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alc2011年06月号
マガジンアルク 2011/05

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 63 回

都知事選挙とツイッター井戸の蛙たち

月刊『アルコムワールド』 2011/06号

要約:都知事選、ツイッターでみんな「原発推進の石原をツイッターの力で落とそう」とか言っていたがふたをあけたら圧勝。ツイッターがいかに狭い井戸で、その中のRTがいかに偏狭なマイノリティでしかないかが如実に判明。


 これを書いているしばらく前に、東京では都知事選挙が行われた。むろんご承知のとおり、現職の石原都知事が再選を果たした。それもかなりの差をつけての当選で、NHKの選挙速報は開票が始まる前にすでに当確報道をしていたほど。正直いって、選挙というものの趣旨からして、当確速報なんて少なくともある程開票がすすんでからやってほしいとは思う。そうでないと、選挙がホントに形式だけのものになってしまうでしょう。

 が、それはさておき、おもしろかったのはその都知事選前後のネット、特にツイッター近辺での動きだった。

 今回の都知事選では、ネット周辺では石原都知事をあまり快く思わない人々がたくさんいた。有害図書規制については一部のキモヲタ諸子にとどまらず多くの人が批判的だったし、震災に関する天罰発言は多くの人の反感をかった。さらにその後の原発事故により、一部のミュージシャンなどが各候補の原子力に対する見解などを聞いたりして、原発に明確に反対しなかった石原都知事は原発推進派だから許せない、といった議論が出回り、ネットの上では石原再選絶対阻止、みたいな気運が一部で盛り上がっていた。それにともない、かれの過去の失言などを集めたりする人も出てきて、あれやこれや。

 その一方で、他に投票したくなる候補がいたかというと、うーん。その前の都知事選は、明らかな冗談候補と間際になって担ぎ出されてきた思いつき候補だけで、正直いってまともに政策レベルで少しでも考えようという気すら起こらないものだったけれど、今回はそれより多少はましだった。が、多少でしかない。政策的に、この人のこれは魅力的、というようなものは皆無。そしてその人たちがみんな、明らかに思いつきの人気取りで「反原発」とか言っている。

 多くの人は、それを見て反原発候補に入れようとか言っていた。もちろん、それもバカな話ではある。都知事が原子力発電についてどう思っていようと、都は基本的にエネルギー政策を持てない。だからどうしようもないのだ。本来、この話は都知事選出には何も関係ない。

 が、そうはいっても一応何か評価の基準はできた。そして北アフリカではツイッターが革命を起こしたと本気で信じている人々は、そうしたネット上での盛り上がりを見て、今回の都知事選でもネットが革命を起こせるかのような気分にひたっていた。勝てないにしても、ネット上で少し推されている候補がかなり票をのばし、ネットも侮れないことを見せつけることを期待していた。

 が、結果はご承知の通り。石原知事だけじゃない。二番手の東国原候補はネットではほとんど話題になっていなかった。そしてツイッター界隈の「識者」に応援されていた候補は、まったく存在感がなかった。

 むろん多くの人は、ツイッターの世界が決して本当の世間一般ではないのを知ってはいた。が、ここまで存在感がないとは、さすがに予想だにしていなかった。こういう話に冷笑的なぼくでさえ驚いた。どうもみんな、見てはいるかもしれないし、デマは拡散するかもしれない。でも、それを見て何か具体的な行動に移そうという気にはならないようだ。そしてそれ以上に、自分が共感したり納得したりする意見の持ち主を集めるにつれて、人は気がつかないうちに、似たもの同士で群れているだけになる。そして周囲の見えないネットの世界においては、なかなかそれがごく一部の特殊な人々でしかないとは気がつかず、それが実際よりずっと大きな世界であるかのような幻想に浸ってしまう。

 その危険はこれまであちこちで指摘はされていたけれど、それがかくもあらわになるとはぼくですら思っていなかった。ネット世論の重要性は、だんだん増してきたと思っていたんだが……あるいはひょっとしたら、ぼくがネットの全体だと思っていた世界が、実はネットのごく一部でしかないのかもしれない。すると、本当に世界の全体を捕らえるにはどうしたもんか……



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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