの鳴き声が、郊外の芝生から聞こえてくる。 トーキングドレッズ 見えない人間である以上、われらの作業は魔術師の識閾下の作業となる。われわれは最後の聖域に忍び込まなくてはならない。夢という聖域に。そしてことばではなく、イメージを理解する脳の部分に踏み込まなくてはならない。人格の盲点にもぐりこみ、異界の先祖たちの黒い詠唱を唱え、眠りの標識を変えてしまわなくてはならない…… カットして: 室内――バブルスの脳内。 突然目もくらむ強さの輝きが、バブルスのまぶたの裏から噴出。光は残光を残して減衰。そして卵型の頭が、はがれかけた黒顔料のかけらでカサカサになって、粒子が粗く不鮮明となる。 頭はカサカサと尾と尾たてつつ向きを変える。そのまばたきせぬ目の前で、小さなちょうちんが揺れる。鉄製カールの縮れ毛のてっぺんに、アヒルのくちばし状になった野球帽がのっかっている。その鼻は偏平で、へりには突き出したたらこ唇。真っ黄色の歯がカチカチ鳴る。 乗馬ズボン姿のジョッキーが、蒸気圧の高まったピストンのように駆動し、金属のクランクをまわす。金属的なきしみ音をたてつつ機械的な動きで、ももまである乗馬ブーツをちょうちんの投げる光の輪の中で輝かせながら、ジョッキーはそっくりの農場形式の家が並ぶ道を行進。 かれの鉄製同郷人が一列に並ぶ。 一列側面縦隊となって、背を傾け、ひじを曲げ、小さな鉄の足を鳴らしつつ、土人顔の芝生装飾人形の軍隊はいっせいに二歩づつ、ちょうちんに照らされた通りを行進。 不協和音めいた音楽が宙にひびく。石炭のように黒い肌の小鬼が最後部に漂い、ムーンドックの「鋼鉄芝生ジョッキーの行進」をソプラノサックスで吹いている。 溶暗 ? ニグロ降下物シェルター アメリカ科学アカデミーの委員会は、不安定ニグロ降下物に対する全国の対応措置を検討し、以下のように結論した。「適切なシェルター設置が、唯一効果的な予防措置である」 民間防衛推進事務所刊行物 序  アメリカ生活の、暗く厳しい現実に目を向けてみよう。ニグロは歩き、しゃべる時限爆弾のようなものであり、いつ何時、何の前触れもなく爆発しかねない。どこで起こるかも不明。どんな時にも。  マンハッタンのミッドタウンで、高層オフィスビルのロビーにいるとしよう。大事な会議がある。時間を見る。まだ少し暇がある。そこで、ボロ服の、目ヤニだらけの老ニグロに靴を磨かせることにする。向こうはポケットにジャック・ダニエルスの小びんを入れている。  見かけは親しげだ。そこで冗談を聞かせてやる。野球の話をする。その磨き布のシンコペーションをほめる。マイク・タイソンの首周りはいくつかを議論する。  ニグロはふりむいてしゃがみこみ、尻で靴に最後のみがきをかける。「すばらしいリズム感だ!」とあなたは感心する。「うちの女房もこのくらい腰が使えたらなあ!」  何の前触れもなく、火柱が天井にまでのび、すすが降り注いで空気が真っ黒になる。気がつくと、靴磨きがいない。あなたは焼け焦げたニグロの粉を肺いっぱいに吸い込んでいる。そして最悪なことに、あなたの肌は真っ黒になってしまっている! それも恒久的に。  ありえる話だ。いつでも。どこでも。  そしてその帰結は、黒んぼが何人か焼け死ぬくらいではすまない。爆発ニグロのメラニン色素活性酵素は、爆発現場近くの罪もない何万もの白人老若男女を冒し、この国を退行させて、かあちゃん恋しさにめそめそしてまわる、鈍感アル・ジョルスンの国にしてしまうのだ。  これがカントリークラブにもたらす混乱を想像してみるといい。だれを裏口から入らせるべきなのか、だれにもわからなくなってしまう!  爆発ニグロの直撃範囲外にいる市民はニグロ降下物から遮蔽すれば、ほとんどは生き延びるという調査にもとづき、アメリカ連邦政府はシェルター整備政策をうちだした。シェルターは、ニグロ降下物からの保護の基本を取り入れてある――遮蔽用の壁、換気、居住空間である。シェルターは爆発ニグロからの保護だけでなく、沸騰ユダヤ人や油あげプエルト・リコ人など、その他の少数民族有害物からの保護も提供してくれる。  お忘れなく――保護はサイレンがなった後では手遅れ! その前から準備しておかなくては! 爆発製ニグロとは何か?  それを言うなら、ニグロとは何か? ことばの響きからすると、年寄り歩行者の再生産器官から乳状の毒を泡立たせている、殻に封じた成長のような感じ。ニグロということばを聞くたびに、筆者のペニスには震えが走る。  わたしたちの愉快な民間伝承とはちがって、ニグロは南部の綿畑に一人前の形で生え、不気味な音の霊歌をうめいて誕生するわけではない。もっとも、あの頭のてっぺんにつけた代物を見る限り、この伝承もじゅうぶんに根拠がありそうな気はするが。実は、ニグロという概念は、ニグロたちそのものよりずっと昔からわれわれとともにあった。かの真実と叡知の詰まった大著、キング・ジェームズ版聖書をひもといてみればいい。豊かなことばと適切な隠喩をもって、黒性は病であり、死であり、呪いであり、絶望であると述べられている。また、原罪であり悪でありと述べられている。最初のニグロがサタンであったことはすぐわかろう。だからニグロたちは、角と先が槍状になったしっぽをもって生まれてくるのだ。そしてアフリカが暑いのもそのせいだ。  残念ながら、ニグロの解剖学的特異性の起源は、ジェームズ・ブラウンの歯がなぜあそこまで茶色いのかを説明してくれはしない。  さて、聖書の示唆によってわれわれの知る通り、ニグロはサタンであり、サタンとは古代ヘブライ語に語源を持っている。すなわちニグロとは、ユダヤ人どもの発明品なのである! 民間防衛推進事務所 主任 バーニー・ブリムストーン ? フェードアップ: 室内――郊外住宅――居間。 テレビ んでもって、こいつぁ例の巣立ちもしてねえブタのシッポ喰いのマンコありつけねえたぐいの黒んぼだったぁけ。口灰まみれ。いっつもはだしで、親指は田舎百姓丸だしオーバーオールの肩ヒモに引っかけてて、「おりゃあマンコにありつけねえ」ってグチってんだな。だから言ってやったよ、テメーぁ息がクソくせぇんだって。ブタのシッポ喰うのやめりゃあ、マンコにありつけっかもしんねーぞって。 しゃっくりするような、かんだかい笑い声が、郊外居間の陰気さに活気をもたらす。陰気な黒い鉄製の芝生ジョッキーたちが、テレビの前に陣取っている。アニメの曲線からなるバックウィーの姿が画面に現われ、白い真ん丸な目玉をギョロギョロさせ、ホットドッグのパンのような唇をパクパクさせる。 マンガのバックウィー テメーはあんなブタのシッポばっか喰ってっから、頭からもブタのシッポが生えて来てんぜ! そんな見っから山だしでなきゃ、「おりゃジギー・マーレーよ」かなんか言ってマンコにありつけっかもしんねーのによ。それもよりどりみどり! 芝生ジョッキーたち、テレビ放送をバックに家中を駆け回り、壁に落書きをしてまわる。 マンガのバックウィー 生きんのに喰うのか、喰うために生きんのかってね、ブラザー! イライジャ・ムハマドはブタのシッポは喰わんかったが、マンコぁ喰い放題だったぜ! だかぁマルコムぁネイション・オブ・イスラムをぶっちらばったわけ! 預言者が裏で、ニンジンケーキとマンコパイかっ喰らってんでよ! 台所の引き出しから肉きり庖丁と鋸歯ナイフを盗んでから、鉄の人形軍団は階段を行進してあがる。ムーンドックの音楽ががなりたてる。 芝生ジョッキーたちは部屋に乗りこむ。壁に長い影が落ちる。白人の老夫婦が、目にマスクをして熟睡している。 夫婦は目をさまし、マスクでなにも見えずにキョロキョロとあたりを見回す。ジョッキーたち、にやりと笑う。  そして刃(やいば)が振り下ろされる。 室内――イメージ室。 トーキングドレッズの蛍光性の顔のアップ。 トーキングドレッズ ある朝目をさましてみると、唇がソーセージ並のサイズにふくれあがって、目の細かいクシで髪をとかせなくなっていて、さらに酢とホットソースまみれのブタ器官フライに対する説明しがたい渇望が感じられるようになっている。 トーキングドレッズ、まっすぐカメラの方に指をつきつける。その顔のまわりを、白い顔のモンタージュがぐるぐるまわる。かれがしゃべるにつれ、その顔が一つ一つ黒く変わる。 トーキングドレッズ そうとも! きみだってそうなるかもしれない! きみも! きみも! そしてきみも! カットして: 黒い顔のバブルス、結った綿まだらつきブロンドの髪に恐竜の骨を通したペブルス・フリントストーンと並ぶ。彼女の口は、楕円で銀がかっている。 バブルス 歯をやすりで研いで、鼻にでっかな骨を通して、唇に皿を入れたって、あたしはいっぱしの人間なんだから! スマッシュカットして: 室内――バブルスの脳内。 バブルス、二重ヴェスヴィウス人間の十字にかけられた姿のように手足を伸ばした姿で、ぐるぐるまわるニグロ顔の輪の中に転がり落ちてゆく。ニグロたちは一九四〇年代の服装をして腹をよじって笑っている。 バブルス (ナレーション) あたしは自分自身の大渦巻きの中に、ますます深く沈んでいった。ありえないヴィジョンの渦の中にぐるぐると、ついには忘れていた子供時代の遊びの場面へと運ばれていった。 バブルス、輪郭だけ残して透明になり、そして消える。 大笑いする黒んぼどもの輪が、ニンフェットじみた九歳の女の子のまわりをまわる。はだかで、ほこりっぽい桃色の肌と悪魔じみたキツネのような目と、見事なブロンドの巻毛。ハート型のベッドに広げられたクシャクシャの毛布の上にしどけなく横たわっている。 バブルス (ナレーション) 子供の頃、両親はあたしを派手目のペットのように扱ったわ。あたしは両親の黄金の花、無垢なブロンドの大輪だった。両親の目には、あたしは堕落せざる純潔の本質を体現しているものと映ったわけ。 頭上には何十もの人形がぶら下がっているが、その顔は硬化した黒い泡の塊となって変形している。プラスチックの手足や目玉が色つきのひもでぶら下がっている。 バブルス (ナレーション) あたしはそれが嫌でたまんなかった。だから人形でウサを晴らしたんだ。目玉をえぐり出して、顔を火あぶりにして、髪が臭い炎となって炎上するのを眺めたわ。 湿った赤い絵の具が、ニンフェットの突き出した真紅の口で輝く。胸の幼いふくらみには、ピンクのボタンのような乳首。赤い細いヒールが、彼女の子馬のような細い脚の線を際立たせる。 バブルス (ナレーション) だから両親の溺愛にもかかわらず、あるいはそのためにというのが正解かもしれないけど、あたしはシッカロールをはたいたパンティーをおろして遊ぶのが好きな、無邪気な目をしたお人形さんだったわけ。 ニンフェットの真紅マニキュアの指は、毛のないヒーメンに守られた、かすかにバラ色の恥丘をせわしなく弄ぶ。取り巻くニグロたちの輪は、粉々の破片となって砕け散る。 バブルス (ナレーション) 最初は、遊びも風呂場だけにしてた。蛇口をおもいっきりひねって、水が全開で股間にあたるようにして。そしてだんだん、遊びは複雑になってきたわ。 顔の上半分を黒い羽根製仮面の後ろに隠し、はだかの女の子がもう一人部屋に入ってくる。バブルトウのプラットホーム・ヒールをはいて、羽根をさしたつば広の中折れ帽をかぶっている。 真紅のニンフェット 社会の窓が全開よ、カラスさん! 黒羽根仮面の白人娘は、真紅のニンフェットの横っつらを張る。部屋に雷がとどろく。 カラス あとで洋装屋でチャックを買うわい、このスベタ! おれの金はどこだ! 金をみないとおれのちんちんは固くなんないのを知ってんだろう! 真紅のニンフェット えーん、えーん、えーん! カラスさん、ぶたないで! もう街に立って、このぷっくりしたピンクのオシッコ穴をいっぱい売ってきましたよう! ニンフェットの目のどアップ。その端に、いたずらっぽいしわがよる。 バブルス (ナレーション) ズル賢くて反抗的で、街の様子を鋭く観察していて、あたしは街の子だった。ニューヨークの子だった。アッパーイーストサイドの裕福さとスパニッシュハーレムの貧困との間の線を越えて、低所得者向け公共住宅の廊下でプエルトリコ人の男の子たちと臭い指ごっこをした、いけない女の子たちと似たようなものかな。 ディゾルブして: 室内――四十二番外グラインドハウス――昼間。 レオタードとチュチュと、ウェイフェアのサングラスをかけて、真紅のニンフェットが映画館の暗がりにすわり、大声あげるアル中や、うつらうつらするヤク中に囲まれている。スクリーンの光が反射して、ニンフェットの顔にチラつく。 バブルス (ナレーション) ダンスのレッスンをふけて、レオタードとチュチュ姿のままタイムズスクェアのおんぼろ映画館にしのびこみ、古典的インナーシティのエンターテイメントをおさえたものだわ。  真紅のニンフェット、指を鳴らしてシートで尻をゆする。 真紅のニンフェット ネーチャン、腰をもっと使いな! ニーチャン、きつーくやってよ! メルヴィン・ヴァン・ピーブルスが男役白人女ライダーと絡んでいる映画の映像が、ニンフェットのサングラスに映る。 バブルス (ナレーション) ブラッケンシュタインの四角刈りアフロには笑ったわ。でも、今にして思えば、あれがヒップホップのヘアスタイルの先駆けだったわけよね。 カットして: 黒いフランケンシュタインの怪物が、肩幅の大きすぎるスーツを着て、妙な角度で前傾している。頭からは、四角く刈り込まれた柱のような髪の毛が、頭からまっすぐ上に伸びている。ゴールドのチェーンとひもを通さないエア・ジョーダン・煙突掃除ブーツをはいて、怪物は関節炎にかかったようなぎこちなさで踊り、わけのわからないラップをマイクにがなっている。 MC ブラッケンシュタイン 白人は何でできている?ネコとネズミと犬のコンボ! バブルス (ナレーション) フォクシー・ブラウンとクレオパトラ・ジョーンズのブラック・パワー・マンコ芝居には、もう夢中になったっけ。 カットして: 蛍光塗料を顔に塗り、申し訳程度に腰を包む超ミニ、巨大なふくれあがったアフロヘアのかつらをつけた真紅のニンフェットの移動撮影。ニンフェットはカンフーの飛び蹴りをしている。猛者の集団をなぎ倒し、機関銃の掃射を浴びせる。七十年代ディスコ・ファンクが、傷だらけのサントラで流れる。でかでかとスクリーンに宣伝文句: 必見! 「ハーレムの売女」! 性悪! 黒人! ケリ入れも最高! その名はバブルス・ブラジル! そして髪は超ちりちりアフロ! 真紅のニンフェットの異様な髪が、さらにボリュームを増してゆく。そしてもっと。 バブルス (ナレーション) それと、狼男がなんでドレッドロックをしてんのかな、と思ったこともある。 カットして: 狼男の映画の一場面。黒、赤、緑のドレッドロックが顔の真ん中からはえている。 七〇年代ラジオのソウル・ジョッキー (ナレーション) 昼間は神(ジャー)の栄光を讃える男だや。でも夜には――満月が悪徳都市(バビロン)の獣を呼び覚ますだや! 息のつまるもつれた髪で目が見えなくなった狼男は、壁にぶつかりゴミばけつにつまずいてころぶ。 ワッツのラスタファリアン狼男! バブルス (ナレーション) でも、なんといってもあたしの黒んぼごっこのネタになったのは、ルディ・レイ・ムーアみたいなヤらしい連中の三本だて特集ね。 カットして: 「ドールマイト」「人間竜巻」「モンキーハッスル」からの一場面。 バブルス (ナレーション) 最初に黒んぼごっこを教えてくれたのは、おじいちゃんの「太っ腹」ブラジルだった。三〇年代に、靴墨を顔に塗りたくって演奏してたのね。ちょうどエイモスとアンディのシカゴがアメリカのラジオ局の黒人化に貢献してた頃。 カットして: 一九三〇年代のカード。郊外居住の白人一家が居間に落ち着いて、神殿型ラジオから流れてくるものに驚嘆している。家族の顔は一人残らず道化じみていて、黒いグリース顔料に白い唇を塗った仮面である。 バブルス (ナレーション) おじいちゃんは、そのまたおじいちゃんの「もっと太っ腹」ブラジルからそれを習ったんだってさ。コルク炭を顔に塗って全国を巡業して、こう言ったんだと。「オセロが屁をこいて、スイカ喰らってデズデモナをカミソリで切り裂いたんじゃない限り、黒んぼの真似してるほうがシェイクスピアより儲けはいいし、客のウケもいい」だって。 カットして: 粒子の粗い、セピア色のフィルム。顔を黒く塗った芸人が、スイカをほおばりつつ、出鱈目な黒人訛りでシェイクスピアを暗唱している。 バブルス (ナレーション) 「太っ腹」おじいちゃんに言わせると、黒塗顔hアメリカ独立の要石だったんだって。あれがなければ、アメリカ人はあのお茶の積み荷をボストン湾の底に放り込むこともできなかっただろうし2 、アメリカはいまだにイギリスの植民地だったかもしれないって。 カットして: 腹の突き出した、葉巻をくわえた黒塗顔の「インディアン」たちが、カラスの羽根をさした山高帽と鹿革ズボン姿で、おびえたイギリス人水夫たちに向かってカミソリを振っている。 バブルス (ナレーション) 「太っ腹」おじいちゃんは、遊園地の「黒ちゃんを沈めろ」の出しものの演台にすわった黒んぼの頭めがけて野球のボールを投げ付けたわ。何も知らない色黒野郎の尻ポケットに爆竹を放りこんで、それがはじけてズボンが燃え上がると言うの。「屁ぇこいたのはだれだ!」って。 カットして: 黒人の頭にあたってはねかえる野球のボール。黒人の目ははれあがってふさがり、下唇もふくれあがり、鼻は折れている。 バブルス (ナレーション) 黒んぼを笑いものにするのが、アメリカ最初の国民的娯楽だった。もし黒人を笑いものにするのでなければ、「太っ腹」じいちゃんに言わせると、「アメリカ人はボードビルだのラジオだのテレビだので何すればいいのかもわかんなかっただろうし、ホットケーキ・ミックスの箱にだれの顔をつけたらいいのかもわからなかっただろう」。黒人を笑いものにするのが、アメリカ大衆エンターテイメントのルーツなわけ。 カットして: 一九五九年制作の「ネイション・オブ・イスラム」教団をめぐるテレビドキュメンタリー「憎悪が生み出した憎悪」を集約したモンタージュが、ホームコメディの笑い声をかぶせてあたりさわりなくして流れる。 バブルス (ナレーション) そこであたしは黒チャン遊びを作り替えて、自慰する芸人ショーに仕立てた。そうやってあたしは友達と人生の楽しい部分を学んだ。友達が遊びにくると、靴墨を取り出して「汚なくなろうよ」って言って、それで土曜の夜の田舎酒場での呑んだくれ黒んぼの集団みたいに騒いでまわる。 ディゾルブして: 室内――アッパーウェストサイドの高級アパート――居間――昼間。 シャーリー・テンプル・カールの女の子がはだかで、顔を黒く塗って、これまたはだかで顔を黒く塗った思春期前の子供の群れに叫ぶ。 シャーリー・テンプル・カールの女の子 ねえみんな! もう何も気にしないみたいにケツをお空に振りたてなよ! そして、アンクル・リーマスを踊るの! 少女たちのか細い黒い手足が、けいれんするような六十年代キャンプのダンスステップの組み合わせによじれる。そして下卑た粗野な荒っぽい気取りで尻をうちあわせる。 バブルス (ナレーション) みんなホントに気取りを完全に捨てて――膝を曲げてがくがくさせて、チキンダンスしたり、幼い尻中に手をはわせてゆすり、こすり、撫でまわしたわ。 ガラスのコーヒーテーブルの上に身を乗り出して、はだかの少女たちはチョコレート色のヘロインを鼻から吸入。シャーリー・テンプル・カールの女の子が豪語する。 シャーリー・テンプル・カールの女の子 あたしのお父さんは、バードとヘロイン射ったのよ! バブルス (ナレーション) みんなで両親の高価なハワイ産大麻を吸い尽くしたし、酒の棚から酒を盗んだし、シャンデリアが震えるほどの大音量でジェームズ・ブラウンをかけたし、ベッドルームで指をあそこに入れっこしたし、ビデオでリチャード・プライアーを見て笑ったものよ。 室内――アッパーウェストサイドの高級アパート――ベッドルーム――昼間。 真紅のニンフェットが、シャーリー・テンプル・カールの少女とハート型のベッド上でペッティング。テレビではジェームズ・ブラウンが叫んで汗まみれ。 バブルス (ナレーション) ほかに笑いものにする相手がいなかったもんでね。だって、エイモスとアンディは死んじゃってたし。 「メイク・イット・ファンキー」を歌うジェームズ・ブラウンの顔が、歪んでおっかない流し目となる。 バブルス (ナレーション) でも、あたしたちの頭の中じゃ、犯人はあたしたちじゃなかった。だって、ちがうもん。やったときのあたしたちの顔は、ちがってたもん。からだもちがってた。それにあたしたちは、あんなトコしゃぶったりしないわよ。だって、育ちのいい白人ですもん。 犯人は、低所得者向け住宅プロジェクトから来た黒んぼの子たちよ! あいつらが犯人! 月頭のクールエイドばっか飲んでる、ウンコ色のタール小僧どもよ! ラガマフィンのもらいものの服着た子たち! 大麻を吸っちゃったのも連中! 酒を盗んだのもやつら! 黒んぼどもよ! あたしたちじゃない! 黒んぼたち! あたしたちの湿った幼いアソコに、薄汚れたフライドチキンつまみの指を突っ込んでんのも黒んぼたち! あたしたちじゃない! 黒んぼたち! シャーリー・テンプル・カールの少女が真紅のニンフェットにまたがって、黒く塗った尻の輝く山を相手の恍惚とした顔にこすりつける。その肛門が広がる。 シャーリー・テンプル・カールの女の子 もう何も気にしないみたいにケツをお空に振りたてなよ! そして彼女のしわの寄った穴から、湯気たつトウモロコシの粒まじりのウンコがこぼれる。ウンコは真紅のニンフェットのつきだした口の中に入り、その唇をやわらかくしっとりと汚す。 ジェームズ・ブラウン、テレビでニンマリして汗まみれ。 室内――イメージ室。 バブルス、意識を取り戻すと同時に、動揺してクリトリスをこする。 サイボーグの床の、変わり続ける対称形は、窓の霜に息をかけた時のように消え、あとにはガラスのような透明な床が残る。バブルスの足元で、荒廃した都市が、おぼろなほどの速度で通りすぎる。 トーキングドレッズ、減速。 都市の屋根の上を滑空しつつ、サイボーグの床はマンハッタンの細部を拡大し、葦やツタややしの木や、熱帯植物の密生するザーメンだらけの建物を調べる。 バブルス、腹の底が抜けたようなめまいがして嘔吐。 ヘドのかたまりが、蛍光を放ちつつ彼女の口から飛散する。そのかたまりが、カサカサと隅に逃げ込む――緑でカニのような足をはやし、丸い、触手の先についた目玉をしている。 トーキングドレッズはにやりとして身をかがめ、多足ゲロ生物を腕に抱えあげる。そして愛情込めてその生き物を撫でる。 トーキングドレッズ ブラジルくん、ごいっしょいただけて、まことに楽しかったよ。だがそろそろお帰りいただく時間のようだ。 友好的な微笑を浮かべつつ、トーキングドレッズの目が銀光を放つ。そしてバブルス、蒸気のかたまりとなって霧散。 ヒュッ! 屋外――ハーレムの空――昼間。 サイボーグ、太陽に照らされた地平線に消える。バブルス、急速に落下―― バブルス わ わ っ 、 ど う し よ う ・ ・ ・ ――そしてハーレム川の汚れた水に落ち込む。 バシャン! 室内――ハーレム川 燐光性のウロコをした三つ口の魚たちの群れが、浮かんだクソのかたまりをかじる横を、バブルスが沈む。濁った茶色い水の中で、ジャケットが彼女の頭上にひらひらしている。不明瞭なことばがあぶくとなって、彼女の口からたちのぼる。 バブルス ……こんなプンプンのクソ溜めなんかにはまっちゃって?! バブルスの尻が川底ではずみ、腐ったクラゲのじゅうたんを押し潰す。嫌悪に顔をしかめ、彼女はその粘液めいた死骸を尻からひきはがし、目をそむける。 突然、彼女の目玉は恐怖に見開かれる。声にならない叫びがあぶくとなって、彼女ののどからたちのぼる。のどちんこが左右に揺れる。 泥の中に鼻から突っ込んで突っ立った、錆びた自動車の壁に囲まれて、ヒモの腐乱死体が午後の風にそよぐかかしのように汚染された流れの中で立ってヒラヒラしている。足はセメント漬けになっていて、無残な頭蓋骨には金歯が光っている。 恐怖のもたらしたアドレナリンの力で、バブルスはガマガエルのような動きで汚水の中を泳ぐ。と、ぶつかったのは、沈んだアパートのポーチにすわった生活保護の母親の死体。バブルスがあたった衝撃で、死体は倒れる。バブルス、泥を巻き上げる。 死体のふくれあがった外皮が柔らかく黒い川底の砂に沈む。そのふくれた手には、明かるいキャップのついたクラックのびんが握られている。バブルス、川面目指してゆっくりと上昇。 上昇中、アパートの階段に苦悶の死のポーズを取った、タムシまみれの黒人の子供たちに出くわす。みんな着ているのはティーンエージ・ミュータント・ラスタ・ゴキブリTシャツだけで、口にはガラス製のクラックパイプをくわえており、焦点のあわない血走ったウォルター・キーニー目玉で宙を見ている。 バブルス、川の排泄物的静けさの中を浮遊する、地下鉄車両の横を通り過ぎる。丸々と太ったシェフが、コック帽と白いエプロンをかけて、身動きもせずに地下鉄の窓にたち、バターのかかったホットケーキを高く積み上げた陶器の皿を手にしている。 シャークフィンつきセダンが、でっかなクロームのバンパーをつけて、遠くであてもなく漂っている。売れ残りペーパーバックの凍結した山に阻まれて、バブルスはそのセダンの方に泳ぐ。クソの染みた「ダンテの地獄システム」のパルプを苦労しつつかきわけていると、突然セダンが悪魔のようなスピードで水中を走りだし、泡やクソを背後にまき上げる。 バブルス、その通り道からとびのく。セダンは時計周りに向きを変えて、再びバブルスに向かって突進。ハンドルを握るのはゾンビ化したクラックヘッド。 セダンに追われたバブルスは、アパートを目指してその戸口から中に入る。セダンは入り口の階段に激突し、階段の死体を押し潰す。バラバラになった死骸の残りが。ふくれたかたまりとなって漂い去る。 バブルスは、燐光性の魚の群れをかきわけつつ廊下に漂い出て、階段に向かう。指が手摺にかかると、そのまま腕でからだを引き上げる。からだは水平に浮いたまま上昇。 階段のてっぺんで、バブルスはドアの並ぶ二階の廊下に泳ぎ出る。 下の階では、セダンに詰め込まれていたゾンビ化した黒人青年たちがアパートになだれこみ、フランケンシュタインのようなスローモーションで階段を目指す。 腹の突き出た白人が、昔ながらのクェーカー教徒の衣装で、二階の開いたドアから漂い出てくる。目は黄鉄鉱の硬質の輝きを放っている。膝は、祈りでひざまづいているかのように曲げられ、腕は前に伸ばされている。手は力なく水中に垂れ下がる。 長いウンコに取り巻かれながら、クェーカー男はバブルスのほうに漂ってくる。口からは笑いのあぶくがはじけのぼる。 バブルス、向きを変えて逃げ出そうとする。しかし、眼鏡をかけた黒人青年たちが階段をさえぎる。 すばやくこまやかな動きでクェーカー男をまわりこんでかわし、バブルスは水中をつっきって手近のドアをこじ開ける。 そして泳いで部屋に入る。 中では、血染めの鏡の破片が床に散らばっている。壁には突き出した唇の絵。テーブルは、溶けたロウだらけ。そして何百ものひわいなチョコレート人形が、下痢便のような色の水中を漂う。 背後であぶくとなった笑いがぶくぶく響く。バブルス、振り向いてその音の源のほうを向く。 クェーカー男が戸口から漂ってくる。その死んだネズミのような手が、前にだらりと垂れている。その笑いは、ふくれた白い顔をジャガイモ袋のようにゆすり、口は木偶のように開いたり閉じたりしている。 クェーカー男の顔はブロマイド結晶のように水中であぶく化して、濁った牛乳色の泡となって溶け去る。 死んだネズミ状の手が、灰色っぽい幕を払いのける。 輝く狂った目がバブルスを見つめかえす。 見慣れた黒い顔の見慣れた狂った目だ。あの女中の見慣れた顔だ。 女中がにやりと笑い真っ黄色の歯をむきだしにすると、バブルスは恐怖に顔をそむけて床を見つめる。 バブルス (ナレーション) 世界から世界へとフェードしながら移動して、あたしを取り巻く世界は砂でできた夢景のダリの時計みたいに溶けちゃった。 鏡の破片に自分の姿がいくつも映っているのを見た時、バブルスは幽霊じみた透明性にはじける。 室内――高級アパート――マンハッタンのアッパーウェストサイド――ベッドルーム――夜明け。 超クロースアップで: ヘビのような煙のリボンを、そのオレンジ色に燃える熱い先端から渦巻かせつつ、マリファナたばこが灰皿のふちのくぼみに置かれている。浜辺で風化した骨のような色で、赤い口紅の染みがリング状につき、まるで縮んでミイラ化した男根のようだ。 バブルス (ナレーション) 最初にベッドルームの鏡に映った自分の姿をながめて、顔につけた銀の楕円形を見たとき、あたしの病気の様相なんて計るすべもなかった。あたしのニグロフォビアがいかにひどいかを。 嵐雲の荒れ狂うような効果をもって、煙の渦が天井に猛然と向かい、はだかのティーン少女の幻影へとかたまる。その恥毛のしげみは、もわもわしたハート型に刈り込まれている。 バブルス (ナレーション) あたしは心眼のスクリーンに光と色彩の球を形成した。そしてそれをガラスの表面に投影した。 小人のサイズに縮んだ幻影は、宙を泳いで華麗なブロンズの枠にはまった楕円形の鏡の前に浮かぶ。鏡の映像は、キツネのような巨大な目。 バブルス (ナレーション) ガラスは煙で渦巻き、まばゆい多彩な炎で輝いた。楕円は波打ち、形を変え、己れのしっぽをのみこむ銀のヘビとなった。 幻影は、鏡の目の拡大した瞳孔に飛び込む。瞳孔は収縮し、目は淡い緑から氷銀へとスペクトル分解された光を反射。 バブルス (ナレーション) ヘビはシューシューうなり、己れを喰い続けながらくねり続け、古い皮を吐き出しては新しい皮を再生させ、メタリックな赤と青の光を黄金の針で貫いたような痕を残す。するとあたしの顔は変わった。まるで折り紙彫刻のような幾何学的正確さで、折って、また折られていった。 写真のネガの反転した色彩で、鏡に映った映像の反対側のバブルスの顔は、そびえたつような高さに位置し、そのまわりを脱皮しつつあるヘビが、8の字に取り巻いてくねっている。 バブルス (ナレーション) この変形は、あたしの想像とはちがって前世の顔じゃあなかったし、あたしの希望ともちがって、あたしを保護する霊的殻の始まりでもなかった。むしろあたしの恐怖を兆を告げる、前触れのようなものだったんだ。 ヘビはバブルスの顔の、表皮の下にもぐりこみ、その頭蓋骨の形を歪ませる。その顔は、下卑たカエルのような目鼻だちの、チョコレート色の四角に変わるそこにピンクの葉のような斑点が生まれ、白熱する目をラッシュカーラーが取り巻く。チョコレート色の頭を覆う、とんがったブロンドのイバラは、乾いたハイトップのリトル・リチャードっぽいコンクに変形。その白熱する目がウサギのような赤に変わる。リトル・リチャードっぽいコンクが、メデューサのようにもつれるブロンドのドレッドと化す。チョコレート顔が平べったくなり、黒ずみ、水疱だらけとなる。むきだしの骨のまわりで、肉の砕片がひらひらする。水疱だらけの肉が、きめ細かくなって巨大な黒い乳房になりその乳首から、ヤスリで研いだ黄色い歯が突き出す。乳房は歯をカチカチいわせて舌をのばす。舌はふくれあがって巨大な脈打つペニスになる。ペニスはぎょろりとしたレモン型の目を生やし、そのギョロ目亀頭のてっぺんには蛍光性ドレッドが生える。ペニスは消える。そしてレモン型の目は、脱色した鼻骨と、金歯のにやにや笑いの上に浮かぶ。燃えるプラスチックのようにフツフツと泡立ちつつ、反転した反射像は色の染みをにじませる。 バブルス (ナレーション) こまやかなエーテル状の物質の流れに引き込まれ、あたしは鏡を通り抜け、気がつくとビロードの闇に包まれてた。闇は濃く、重たく、シロップみたいで水に浮いた油のような虹色を放ち、全スペクトルの光を分光して反射していた。その光の貢物は収斂して、悪魔的まばゆさの黒い光となり一瞬にしてあたしの肌の白さを吸収した。 バブルスは炎上する虚空に蒸発し、そして鏡の反対側に、ブラックライトに照らされた輪郭だけの姿となって現われる。 バブルス (ナレーション) 白さの吸血鬼的美なくしては、肌によって定義されるものなしには、象徴的な意義漬けなしには、あたしは外見のない存在、基盤のない存在、コンテクストのない生きもの――透明存在――透明な外皮に包まれた、器官と内臓の無色のネットワークなのだった。 一連の同心円状黒円盤の中を落下しつつ、バブルスは彼女を取り巻く闇のように光を放ち、虹色に輝きつつ虚空を落ちてゆく。 バブルス (ナレーション) 意識を抜けて夢の中に入って行く睡眠者のように、あたしは同心円状にだんだん広がる闇の輪の中を落下し、すべての肉体的制約を超越し、形のない、純粋思考体へと変わった。あたしは思考であるだけでなく、その思考プロセスそのもの――あたし自身のきまぐれな思考の中で変わり続ける考えとなった。 バブルスは輝いてポリクロームのおぼろな影となり、その姿は対称形の多様性を持って移り変わる。 バブルス (ナレーション) その黒い催眠術のような円盤が、深淵の中でますます大きく暗く回転するにつれ、あたしはもっともっと深く落ち、自分自身の精神の中身に全面的に、生々しく、くっきり浮き彫りにされた形で直面した。自分の心理の水源に何が待っているか、あたし自身がどう変わってしまうかも知らずに。 ポリクロームのもやは細い光束へと収斂し、鏡の表面を突き抜ける。 室内――高級アパート――ベッドルーム――夜明け。 カメラはアップで、鏡の左手隅にゆらめくロウソクからの光線の反射をたどる。光線の中には、細かな塵が漂っている。少し下に傾いているその光線は、ヴォーグ国際版のフルカラーの見開きページに落ちる。 影になった指が、そのページをおさえ、銀のペイントで8の字型に接触した二つの楕円を顔にかいた、さわやかな顔のブロンドを指差す。あざやかなボディ・ペイントをほどこし、羽根飾りをつけたアボリジニー二人にはさまれて立つ、その銀の楕円のブロンドモデルは黒いウェイフェアのサングラスをしている。鋲を売った革ジャケット。そしてヒョウ皮斑点つきビキニ。その豊かなレモンクリーム色のカールは、綿菓子のピンクに染められている。彼女とアボリジニーの三人は、気持ち悪い緑のドレッドロックをした、にっこり笑う紫外黒人の手袋をはめた両手の中に立っている。 肩越しに鏡のショット。 鏡に映った顔の色は、焼きたてバナナケーキのカリカリした甘い皮の、軽いシナモン色。目はヤマネコ緑。唇は熟れて大きく、果汁にあふれるつぶつぶオレンジのような感じ。輝く銅色の髪は、長いロープ状のドレッドロックになって垂れ下がる。それがツンと上を向いた豊かな乳房にかかっている。 彼女の後頭部が、鏡に映ったシナモン色の顔と、雑誌の広告の白い顔との間を困惑して見比べて揺れる。当のバブルスの顔は影になっていて見えない。雑誌が床に落ちて、開いたページは: THE UNITED COLORS OF BENETTON オフスクリーンで、合唱団が不気味なトレモロで歌う。雑誌の光沢ページにあたる光線の中で舞い踊るちりは、台風のような力で渦を巻き、それが固まって、コックの白装束にコック帽、そして黒のウェイフェアサングラスをかけた黒人の姿に変わる。 優雅におじぎをすると、にっこりしたシェフは、バブルスに熱いクリーム・オブ・ウィートのボウルを差し出す。 クリーム・オブ・ウィートのマークのシェフ お嬢ちゃん、腹へってっか? バブルスの顔のアップ。そこには顔がない。細かい影のメッシュに置きかわっている。 クリーム・オブ・ウィートのシェフのフリーズフレーム。それに重なってクレジットが流れ、オフスクリーンで音が聞こえる。群集が、野外競技場で歓声をあげている。アナウンサーの声が拡声器から響いてくる。 アナウンサー (ナレーション) ここ、ヤンキー・スタジアムでは「独立記念日」式典が行なわれております。そして「われらが国家「星条旗よ永遠なれ」を演奏するにあたってわれわれが選びましたのは、まさに七月四日生まれの正真正銘ヤンキー・ドゥードル・ダンディー――ルイ・アームストロングさんです! 群集は大歓声。マイクに足音が近づく。トランペットが、国歌の出だしを演奏する、そこで音楽は、ざらざらしたヘンドリックス調のフィードバックの壁へと崩れる。音楽が止まって、荒っぽい声が語る: ルイ・アームストロング (ナレーション) オーリンズの町で育った子供の頃から、おれはずっと誕生日に「星条旗よ永遠なれ」をヤンキーの球場で演奏したくってたまんなかった。そして一生拒絶され続けたんだぜ! でもって、おれが死んで埋葬されてウン十年たった今頃になって、あんたらがやってきて、おれを地下二メートルから掘り出して、この死人のおれに、お国のために愛国心を発揮してくれとぬかしやがる。笑わせてくれるぜ。 クリーム・オブ・ウィートのシェフの口が、ルイ・アームストロングの臨終のことばを再現する。 クリーム・オブ・ウィートのシェフ おれの黒いニュー・オーリンズ育ちの尻にでもキスしな。それもフレンチ式に、深くベロベロ。 カメラが引く。クリーム・オブ・ウィートのシェフが背を向け。前に屈み、ズボンを落とす。その灰白色の尻には、白しっくいで次のことばが書かれている。 終 謝辞 長年にわたり、多くの人が愛と金とねぐらでもって、おれをささえてくれた。 リタ・ブリーズ、ノア・シーマン、キャリー・ハウエル、ケイ・リン・アンダーソン、アラン・ドローガン、ジャネット・フォードレイチェル・ワイスマン、ステイシー・レアンザ、ピーター・コンテ、カーマイン・ディンティト、リサ・ブラウスチャイルド、ティナ・カールステンソン、マリア・チョメントウスキー、ジョー・アン・チェイピン、ジジ・ジェニングス、コリーン・ワスナー、リビー・エイブリル、パトリス・ウォーカー・パウエル、ランディー・ボイド、ジーン・ブライヒ。マリー・ホープ・リー。 キュー・セン・アトン・シュー・アモン、ジャミール・ムーンドック、ジョン・ファリス、リック・ヴァン・ヴァルケンバーグ、エミリー・カーター、ノオマン・ダグラス、バーナード・マイスラー、パトリシア・ウィンターズ、ティム・ウィンケルス、マーク・ネッター、サビーネ・ヘレデッキアン、ジーン・J・T・エックホフ、ジョッシュ・ウェイレン、デブラ・バーグマン、ブッチ・マッカデン、テネシュ・ウェーバー、マイク・ズウィッキー、ダグ・マクマレン、ザ・スノーデビルス、マーク・ゼロ、エド・モラレス、アール・「ダーティー・アーニー」キミッチ、パム・デューイ、スヌーピー・ベスト、シーラ・アーバノウスキー、そしてヴァザックでおれを呑んだくれさせてくれたやつらすべて。 ピーター・デニス、ブルース・ハッカビー、ペリー・デニス、チャッキー・ウィリアムス、ロナルド・ウィリアムス、トミー・ウィリアムス、チャールズ・エルバート、ポール・デニス、パトリック・デニス、パーカー・デニス、ペギー・デニス、ジャマル・デニス、ビリー・レイ・マッデン、コニー・マッデン、グレゴリー・マッデン、ステファニー・ジェイムズ、アレクシス・パーキンス、デヴィッド・アウグスティン、スティーブ・ギャンブレル、デブラ・ムーア。シャロン・パーキンス、フィリップ・ムーア、ドゥウェイン・ワッツ、ゲイル・ハリソン、ベニー・ウォーカー、ロスコ・カー、クレイグ・アンダーソン、ジマン・ブラウン、プレストン。マレー、ナサニエル・リーブス、ドゥウェイン・ワッツ、キース・シェロッド、マイク・バッツ、デヴィッド・リーブス、ケント・ブレイシー、リロイ・ホルムス、ブルース・フィリップス。 ニュー・オリンズ・カリ・クリュー、キャシー・ウェブスター、スザンヌ・ジョーンズ、ステファニー・ジョーンズ、フレデリック・プレスマン、ジェレミー・トルーックス、マリサ・シラスロ、シオバーン・オニール、ジェイミー・デルマン、ジャッキー・ゲラー、ダイアン・ルルド、エリザベス・エリストフ、トニー・ワグナー、ポール・フォーバス、ジェリー・コーネリアス、リン・ブラウンリー、マイケル・サリバン、ピーター・ファーク、キム・ワルハウアー、ジョン・アルパート、シルヴィア・デニス、エラ・ジェイムズ、トマス・ジェイムズ、カリード・ラム、ルイス・グリフィン、エルンスト・ウェーバー、スタン・バーンスタイン、ニール・ファンデク、マイケル・パウエル、ウィンストン・グッデン、キース・グレアム、チャールズ「ディール」ホワイトリー、エタン・ベン=アミ、イアン・タネンバウム、チャック・ランダウ、ティルディー・トゥルチェルチネッズ、ニール・ジェラルディ、クリス・グレイ、ウェンディー・アンダーソン、ジェイソン・ドュービン、ウォルター・オラー、スティーブ・アセッタ、プリシラ・シュネフ、フランソワーズ・ラフォウル、エレナ・シーマン、トリ・レアンザ、ジョイ・サラス、ベッキー・ノードグレン、エヴァ・ジョアノス、ケリー・フリストウ、ティツィアナ・リパニ、エレナ・テスタ、クレール・マッツ、ゲリー「ギャズ」オコーナー、アリソン・ボウリー。 エド・バリンジャー&ザ・コミュニポー・ストリート・クリュー、トレーシー・モリス、ブリー・ソールスマン、マギー・エステップ、ラティ・ゴルフィーン、アレクシス・グレイ、リン・ティルマン、デニス・クーパー、シェリル・ハードウィック、マイケル・オドナヒュー、ネルソン・リオン、スティーブ・マーチン、ハル・ウィルナー、ウェス・アンダーソン、シェリ・ムハンマド、ミム・ウドヴィッチ、ジェフ・ゴールドバーグ、ピーター・ドナルド、ジャック・ハセガワ、ペネロープ・トルックス、テッド・マン、マーガレット・スミス、ジュリアン・シュルスバーグ、リサ・スタインメイヤー、ドナルド・サッグス、アリソン・グッドウィン、ピーター・ブラウリー、マイケル・ウィル、リサ・バス、ティム・ベケット、「邪悪」のイヴォ、イアン・スティーブンス、シンシア・ジャーヴィス、グレッグ&マルコム、ベルクロ・リッパー、アレックス・エスピノサ、タイラス・コーシー、イブリン・アセヴェド、ジョー・ウッド、テオ・ヴァン・ゴウ、ヘレネ・ハーツマン、ノーマン・クロス、クラウディオ・パピリア、ヘレン・ジャーディン、トム・ウェザリー、ステイシー・ルービン、ピーター・チャラク、マリー・コンテ、ゴート・カーソン、ジャッキー・キャリール、リカルド・ジョードイン、ノーマン・クロス、クリスティーン&ニック・リング、レベッカ・コルボット・ディナ・ペトリロ、ブレア・ブレアード、アレックス・ピンカーソン、ワディア・ガードナー、キマリー・ハンフリーズ、エレイン・ハインズ、ジョン・モリアロー、カール・ヘルム、リック・トレンブル、ケート・ファロン、ベイジル「勘どころ」P、キャシー・ホーナー、ハーマン・アルブス、アルバ・レアル、ドミニク・カールッチ、ガブリエラ・レアル、エリック・サンドマーク、そしてモントリオールのサン・アンリにあるビデオテーク2000の一党。 そしてひときわ大きな感謝を以下の人々に:サリー・アン・グラスマン、大統領候補のエスター・カプラン(「アメリカは口うるさいユダヤの母を必要としています!」)、ドクター・スティーブ・キャノン、キャサリンテクシア、ジョエル・ローズ、中絶反対悪魔信仰団(「赤ん坊は中絶せずに、サタンに捧げましょう!」)、キャシー・アッカー、ジョージ・W・S・トロウ、ダン・レヴィ、ゲイル・キン、ルース・ノーラン、マーク・ブラッドフォード、ファイス・チャイルズ、そしてニューヨーク芸術財団。 訳者あとがき 山形浩生 一、総括  本書はややこしい本である。  そもそもの発想がややこしい。白人によって戯画化されたアメリカの黒人のステレオタイプを、そのアメリカ黒人がさらに戯画化しているのが本書である。黒人のステレオタイプとは、例のダッコちゃんとか、カルピスの昔のマークとか、あるいはチビくろサンボとかに代表されるような、チリチリ頭に真ん丸ギョロ目のたらこくちびる、といった外見的なものから、ラップでヒップホップで、バスケットボールしぃのフットボールしぃの、音楽とスポーツ以外にはあんまし能がなくて、貧乏で頭が悪くてデブで、チンコがでかくてセックスが強くてゴールドチェーンじゃらじゃらで、売人で犯罪傾向が強くて云々といった社会経済的な地位や人間性に関わる部分まで含めた代物だ。  しかも、それを戯画化するにあたって、作者はこれまたステレオタイプ的白人娘を設定し、彼女の目を通して話を紡いでゆく。何がステレオタイプでどこまでが誇張で、どれが悪ふざけでどれが実態なのか、きわめて判断がつきにくい。  実際に接していれば、ある程度の判断はつくだろう。本書は、アメリカ文化のいたるところに蔓延する黒人差別について、読者がある程度(意識しているかどうかはともかく)知っているものと仮定している。また一方で、そうした差別の存在が、口実や方便として利用されてしまっていることについても、読者はある程度知っているものと期待されている。例えば、アメフトの人気黒人選手だったO・J・シンプソンの奥さんが惨殺され、その容疑者として亭主が起訴されており、目下裁判が進行中である。いろんな状況証拠から見て、O・J・シンプソンが白んぼであろうと黒んぼであろうと起訴されるのは無理もないのだが、弁護側が持ち出した議論の一つが「人種差別だ! かれが黒人だから、検察は色眼鏡で見ているんだ!」というもので、これを聴いてゲンナリさせられたのはぼくだけではない。  ある意味で、本書のややこしさは、アメリカの人種問題のややこしさを反映しているとも言える。  本書のもう一つの難しさは、その読者にある。日本人の多くが、差別されることには妙に敏感なくせに、自分がやっている差別にはきわめて鈍感だという点だ。  日本人の多くは、自分には差別意識などないと思っている。差別はいけませんと教わったし、それを実地に試す機会が少ないので、深く考える必要もないまま暮らしていけるのである。だが現実には、われわれのほとんどは度し難い人種差別主義者であり、ついでにさしたる根拠もなく日本が世界で一番偉いと思っている。これは別にぼくだけの意見ではない。外国で出版されている日本についてのガイドブックなどを読むと、しばしば「日本人の異様な自民族中心主義さえ我慢できれば、日本はよいところだ」「日本人は白人には妙に親切だが、それ以外の外国人旅行者は不愉快な目に会うかもしれない」などの記述が見られる。みんなちゃんと見ているのである。あるいは、日本のパソコン通信や、海外旅行ガイドブックのたぐいを見ると、「XXには黒人が多いから気をつけろ」といった記述が平然と登場して驚かされる。「低所得地域だから」とか「犯罪の多い地域だから」というならわかる。また、分布を見れば、こうした地域に黒人住民が多いのは事実だ。しかしそこから「黒人に気をつけろ」となると、話は別である。だがもちろん、かれらはこれが差別意識の発現であるとはツユほども思っていないはずなのだ。どうだろう。本書の読者は、ここに描かれた話を自分に関わりのあるものとして読むことができるだろうか。それとも悪趣味で大仰な海の向こうの話としてうっちゃるだけだろうか。 二、翻訳について  我が国には、黒人差別用語体系がない。したがって本書の翻訳にあたっては、それらしい代物をでっちあげなくてはならなかった。また、訛りの処理は特に方針もさだめず、語呂合わせと口語っぽさとリズム感だけで適当に処理した。字ヅラは汚ないけれど、舌の上で少し転がしていただけると、なんとなく原文のズンズンはずむようなノリがわかっていただけるのではないかな。  ついでながら、現代日本語は言文一致だと言われるが、大ウソだ。書き言葉とはなし言葉はかけはなれているし、はなし言葉は日々変化する一方で書き言葉は終戦以来一向に変わっていないので、その解離はひどくなる一方だ。日本の物書きの多くが文士さま気取りで、口語より文語を有り難がる権威主義者で(これについては田中克彦がしばしば指摘を行なっている)、自分自身がどうしゃべっているかすらまともに注意を払ったことがなく、ましてそれを文に取り入れる努力を一切してこなかったという歴史的な怠慢ぶりが一因だろう。本書の訳では、そうした怠慢を補うべく(いや別に補う気はないけれど、あちこちで見かける古くさい人工的な口語もどきが嫌いなんだよね)、なるべく実際のはなし言葉に近い表記を試みている。たとえば、「まったくもう!」という表現は、口に出すとしばしば「ったくもう」になる。この程度のことだ。やりすぎて、読みづらくなっている部分もあるかと思う。が、これは原文でも見られる現象だ。thの濁音をdで置き換えたり、ことばの最初または最後の子音を省いたりする、といった、実際の発音に忠実な表記に努めているのが原作の魅力の一つではある。ノリだけで飛ばして、自分でも何を言っているのかよくわからないところも多いが、まあ原文もそんなもんだ。 三、作者について  作者ダリウス・ジェームズについては不詳である。一応、ニューヨークのロウアー・イーストサイド系(つまりは前衛高踏お芸術派と考えていただければいい)の物書き兼パフォーマンス・アーティスト。この「ニグロフォビア」がデビュー作にして出世作である。デビューにあたってはキャシー・アッカーがいろいろ仲介したとかなんとか。現在、第二作のノンフィクションがほぼ仕上がって、ぼくが九四年夏に会った際には「明日、編集者に渡す」と言っていた。  本書は非常に好評を博し、先輩黒人作家イシマエル・リードを始め、積み上げると高さ三十センチほどにもなる無数の書評で取り上げられた。また、何だか知らないが舞台化の話が進行しているという。映画脚本仕立てなんだから、そのまま映画化の話がありそうなものだが、これもいくつか来ていて、なんでもオリバー・ストーンが興味を示しているとかいないとか。「社会派」(笑)のオリバー・ストーンのことだから、ありえない話ではないかもしれない。実現してくれれば、ぼくも儲かるので大いに期待したいところだ。ただし、全然別物に仕立てあげられてしまうのはまちがいないけれど。  会った時には、本書の最後近くに登場する「アメリカのエンターテイメントの根底は、黒人を笑いものにするということにあった!」という点をしきりに強調していた。「それまでアメリカ独自のパフォーマンスやエンターテイメント形態というのは存在しなかった! 白人が黒人のふりをして演じるショーが、アメリカ初の大衆芸能になったんだ!」 既述の第二作も、これを扱ったものらしい。「この本で大事なのはリズムだ!」と、その場で一節を朗読してくれたのは忘れられない。「Subvert now for the future」かれの書いてくれたメッセージである。「明日のために、今打倒せよ!」何を打倒すべきなのかは、言うまでもなかろう。 四、その他  個人的には、本書にはいろいろ文句がある。冒頭の引用もどきに見られる、世の中を白人と黒人に二分して、それだけで物を考えてしまうような部分。黄色んぼのわれわれとしては、ちょいと旦那、だれか忘れてやしませんかい? と言いたいところだ。ニューロマンサーのもじりでネグロマンサーなんてのが出てくるが、それが作中で何の役割も果たさず、単に思いつき語呂合わせで終わってしまっている。安易なスプラッターの多用。せっかく映画にしておきながら、最後になって収拾がつかなくなって、延々とバブルスのナレーションで説明をつけざるを得なくなっているのも、もったいない感じだ。そして一番大きな不満は、本書の採用したフォーマットそのものだ。パロディや茶化しの最大の弱点は、結局もともとわかっていたやつにしかわからない、という点にある。そして現状を変えるよりは、むしろそれを追認してのっかるのがパロディや茶化しなのである。これが果たしてかれの意図とマッチするものなのだろうか。  逆に本書で好きなのは、見事に再現された街のことばの躍動感だ。映画仕立てになってはいるけれど、本書の魅力は視覚的というよりはむしろ聴覚的なものではないだろうか。バスの中で、地下鉄で、あるいは通りで日々耳にすることばが、余すことなく捕らえられている。それを読みたいがためだけに、ぼくは今でもたまに本書を適当に開いて見るのである。願わくば、この感覚が多少なりとも伝わっていますように。 五、書誌など  本書はDarius James メNegrophobiaモ (Citadal Underground, 1992 )の全訳である。底本としては著者の指示によりSt. Martin版のペーパーバックを使用している。  翻訳環境としては、Amiga4000 + Emplantによるマッキントッシュのエミュレーション上でKatana4+クラリスワークス1.0を使用、辞書は「リーダース新英和辞典」(松田徳一郎監修、研究社、1984)をおもに使用。  本書の編集は藤波健氏が担当された。 一九九四年十一月二十日 ボストンにて