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alc2007年8月号
マガジンアルク 2007/08

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 17 回

奴隷商売の元締めは黒人側だった

月刊『マガジン・アルク』 2007/08号

要約:一般に奴隷は、白人がアフリカにやってきて無辜の黒人を狩りたてたように思われているけど、そんなことはない。もともと黒人たちは隣村を襲って奴隷に仕立てるのが常道で、そのあまりを白人に売ってやっていただけ。しかもその商売では大もうけをしている。でも、同じ奴隷を使っても、それを産業振興に役立てた白人を、自分でも奴隷を使い、それを商売にして大もうけしながらすべて無駄遣いしてしまい、いまだに貧困に甘んじているアフリカ人たちが被害者ヅラして批判できるんだろうか。


 ガーナや象牙海岸(コート・ジボワール)など、アフリカ東部の沿岸部に並ぶ国々は、かつて欧州相手の貿易で栄えた地域で、いまもイギリス、オランダ、スペインの商館跡が並んでいる。貿易商品は、象牙海岸などという国の名前からもわかるとおり、まずは象牙、金、そしてもちろん奴隷だ。こうした商館の見所も、奴隷を入れておく地下牢みたいな穴蔵、かれらを効率よく船にのせるためのゲート、商館駐在のいわば当時の支店長さんが女の商品の検品というか味見というかを行った区画等々、奴隷関連が中心だ。この地域の各地からは奴隷がかり集められてきて、その道中の水場や休憩地、死んだ奴隷のお墓なんかが、奴隷遺跡として各地に残されている。

 さてこうした遺跡にはよく感想ノートみたいなものが置いてあって、多くの方々が白人の非道な活動に怒りを素直に表明したりしている。多くの人のイメージは、白人たちがいきなり鉄砲を持ってアフリカの村を襲い、あわれな人々を根こそぎ奴隷としてつれていった、というものだ。「白人どもは、我が同胞たちを奴隷として狩りたて、この地域を植民地として絞れるだけ絞った。アフリカが貧困なのはそのせいだ! そして現代になってもグローバリズムという新しい植民地主義の下、天然資源を買いたたき、低賃金工場でアフリカ人をこき使って収奪を続けている!」というような発想だ。そしてそれを真に受けた白人たちもそれに同調して、アフリカにもっと援助をとかなんとか言ったりしている。

 でも実態は必ずしもそうじゃない。

 それはこうした奴隷商館遺跡でも、よく見ればわかるようになっている。そこの支店長さんの日記が商館跡に展示されているんだが、その記述を見ると結構おもしろい。「ここの黒人どもは、金や奴隷がどこでとれるかちっとも教えてくれないから、こっちは連中のいいなりに言い値で買うしかない。利ざやが全然取れなくて商売あがったりだ、まったく」というような愚痴がたくさん書いてあるのだ。

 奴隷を実際に狩りたててきたのは、現地の黒人たちだったのだ。もちろんかれら自身も奴隷を使っていた。昔はアフリカの部族はしょっちゅう相互に戦闘をしていて、負けた方はもちろん全員殺されるか奴隷にされるかだったんだから。アフリカだけじゃない。中国でもモンゴルでもインドでも旧約聖書時代の中東パレスチナでも、戦争して負けたら、負けたほうの男は皆殺しにされるか奴隷になるのだ(女は強姦しまくるか後宮入りだ)。最初は余った奴隷をを白人に売っていたんだけれど、これが実によい商売になったという話だ。その売上でかれらは西洋人から銃を仕入れた。その銃でもっと効率よく他部族を狩り、それを売って儲け、その金でもっと銃を買い……というすばらしい奴隷生産スパイラルをかれらは実現していた。この地にはその頃、ダホメ王国をはじめものすごく栄えた黒人国家がいくつか出ている。みんな奴隷商売で大もうけしたのだった。

 一方、白人は気候風土や病気のため、奥地には入っていかなかった。かれらはひたすら、黒人たちが売りにくるものを高値でつかまされていただけなのだ。

 そしてかれらが買った奴隷は、各地の産業振興に活用され、現在でも通用するだけの都市インフラや富を築いた。ここでも、西洋人の商館は遺跡として現在も残っている。一方、同胞(といっても当時はかれらにそういう意識はなかったが)を売って巨万の富を得たこの地の黒人たちは――それを完全に浪費しつくしてしまった。何一つ地元に残さず、かれらの活動の跡はほんの少ししか残っていない。やろうと思えばその富で、人々のためになるいろんな活動もできたはずなのに。白人がそれをじゃましたわけじゃないんだよ。

 結局、だれがだれを収奪していたのか? そしていまアフリカが貧しいのを奴隷制のせいにできるのか? ぼくはガーナのこの商館にくるたびに考えてしまうのだ。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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