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alc2008年4月号
マガジンアルク 2008/04

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 25 回

アフリカをめぐる希望と絶望

月刊『マガジン・アルク』 2008/04号

要約:アフリカは出発点が悪いのは事実だが、ルワンダといい、今年に入ってのケニアといい、なぜある程度までコツコツ築き上げてきたものが、変な部族抗争みたいなものの噴出で一瞬のうちに灰燼に帰すんだろうか。


 アフリカは、開発援助の関係者にとってみれば悪夢と絶望に満ちたところだ。もちろん、出発点からしてかなり悪いところではある。貧乏だし、インフラはないし、人材も不足しているし、政府は弱いし、風土病はやたらにあるし、おまけにエイズは蔓延しているし。これを発展させてそれなりの生活水準を実現しようという話自体がかなりハードルが高い。

 だが、そんなことはみんな承知の上だ。それ自体はことさら言うべきにも非ず。だからこそいろんな人ががんばって、少しでも事態をよくしようとあれこれ試みているのだ。それに伴う利益誘導や汚職はあるけれど。全体としては、何とかこの現地のためになることをしようとみんな考えている。

 そしてそれがうまく行くときも。たとえば『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中公新書)というすばらしい本がある。日銀マンが、まともな帳簿さえなかったルワンダの中央銀行総裁となって、すばらしい手腕を発揮する夢のような実話だ。もちろん手前味噌の部分もあるんだろう。でもいまの無能きわまる日本銀行からは想像もつかない(いや、想像がつくのが問題なんだが、それはさておき)大活躍。インフレを抑え、旧弊な制度を改革し、寄生虫のような旧宗主国ベルギーの利権を踏みつぶし、自由化を進め、開発の融資も行う。見事なサクセスストーリーで、中央銀行の本当の力、そして本当の援助に何ができるかを鮮やかに描き出す。

 だが……そのルワンダは、十年かそこらでまた停滞に陥り、さらにしばらくして凄惨な民族浄化の殺し合いに発展する。ルワンダ中央銀行の日本人総裁が長い時間をかけてコツコツと築いたものは、一気に崩壊した。

 なんでそうなるんだ、とみんな思う。それが自殺行為であることは当の紛争当事者だってよく知っているはずなのに。今回のケニアの動乱でも。もともとは不正選挙をめぐるちょっとした衝突でしかなかった。抗議する野党。デモとその弾圧。まあどこにでもある光景だ。でもそれがたちまちのうちに一大暴動に発展し、そしてそれが一瞬で民族浄化の殺し合いに至るとは。

 ケニアは援助業界では比較的優等生だった。アフリカの他のどうしようもない諸国に比べれば、安定していたし、お行儀もよかったし、建設的な政策も進めていた。こんな、いきなり殺し合いが始まるほどの不安定さを隠しているとは、だれも予想していなかった。そんなに強く残っているとさえ思っていなかった部族意識が、いきなり噴出してくるとは。

 いまいるガーナでも、部族間の対立はかなり根深く残っていて、ときどき一部地方に渡航自粛要請が出る。現地の人は「平気だよ、いつものことだ」というんだけれど、ケニアの後ではなかなかそうは思えない。豊かになれば紛争も減る、と援助関係者は言うんだけれど、それもいまはあまり自信がない。他のアフリカの優等生たち――タンザニア、エチオピア、ウガンダ等々――も、状況は似たり寄ったり。うちは大丈夫、とみんな言うが、どうだろう。

 これはもう援助でどうなる話ではないんじゃないか、と言う人もいる。先日、高名な科学者が、アフリカは経済発展とか教育とか以前の問題があるんじゃないか、と発言してすさまじい批難にあった。でもそう言いたくなる気持ちは、ぼくには――そして多くのアフリカ援助関係者には――痛いほどわかる。

 今日のガーナはアフリカカップの決勝戦で興奮にわいている。ガーナは準決勝で負けたけれど、三位にはなったので、みんなまあ満足。ぼくのいるホテルには決勝組のカメルーンが泊まっていて、サミュエル・エト目当ての追っかけやマスコミがうじゃうじゃ。平和だな。でもケニアの惨状を見たあとで、これが一瞬砂上の楼閣に見えてしまうぼくは、あまりに悲観的すぎるだろうか。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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