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alc2011年05月号
マガジンアルク 2011/05

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 62 回

地震の大げさな海外報道と、それに伴う海外の情け

月刊『アルコムワールド』 2011/05号

要約:地震でいろんな国の人たちが、うちにくるといいよと言ってくれて、心温まります。でも大丈夫ですから。あとそっちの報告、大げさですから。でもありがとう。


 今日は地震が起きてちょうど一週間だ。まだ原発の危機は続いてはいるけれど、それでも少しずつ日常が回復しつつある雰囲気はある。

 とはいうものの、もちろん外国で報道を見ている人々はそうはいかない。当然ながらほとんとの人は、東京と仙台の距離感なんかわからないし、また原発報道も日本国内ですらパニックをあおるだけのいい加減な報道が数日前までまかり通っていた始末。外国となると、あれやこれやと懸念をあおり、アメリカ人ですら、自分のところにまで累が及ぶと思い込んでいる始末。

 だから諸外国のぼくの友人たちや仕事上でつきあいのある人々は、明日にも日本全体が北斗の拳のような不毛の荒野になり果てるかのように思っていて、しきりに「大丈夫か、困っていることはないか」と心配してくれる。

 特に、福島一号原発が水素爆発を起こしたときはすごかった。まああれは、見た瞬間にぼくですら「もうダメだ」と思ったからなあ。その後の展開をきちんとフォローせず、あの映像だけを見た人はどうしても最悪の事態を想定してしまうだろう。それも含め、自国での報道を(ピンキリごたまぜだが、当然キリのほうが圧倒的に多い)送りつけてくれるのは、正直言ってそろそろありがた迷惑になりつつあるのは確かなんだが。

 やっぱり日本と同じで、多くの国では科学的な見解は似たり寄ったり。原発事故は、至近範囲は半径 30 キロ外では心配無用。これはイギリス大使館の科学顧問の発表が最も明確だった。でも、それと国民感情とは別だし、公式のアナウンスはもう少しお役所的に決まる。そのイギリスの外務省ですら、同国民には東京付近の自国民に対して退避勧告を出していた。不安にかられた問い合わせが多いことと、万が一の場合の責任逃れもかねて、ある程度はサバを呼んでおく必要があるんだろう。

 ちなみにこれを見ると、日本の外務省による渡航勧告などでも、どのくらいノリ代をとってあるのか見当がついて、なかなかおもしろい事例ではある。ぼくはこれまで、外務省とかの公式発表はだいたい実際より話を倍くらい大げさに言っているという印象があったんだけれど、今回のを見ると三倍くらいは誇大に発表していると思っていいのかもしれない。とはいえ、事態が特殊なので一般化できるかはわからないけえど。

 というような話をして、各国の友人たちをなだめて、現場にいるオレよりおまえらがおたついてどうする、いちばん不安で情報を集めてるのはこっちなんだから、あまりパニックをあおるようなことはせんといてくれ、いざというときは頼るから、というメールを何度も何度も書いたので、もうテンプレートができてしまったほどではある。

 とはいえ、いろんな国の連中から「もし国外脱出する必要があれば、うちにいくらでも泊まってくれていいから」と言ってもらえるのはありがたい。ラオス、カンボジア、ガーナ、モンゴル、アメリカからそういう申し出をいただきまして、いやあ冷血非情で鳴らすこのぼくですら、ちょっと涙が出てしまいましたよ。

 で、うーん、この中だとアメリカをメインにして、ラオス、カンボジア、ガーナ、モンゴルそれぞれ年に一ヶ月ずつローテーションすると、なかなかいい感じなんじゃないかな。でも、いまの感じだと、たぶんかれらの世話になる必要はなさそうだ。そろそろ本気で復興を考え始める必要がある。なんだか政府のトップは、目先の原発問題に追われて全然そっちのほうに頭が向いていないようだし、復興の費用を考えるべき財務省と日銀は、どさくさにまぐれて増税だの財政再建だのと、いま持ち出すべきでないような話を平気で言い出していて、ホントにこのままでだいじょうぶかいな、という感じではあるけれど。

 たぶんこれをみなさんがお読みの頃には、その復興の片鱗が見えてくる頃じゃないかとは思う。その中で、ぼくもみなさんも、自分なりの役割を十分に果たせることを、ぼくは心から祈っている。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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