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alc2007年3月号
マガジンアルク 2007/02

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 12 回

「西の金正日」訃報に思う

月刊『マガジン・アルク』 2007/03号

要約:いつのまにか個人崇拝独裁国家になっていたトルクメニスタンの国家元首にして教祖にして奇人変人独裁者の冠たるテュルクメニバシが昨年末に死んでいた。バレー禁止とかメロンの日の制定とかメガロマニアな建築とか、メディア統制とかで一部では西の金正日と呼ばれていたけれど、豊かな資源収入で国民はそれなりに豊かで娯楽も与えていたので、国民はまったく不満を持っていなかった模様。他の独裁者に比べればましだったかも。


 昨年の年末に結構いろんな人が死んで、まるでみんな「この一年の回顧」番組に採りあげられるのを嫌がったかのようでなかなかおもしろかったのだけれど、実は世界でもちょっと変わった物故ニュースがあった。みなさんはテュルクメンバシュが他界したのを知っているだろうか?

 テュルクメンバシュってだあれ?

 テュルクメンバシュは、トルクメニスタンの国家元首にして独裁者だった人だ。本名サパルムラト・ニヤゾフ。ソ連崩壊のあと、みんなロシアやチェンチェンは見ていたし、あとはロケット発射基地バイコヌール・コスモドームのあるウズベキスタンくらいは見ていたかもしれないけれど、その他の旧ソ連諸国なんかだれも見ていなかった。その間に、同地域はとんでもないことになっていたのだった。

 もともとソ連崩壊後に普通に大統領に選出されたんだけれど、そこから即座におかしくなっていたようだ。大統領になった翌年には議会によって「テュルクメンバシュ」、つまりトルクメニスタンの元首という称号を与えられた。そしてその後はとにかく個人崇拝に基づくスーパー独裁体制をガンガンに敷きまくり、人権団体やメディアではボロクソに言われている。

 それもそうだろう。この人の独裁ぶりはとにかくすごかった。とにかく漫画に出てくる独裁者のやりそうなお笑いエピソードをすべてやってくれた、ある意味で貴重な人材ではある。たとえば、「白鳥の湖の男性ダンサーの衣装が気に入らない」という理由でバレエを禁止。「田舎の人は本なんか読まない」ということで地方部の図書館も全廃。「病人は首都に来い」という理由で、地方の病院をすべて閉鎖。女性の金歯や若者のひげを禁止。首都には50メートルごとに自分の銅像を建設。国内ケーブルテレビ全廃。大統領が禁煙をはじめたので、タバコも禁止。メロンが好物なので、メロンの日を制定。コンサートなどでの口パク禁止。故郷の村にやたらに高級ホテルだの大高速道路だのを建設。そして自分の書いた変な本「ルーフナーマ(精神の書)」を国民必読の書として配付。独裁者のご多分にもれず(でもなぜだろうね)メガロマニアで、巨大建築物が大好きで、すさまじい巨大モスクを建設(ほとんどだれも利用してない)。

 そんな具合だから、かれは一部では西の金正日とまで言われる。が、金正日とはちがうところがある。それはこの国が資源が出てかなり豊かだということだ。カスピ海沿いに天然ガスが出て、この大統領はかなり早い時期にそれを国有化した。そして上記のようなお笑い施策をうちだす一方で、まず生活必要物資の価格は統制しておさえた。天然ガスのおかげでそれなりに国民には豊かだ。国内マスコミ報道なども極度に統制されている一方で、外国の衛星放送は娯楽用にむしろ推奨されているくらい。失業率は高いけれど、生活の不安はないし娯楽はそれなりにあるので、国民も満足していてあまり不満はきかれない。また国際関係でも永世中立国を宣言して、各種資源外交もするし、日本の常任理事国入りを支持するといった安上がりなリップサービスにもきちんと配慮しているあたり、結構立ち回りもうまかったのだ。

 その意味で、この人はお笑い独裁者と思われていたけれど、一方では結構知恵者だったんじゃないかという声もある。民主主義なんかなくても、国民は食事とテレビさえあてがっときゃ幸せなんだよ、というのをこの国を見ていて思わないでもない。同じ独裁者でも、金正日のみならず、ジンバブエのムガベ大統領とかかなり妖しげな方向に向かっているボリビアとかに比べればましだったのかなあ。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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