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MIT電脳娘の年末年始デジタルカルチャー本指南

「朝日パソコン」1994年12月

ジェニファー・キャラハン談 (MIT建築学部)
山形浩生 編訳

 デジタル・カルチャー本? Shit! やめてよバカバカしい。なんだって正月早々そんな間抜けな代物読ませなきゃならないのよ! Fxxk!(放送禁止用語フルボリューム怒号 15 秒分削除)あの手のメディア云々サイバーなんとかって、ロクなもんないじゃん。たかがコンピュータいじったくらいでテメーが偉くなった気になってさ、新人類だニューブリードだ文化の新段階だって、笑わせんじゃねぇっつーの! 又聴きとUSENETをちょろちょろ拾い読みした受け売りでインターネットがどうのと御託並べて、挙げ句にそれをお手軽世代談義とくっつけて悦に入って、ったくバカにするなといふのだ!

 どうせ読むなら、うーん、そうだなあ……(眉のピアスをつんつん引っ張りながら長考)……やっぱ、そういう連中のバカさ加減を見極める勉強なんかするのが一番役にたつんじゃない?(ぐちゃぐちゃの机上をひっかきまわす)

「まずは基本で、マーシャル・マクルーハンUnderstanding Media』。こないだ新装版も出たし。みんな、読んだふりして実は読んでないんだな、これ。そういうインチキ連中が一発で見分けつくようになるわよ。え? いい邦訳があんなら、無理して英語で読まなくていいじゃない。

 読めばわかるけど、マクルーハンって結構とんちんかんだよ。テレビとラジオと映画の話を整理してみると、全然収拾がつかないもん。いろんなメディア自体もゾロゾロ変質してるし。特にテレビの話は古すぎる。んでもって、かれの議論をいまのコンピュータやネットに適用しようとするでしょ。できないんだな。そうなると、かれの理論家として価値も、何だか考えちゃうわよねー。遺作『The Global Village』は、わかりやすい分(あくまで比較的、よ)そういう粗も見えやすくていいと思う。

 ホントに現代性を持った役に立つ本は、E・M・ロジャース『コミュニケーションの科学』(Communication Technology)。邦訳も優秀なんでしょ? 現実的で変な妄想がないし、実証的だし。Cool!

 でも、正月からそんな根つめて勉強するのもねえ……娯楽で読むんならこの『boing boing』。Now People(笑)向けメディア・カルチャー洗脳雑誌! 発行人たちが楽しんでつくってるのがビシビシ感じられるじゃない。何の雑誌ってわけでもなくて、面白ければ何でもあり。サイバー/オカルト系雑誌にありがちな、くだらないエリート意識や生真面目さがなくていいのよね。

 『Factsheet 5』はマイナー雑誌、ファンジン、自費出版のカタログ雑誌だけど、編者たちがすべて実地に目を通してコメントをつけてて、すっごい頼りになるし面白い。『こんなバカな雑誌があんのか!』って、楽しいわよー。

 (と、ここでうつむいて口ごもる)でも……どうもこの世界も、最近アレなんだよね。変態マイナー雑誌も淘汰が進んでるし、全体に戦線縮小してる感じ。リチャード・ケイドレイ編『Covert Culture Sourcebook』ってあるでしょ。あの去年出た、変態雑誌やグッズやビデオやグループの一覧本。まあケイドレイも軽薄でアレな人だけどさ、この本の旧版はすごく使えた。でも今度出たバージョン2.0は、全然ダメ。まるで使いものにならないんだ。これって、たぶんケイドレイだけのせいじゃなくて、この手の周縁文化が一段落しちゃったせいだと思う。一部はメジャー化して、一部はタコ壷化して……特に、アンチ主流的なポジショニングしてた人たちは、最近まごついてるみたい。つまりさ、ミニストリーは最高だけど、でもこれからどうするつもりなのかな、みたいな。

 でも一方で、『いいものはいい!』ってコツコツやってきた連中の世界が、見事に結実してきてるよね。UnixもどきOSのLinuxなんか、好きモノが集まってワイワイ育て上げて、いつの間にかオモチャの域を超えたすごい環境になってきた。『Linux Journal』は、そういう生産的なパワーの盛り上がりと、何かを達成しつつある自信が感じられて、すごくいいなあ。(あと、PascalおじさんNiklaus Wirth のやってるOberonとかも面白いけど、こっちはまだ先物って感じ)

 こんなのは? 『Cold Fusion』。常温核融合雑誌。冗談かと思ったら、これが大真面目なのよねー。信じらんないけど、笑えるから許す。それにしても、これによると日本って本気で常温核融合に金出してるそうだけど……

 ロック雑誌『Ray Gun』は最近おとなしくなったけど、でも相変わらずカッコいいなあ。完全に絵と化した、読めない記事。誰も言わないのが不思議だけど、これって従来の雑誌というメディアを完全に倒錯させてるわけ。これもDTPがなきゃ決して出現しなかったでしょうね。デジタル文化の申し子みたいな雑誌。まねっこ雑誌も出てきてるけど、スケボー・スノーボード系の雑誌以外は、ここまで『内容』をシカトするふんぎりがついてなくて、見苦しいだけ。

 スノーボードと言えば『Over the Edge』も外せない。高アドレナリンスポーツ・クロスオーバー派雑誌。スキューバもスカイダイビングも、バンジージャンプもスノーボードも、マウンテンバイクもラフティングも、血の煮えたぎるスポーツなら何でもやろうって雑誌。バーチャル・リアリティなんかの、脳ミソだけが人間だ、みたいなノリはもうたくさん! そういうのが、この手のスポーツの爆発的成長の背後にあるかもしれないけど、でもどうでもいいや。ピアスの流行とかもその一環だな(と、耳に10個通したピアスをジャラジャラいじる)

 最後に目下の愛読書が、この『Tank Girl』! 今度映画にもなった(コケないといいんだけどね[Note])、無茶苦茶なノリのコミック。賞金首のミュータント・カンガルーたちが徘徊する未来のオーストラリアの砂漠を戦車に乗って駆け巡る、がさつきわまるビールがぶ飲み賞金稼ぎスキンヘッド娘! ほとんどあたしじゃない(笑)! もう最っ高! Absolutely Fabulous!

 こんだけあれば、年末年始くらいは楽に潰せるよねー。それでは日本のみなさま、よいお年を! そしてProj on!


USENET: インターネット上で、好き者が各種のニュースグループ(会議室)をつくって勝手な談義にふけっているところ。各種の通俗インターネット解説記事の多くでは、この中の風変わりな会議室をのぞいて勝手な論評をするケースが多く見られる。

 マーシャル・マクルーハンカナダの英文学研究家。途中でメディアが人間に与える影響を論じるようになり、「メディアの意義はそのメディアの形態そのものにあるのであって、それが伝える中身はどうでもいいのだ!」という、有名な「メディアはメッセージである」という指摘を行ない、もともと中身のあるものを生産する能力を持たなかった人々に大歓迎される。「熱いメディアと冷たいメディア」「グローバル・ビレッジ」など、キャッチーなフレーズの考案にかけては天才的だが、理論の多くは実証性に欠け、レトリック依存。

 ミニストリーアル・ジュルゲンスン率いる、現代最高のインダストリアル系ロックグループの一つ。サンプリングを多用した、ノイズっぽいヘビーなサウンドは無敵。現代世界(特にアメリカ)に対する否定的な歌詞の歌が多い。

 Absolutely Fabulous: 現代イギリスが世界に誇る、必殺コメディ・シリーズ。セックス、ドラッグ、ロックンロールに浸りきった、物欲と放蕩三昧の暮らしを続ける母親とその悪友、そしてそれと闘うけなげな娘を描く。最近アメリカでもジワジワと人気を高めており、その影響で「Fabulous!」「Sweetie!」などの表現がいたるところで見られるようになっている。民族ネタや差別ネタ、ドラッグネタが多過ぎて、日本ではたぶん永久に放送されないと思う。かわいそうに。

追記(1998年):ほーらこけた。でも当然のざまみろじゃ。まさかあんなくだらない映画になるとは思わなかった。ファンみんな憤死。タンクガールが化粧なんかすんなぁぁぁぁっ! ローリー・ペティ死んでよしって感じ。

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YAMAGATA Hiroo<hiyori13@alum.mit.edu>
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