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alc2006年8月号
マガジンアルク 2006/08

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 5 回

リサイクルとゴミ監視をするスカベンジャーたち

月刊『マガジン・アルク』 2006/08号

要約:マニラでは、ゴミ捨て場に住んでそれを漁って生活するスカベンジャーたちが大活躍している。かつてそれは、スモーキーマウンテンの悲惨な住民として喧伝されたけれど、いまやかれらはリサイクルの分別を実質的に担当し、分別の不十分なゴミについて当局に報告する相互依存関係ができている。嫌って追い立てるより、そうやって活用する手もある。


 マニラの屋台で飯を食ったことがある人はいるかもしれない。場所にもよるけれど、結構多くのところでは、連中は皿を洗わないのだ。かといって使い捨ての紙皿を使うわけでもない。何をするかというとだね、メラミン製の皿にビニール袋をかぶせて、その上に食べ物をよそうのだ。食い終わったら、残飯を(道ばたに)捨てて、ビニール袋を取り返るだけ。

 確かに合理的ではある。早いし。一応きれい(なはず)だし。テメーら人件費安いんだから、皿くらい洗えよ……とも思うんだが、皿洗いをしている屋台で使っている洗い水を見ると、うーん、ビニール袋のほうがまだマシかなあ。だがこの方式は当然ながら、大量のゴミを生み出すのである。

 かつてマニラ郊外には、スモーキーマウンテンという有名なゴミの山があった。ひたすらゴミが野積みされ、腐敗ガスが自然発火して年中煙をあげていた。そしてそこには、ゴミあさりの人々が何十万人も住み着いていた。それはそれは壮絶な光景だ。が、このゴミあさり(スカベンジャーという)は、実は重要な機能を果たしている。かれらはナウっちい言い方をすれば、リサイクル業者だ。そしてそれはとにかくもう「鬼だ!」と思うくらいのすごいリサイクルぶりだ。ゴミ運搬車が処分場にやってくると、かれらが一斉に群がる。ビニール袋、傘、段ボール、缶、びん、布、とにかくちょっとでも金になりそうなものはすべて持っていく。

 そして、そのスモーキーマウンテンの移転先にあるゴミの埋め立て地では、おもしろい試みがなされているんだそうだ。スカベンジャーたちが自治体に組織化されて、ゴミのリサイクルだけでなく、監視もやるようになっているんだと。危険物を一般ゴミに混ぜて出す不心得者は世界中にいて、なかなか捕まえにくい。ところが現在では、どのトラックに積まれてきたどのゴミにどんな危険物が入っていたか、スカベンジャーたちはちゃんと記録して、それを当局に報告する。すると政府はその不心得者の検討をだいたいつけて、おしかりが行くようになっているのだとか。もちろん、かれらのチェックを逃れるのは不可能に近い。ゴミの管理とリサイクルを組み合わせたとてもおもしろい試みがなされ、そしてそれがかなり成功しているとのこと。

 ゴミと、ゴミあさりの問題は世界中にある。十年前に訪れたペルーのリマでは、チャベス空港からのバスはものすごいゴミの山(おそらくは不法投棄)の間を通って都心に向かうのだけれど、そこにもスカベンジャーたちが暮らしている。ぼくらの感覚すれば夢も希望もない。だからついつい、ぼくたちの発想は、どうすればこういう人たちをなくせるか、というほうに向かいがちだ。国が豊かになれば自然に解決するわけだけれど、でもそれ以前に取り締まれとか追い出せとかいう人たちが必ず出てくる。日本でも、資源ゴミをホームレスが持っていく、けしからん、といって住民たちがよく騒いだりするでしょう。

 でも、取り締まってもかれらに行き場があるわけじゃない。変な取り締まり(たいがいはただの追い立て)はいじめでしかない。だったら、このフィリピンの例みたいに積極的に活用するのは非常に賢い手じゃないか。そしてそれは日本だって見習えるんじゃないか。粗大ゴミだって家電リサイクルだって、この手を使えば出す側から金を取らなくてもなんとかなるのでは、と思うんだが。

 ところで、マニラのスカベンジャーたちはビニール袋もリサイクルするんだが……あの屋台で使ってたやつは、まさかこのリサイクル品ではあるめえな。いやでも……考えないことにしよう。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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