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alc2008年1月号
マガジンアルク 2008/01

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 22 回

レソトの王さまの噂など。

月刊『マガジン・アルク』 2008/01号

要約:レソトの王さまは結構やり手だし、軍事クーデターや息子の死を乗りこえて何度も復位した波瀾万丈の人なんだが、セックス禁止令を出してその直後に自分でそれを破ったりして、なかなか(部外者には)楽しそうな人。


 なんだか、来年度にまた変な国にでかけることが決まりそうだ。レソト。南アフリカの地図を見て、その東よりの真ん中あたりに、小さく丸い孔が開いているのに気がついた人もいるかもしれない。それがレソト王国。

 出かけるのはかなり先の話ではあるんだけれど、まあ予習もかねて少し調べているんだが……よくわからん国だ。人口百万人強だし、面積的にも小さい国。主要産業は出稼ぎと牧畜と繊維産業で、人間より家畜のほうが多いというところ。

 で、王国というだけあって、ここには王さまがいるのだ。

 この王さま、えらいところもある。この人は各種の軍事クーデターをくぐりぬけ、一時は後継者に禅定したら、その人が交通事故で死んじゃって、そのためまた復位したという結構波瀾万丈な人生を送っていてなかなか(外から見ているだけだと)おもしろい人らしい。繊維産業の育成で国の産業の多角化をはかって成功したり、なかなか政治経済運営でも手腕を発揮していて大したもんだ。

 アフリカの南部といえば、もちろんエイズが猖獗を極めている。でも多くの地域では、政治家や権力者がきちんとエイズの話(つまりはセックスがらみの話)をしたがらないがために、きちんとした情報が伝わらない。でもこのレソトの王さまはなかなかえらくて、率先してエイズの検査を受けて見せた。臣民たちも、恥ずかしがってないでちゃんと検査しようぜ、というのをアピールする手段としてはなかなか立派。エイズはHIVで起こるんじゃないとかいう寝言を言い出す、あのありとあらゆる面でトホホなムガベと比べればすばらしい開明ぶり、ではあるんだけれども……

 その一方で、たいへんにアレな噂もつたわってきている。

 なんでも、エイズの蔓延と、各種風紀の乱れ等々に怒った王さまは、あるとき「17歳以下はセックス禁止!」という法律を出したそうな。禁止するということはもちろん、そういう行為はいくらもあったということなんだけれど、これだけなら特にあれこれ言うことでもない。日本でも淫行条例とかいうバカなものがあって、セックスには年齢制限が(たてまえ上は)あることになっているので、似たり寄ったりではある。

 が、この法律が施行された直後に、この王さまはどっかの17歳の女の子を見初めて妃にしてしまったそうな。まあ自分の作った法律なんだし、自分が破るのも勝手といえば勝手なのかもしれないが。でも、これをきいて、国民(の特に女性たち)が怒り狂った。「あたしたちにはセックスするなと言っておいて、自分は好き勝手に女の子を手込めにするとは何事か!」というわけで、全国から女性が首都の王宮前に押し寄せて抗議のデモを繰り広げ、一時は戒厳令寸前にまでいったとか。

 初めは無視していた王さまだけれど、騒ぎは増すばかりで一向に収束する気配がないどころか、拡大する一方。それが最高潮に達したところで、やっと王さまが門前に出向いて、女性たちに謝った。そしてお詫びのしるしに、みんなにウシをあげた(バーベキュー大会を開いたという説と、生きたままあげたという説があってはっきりしない)。女性たちはそれで満足して、みんな家に帰りましたとさ。

 すげえ。ほほえましいというかまぬけというか牧歌的というか。でも国がこのくらいの規模だと、一応王さまとその臣民たち、という構図がかなり明確に王さまにも臣民たちにも認識されていて、そこにあまり余計な神話や神秘的なヴェールがなくて、権力構造が明確ではあるのがうかがえて、なかなかおもしろい。来年あたりには、ここらへんの様子を実地でお伝えできると思うので、刮目して待て!



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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