切り貼りマルチメディアの時代

(朝日パソコン 巻末のコーナー 1990年か91年)
 

山形浩生
 

 「PCを飛躍的に発展させた波は、まずスプレッドシート、次にDTP。そして来るべき第三の波が、インターパーソナル・コンピューティングだ!」とNeXTのスティーブン・ジョブスは言う。インターパーソナル・コンピューティングとは(長ったらしいけど)、要はネットワーク化されたマルチメディア環境だ。
 マルチメディアにも段階がある。CD−ROMやLDをリモコンできるというハードの段階、それをどう統一的に操作するかというソフトの段階。ハイパーカードは、ソフトの段階に踏みこんだ最初のソフトだし、アミーガ・ヴィジョンはさらに半歩先を行く。でも、ジョブスの目はもう一歩先を見ている。すなわち:

  1. PCを栄えさせたのは、今までも、これからも、ビジネス市場であり続ける。「スプレッドシートとDTP」は、職場にPCが導入される最大の理由だった(日本ならワープロも入るだろう)。マルチメディアだって、普及するものなら、その最大の現場は仕事場である。
  2. マルチメディアが職場で使われるなら、版下など見たこともなかった人々がDTPで編集者のまねごとを強要されたように、みんなが映画監督のまねごとをしなくてはならない。
  3. しかし、誰もがそんな才能を持っているわけではない。
  4.  さて、なぜDTPはマッキントッシュ上で開花したのか。それはマックが切り貼り能力に優れていたからだ。自分に才能がなくとも、他人の成果を切り貼りすれば用は足りる。
  5. では、マルチメディアでも切り貼りをすればよい。
  6. 切り貼りには、ソースとなる画像や音声が、データの形でメモリ上になければならない。その大量のデータをやりとりするには、伝送能力の高いネットワークがどうしても必要となる。
 故に、マルチメディアはネットワーク化(インターパーソナル化)される。
 これでNeXTの戦略性がわかる。あれは明らかにマルチメディア用切り貼りマシンなのだ。標準装備のリップサービス機能など、音声の切り貼り機能そのもの。しかもネットワーク環境を非常に意識していて、念の入ったことに、ネットワーク外のデータ交換用に、大容量光磁気ディスクまで装備している。
 NeXT自体が成功するかはわからない。世の中には、早すぎるという事態だってあるのだ。でも、大多数の人間の能力の限界まで見越したこのヴィジョンは、今後まちがいなく栄える。いずれ、バーチャル・リアリティーをビジネスの場に導入する話が出たときも、切り貼り原理は有効だろう。マルチメディア市場では未だハードの段階にとどまっている日本企業も、その時すかさず究極の疑似環境切り貼りマシンを出せばもうかるのだが・・・(どうせインターフェースが統一されてなかったりするんだぜ)
 

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XX様、

 結局朱入れでは対応しきれませんでした。大幅書き換えになったので、全文をおくります。別にジョブスをヨイショしたかったわけではなくて、「みんながみんな創造力なんか持ち合わせちゃいない」という(よく考えると人をバカにした)(けれど正しい)ヴィジョンの話がしたかったので、その点、今回のほうがよくわかるかと思われます。あわせてNiftyのほうにテキスト・ファイルも送りましたので、ご利用ください。
 また何かありましたら、会社なり自宅なりへどうぞ。

 ではまた。

山形 拝

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