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alc2011年09月号
マガジンアルク 2011/09

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 68 回

嫌われ者の中国援助のよいところ

月刊『アルコムワールド』 2011/09号

要約:中国の援助は強引で自分の利益を露骨に押し出すので嫌われているが、明快だし、また人々が定着してやっている分、キモがすわっていてよい面もある。


 東南アジア(に限らないが)では華僑がたくさん活躍しているし、援助がらみの分野でも最近の中国の進出ぶりには目を見張るものがある。

 必ずしもいい意味じゃない。他の援助機関との協調など一切考えず、また援助相手の利益も無視し、環境や住民補償などぶっとばしてとにかく強引にプロジェクトをかっさらい、工事その他は全部中国企業に流して、というやり方には不満も多い。

 ついでに、形に残らない泥臭い仕事はやらない。目立つ施設(スタジアム)と電力、あと日銭の入りやすい通信系など。そして単に工事を請け負っただけでも「中国がやっている工事です」と大々的に宣伝するので、地道な援助をしているところとしてはおもしろくない。

 が、その一方で、日本に同じことができるか、といえば無理だ。どうでもいいと思えることが多い環境アセスだの何だので何年もかかる日本その他に比べれば、中国は必要とされるインフラをすぐ整備してくれる。実は中国の援助条件(金額や金利その他)ははっきりしない。でも、素早いことだけは確実にわかる。

 それに援助がらみのプロジェクトでも商売でもそうだけれど、日本人などはせいぜいが、短期で駐在員を送り込むだけ。でも中国人は、そこにどっかり住み着く。それをシナ化だと批判するのは簡単だ。現地に真剣に取り組んでいるのはどっちかと言われると、それは中国ってことになるのでは?

 そしてその露骨な利益誘導に顔をしかめる一方で、多くの援助関係者は、その明快な態度をうらやましく思っている。日本とかだと、明確に日本に利益誘導してはいけないと言われ、公平にしなくてはと言っているうちに、そもそもなぜ日本が援助をするのか、という目的意識も不明確になり、単なる御用聞きのばらまきみたいになっているように思えることさえ多い。そんなお題目への追随はやめて、日本も言うときにはちゃんと利益誘導しますといえばいいのに。それを思うと、中国の図々しいが明快な態度は、ときに爽快にさえ思えることもある。

 さてその中国人たちはどこでも不動産が大好きで、あちこちでビルを建てるんだが、そのとき必ずやること。四階を飛ばすのだ。

 むろん、四は死に通じるので不吉な数とされているせいだ。欧米では十三階のないビルがたまにあるのと同じだ。でも、華僑系のビルでは、飛ばし方の徹底ぶりが尋常ではない。

 むろん、それで大きな実害があるわけではない。ときどき気がつかずに、エレベーターのボタンを押し間違えてしまいまごつくことがある。その程度だ。

 が、これを受けて、酒の席で出る冗談がある。中国よけにたとえば援助金額を四並びの数字にするとか、あるいは道路四本とか発電所四カ所とかいう形でプロジェクト組成したらどうか? そしたら中国はぜったに応札してこないよ!

 むろん、そんなバカなことは実際にはない(と思う)し、これはあくまで酒の席の冗談でしかないんだが。それに実際にそれをやって中国人が本気で四を嫌っているにしても、プロジェクトを二つに割るとか、もう一つ足して五つにしてかわすとか、いくらでも手は考えるはず。

 そして、明確な目的意識を持ち、その実現のためには他の連中から何を言われようとまったく意に介さないその態度は、学ぶべきものがあると思うのだ。援助、ひいては外交って本来そういうものじゃないの? 日本みたいに、全方位波風たてずで、いつも万人に顔色をうかがい何も自己主張しないようなやり方は意味がないのでは?

 まあ中国的なやり方が本当にいいのかはわからないし、いまの日本は人が外国に移住までして拠点を作るやり方はしない(できない)。でも……少しそういうことも考えていく必要があるんじゃないかとぼくは思っているのだ。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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