朝日新聞書評 2004/04-06

 

田所他編『国際機関と日本』(日経)

 日本の国際関係の議論の多くで、国際連合は錦の御旗だ。国の外交目標でも国連常任理事国入りが自己目的化しているし、アメリカ従属を嫌う人々にとって、特に冷戦後は国連しかよりどころがない。でも、国連って役にたってるの? 看板倒れという批判は大きい。国連以外の各種国際機関についても意味があるのか?

 この本は、そういう素朴な疑問にストレートに答えようとした野心的な一冊だ。国連、世界銀行等の機関がどれだけ人とお金を使って、具体的にどんな成果をあげているか、本書は客観的な活動評価を試みる。中でもそこへの協力が日本の国益に貢献しているか、という視点を明確に打ち出したのには大拍手だ。

 本書の評価方法にも疑問点はあるし、国益への貢献についても、白黒つけずにお茶を濁しているのは不満。でも主観と目先の事例にとらわれた国際協力議論の多い中で、まともな議論の前提となる包括的な検討の登場は素直に歓迎したい。

(コメント:実はもっとすごいことをいろいろ言っている。国連が本当に意味を持ち始めたのは、冷戦後に国連軍がばんばん軍事力を行使しはじめるようになって (PKO は軍隊じゃないという詭弁があるけどそんなの無視)からだ、つまり国連は軍事機関になって初めて意味をもちはじめたのだ、とか。ただ最終的な結論逃げすぎ。)
 

ボールドウィン『デザイン・ルール』(東洋経済)

 仕事の切り分けをうまくやると能率は抜群にあがる。これは常識だけれど、独立して評価するのはむずかしい。分業の多くは誰かが思いついてしまえば当然に思えてしまう。理念としてはわかるが、その部分だけの価値なんてはかりようがない、と思いがちだ。

 本書は、その切り分け方法自体に焦点をあてたおもしろい本だ。

 その最たる例として、著者たちはコンピューターを取りあげる。そのハードやソフトからシステム全体、開発方式、企業のビジネス手法、はては産業全体の構造まで、独立性の高い部分に切り分けるモジュール化の徹底と浸透が、いかに競争力と生産性を高めたか。技術から制度分析まで異分野を横断して原理をえぐりだす幅の広さは感動だし、モジュール化というデザイン原理が持つ価値をモデル的に定量化までした徹底ぶりには脱帽。

 漠然とした常識が目の前で堅牢な概念として組み上げられる刺激的な一冊だ。

(コメント:モジュール化のオプション価値の定式化、というのは笑っちゃいましたが、すごい。しかしこの3ヶ月は実に少ない! 新人の委員たちがはりきってたくさん書いてしまうので余裕がないというのもあるんだけれど、それにしても少ない! 仕事も忙しかった、というのはあるんだけどね。)



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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)