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alc2009年4月号
マガジンアルク 2009/04

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 38 回

UFO 雑誌と、浜の真砂の何とやら

月刊『マガジン・アルク』 2009/04号

要約:イギリスの古参 UFO 研究誌『マゴニア』が廃刊。出版者は、UFO 研究がまともな科学に成長することを願っていたのに、ファンはとっくに否定されたネタを何度も何度も繰り返し蒸し返すばかりで 40 年たってもまったく同じ。それで絶望したそうな。UFO 研究なんて不確定で無責任なところが楽しいと思うから笑ってしまうけれど、でも寂しいね。


 今回はいつもの外遊ネタから離れて、ちょっとイカレた話をしよう。『マゴニア』という雑誌をご存じだろうか? ご存じだとしたら、あなたはかなーり変な人、それも下手をするとものすごくトンデモな方かもしれない。というのも、『マゴニア』はイギリスの UFO 雑誌だからだ。それも超古参で、創刊から四〇年にもなる、この分野では重鎮級の雑誌だ。

 その雑誌が次号で廃刊を発表した。

 この手の超常現象系の雑誌は、とにかく何でもいいからオカルト的な話をあおりたてて読者さえ稼げばいいという商業性だけのものも多い。だが、本誌はもっと真剣なものだった。発行人兼編集人ジョン・リマーは、UFO 研究をきちんと胸の張れるような立派な学問にしたいと考えていたのだった。そしてかれが雑誌の廃刊を決めたのも、儲からないからではなかった。UFO 研究がいつまでたってもまともな学問になれないことに失望したのだ。

 UFO というものが初めて報告されてから、今年で六〇年になるそうだ。その間にいろんな UFO 目撃事件は起きて、蓄積はできている。だが、それはいつまでたってもコンセンサスにならない。ロズウェル事件やヒル夫妻誘拐事件をはじめ有名な事件は、ある程度調査が進み(おおむね否定的に)結論が出ていた。それなのに後続の「研究者」たちは、それまでの蓄積をまったく無視してまたもや同じ話を嬉々として蒸し返すばかり。思い通りの結果が出ないとすぐに陰謀論に走る。最近のUFOサイトの様子を見て、かれは嘆く。昔と同じ話ばかりだ、六〇年代、七〇年代がまるで存在しなかったかのような有様だ、と。

 学問なら、普通はその分野としてコンセンサスが生じる。その時点での各種証拠を総合的に考慮した説が生まれ、それに基づく蓄積なり検証なりが行われる。だが UFO はそうはなっていない。リマーが四〇年にわたって努力してきたにもかかわらず。そして、これからもならないんじゃないか、とかれは述べる。

 じゃあ UFO 研究って何なの? リマーは、それが切手収集のようなものじゃないか、と述べる。切手集めを本格的にやろうとしたら、地理の知識、歴史の知識、印刷術や郵便制度の知識、分類学やファイリング手法などを知る必要がある。それらの個別の技能や知識は本当の学問から拝借してきた、立派なものばかり。でも、切手収集は学問ではない。それと同じで、UFO 研究もきちんとやるにはいろんな知識が必要ではあるし、科学的な手順の導入も必要だ。でも、だからといってそれが学問になるわけじゃない。そしてそれをこの先も続けたって意味がないんじゃないか?

 うーん、そんなことに気がつくのに四〇年もかかるなよ、という気はするし、そもそもUFO研究をまともな学問にしようという発想自体が無茶なんじゃないか、とは思う。だって……UFOは定義からして未確認だし、確認できないものは学問になりようもないじゃないか。コンセンサスがないのも、それだけの材料がそもそもないから、でしょう? そしてぼくは、UFO話のおもしろさは、基本的にそれが決して確認できないところにあるとは思うのだ。情報も不十分、目撃者の記憶もあやふや、記録もはっきりしない――世の中がどう進んでも、そうした現象は残る。それはどうがんばっても確認できないのだ。それについて、あやふやであることを承知であれこれ妄想たくましくするところに、この手の話の無責任な楽しさはあるんじゃないか。

 とはいうものの、ぼくは信者じゃないけど、宇宙人がいたら――そして地球にきたら――おもしろいとは思うし、そして明日にも空飛ぶ円盤が着陸する可能性は、決してゼロではないと思う。それだけに、まじめにそうした可能性を(四〇年も!)考えていた人がさじを投げるのを見るのは、ちょっと悲しい気もするのだ。とはいえ、浜の真砂は何とやらとも申しますし……



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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