Valid XHTML + RDFa cc-by-sa-licese
alc2009年9月号
マガジンアルク 2009/09

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 41 回

日食は見られなくても上海はおもしろい

月刊『マガジン・アルク』 2009/09号

要約:中国に日食を見に来たのに大雨で見られなかった。上海はどんどん変わっていておもしろいところだが、まだ付け焼き刃っぽいところも多く。でもそれがおもしろさだったりもする。


 今日は七月二十二日、ここは上海。ぼくは深い泥のような失望の中でのたうちまわっている。窓の外は雨、空は分厚く鈍い雲に覆われている。そう。今日は皆既日食の日だったのだ。一年近く前から楽しみにしていたのに……

 この日の天気が悪そうだというのは、一週間くらまえの長期予報時からずっと言われて多少あきらめてはいた。でも、前夜かなり強い雨が降って、それで雨雲が消えてくれるんじゃないかという期待もちょっとあった。

 が、当日の朝は低く垂れ込めたものすごい雲。それでも、人民広場には、少しでもお天道様が顔を見せないものかと毛唐も中国人も日本人も、たくさん集まっていて空を仰いでいた。だが日食開始の八時半頃になっても、雲は減るどころか厚くなるばかり。だんだん空が暗くなってきたのも、太陽が月に隠れたせいか、それとも雲が濃くなっただけなのか。

 そして、とどめはまさに皆既日食になる直前頃からの雨。あーあ、天はとことん人々を愚弄するつもりのようで。

 それでも、皆既日食になると最後の三十秒くらいで、あたりが真っ暗になる。それはそれはシュールな光景ではあった。雨の中、人々みんな「おおーっ」と感動の声をいっせいに上げたが……

 そこで雨がさらに強くなったのだった。

 帰ってテレビを観ると、まさに今回の日食コースにほぼ沿う形で豪雨地帯となっていて、是が非でもこの皆既日食を中国の人々に見せるまいという悪意のようなものすら感じられてげんなり。

 とはいえ、こんなこともあろうかと思って、今回の夏休みの行き先は上海にしたのだった。万が一天気が悪くても、上海なら他にすることもある。どこかの島にテントを張っていた人々はかわいそうに。そして数年ぶりの上海は、やっぱりおもしろいところではあったのだった。

 相変わらずの開発ラッシュ。あの古い上海のシンボルの一つであった平和飯店も現在は改装中で閉館。毎回ここは、見つけたうまい飯屋が次回くると再開発でつぶされてなくなっているというのがパターンだ。そして来た人はわかるけれど、所得層や生活圏が明らかに二分されているのがわかる。一食八元で麺や小籠包やお饅頭を食って生活している人々の階層と、そして一杯二十五元のスタバのカプチーノを飲んでいる人々の階層と。前者の部分はもちろんだんだん壊されてなくなる。それが惜しいと思う一方で、それがグチなのも知っている。そしてまた、いまの中国はやると決めたら是が非でもそれをやり通すだろうということも。いま上海は、来年の上海万博に向けて、オリンピックの北京に負けてはならじと市の大改造を進めている。上海に限らず、先日暴動と殺しあいのあったウルムチの映像を見て、ぼくはその事件と同じくらい、ウルムチがいつの間にかすごい都会になっていたことに驚いてしまったのだった。まさにそれがあの暴動の一つの原因でもあるわけだけれど。

 とはいえ一方で課題もあって、自信をつけてはきていても、まだまだ後追いの摸倣面も大きい。M50という人工的なアーティスト村の画廊を見ると、ジャン・シャオガンが売れているからそれっぽい絵を、バイルレ風にしてみたかったのでバイルレを、シンディ・シャーマンみたいなのをちょっとやってみました、等々ほとんどみんな、ネタもとと魂胆が透けて見えるものばかり。それが実に器用で上手なのがなおさら悲しい――とはいえ、小金持ちの中国人が、アートは儲かると聞いてわけもわからず買いあさるので、なんても高値がつくとか。それが少しこなれはじめるのはいつ頃か――たぶんそのときには都市の開発スピードも落ちついてはくるはずなのだけれど。でも、それは当分先になりそうではある。



前号 次号 マガジン ALC コラム一覧 山形日本語トップ


YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
Valid XHTML + RDFa クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
の下でライセンスされています。